第58話 58

58


れいちゃんいいよぉ~そうそうこっち向いて」


スタジオにカメラのシャッター音が響く。

ここは都内にある撮影スタジオ。

現在雑誌表紙の撮影中だ。

撮影されているのは、若手で5本の指に入る女優、如月きさらぎ れい、20歳だ。

髭を生やした男性カメラマンが声を上げ要望を伝え、それに答えようとれいは奮闘する。


『くっつっ辛い。でも頑張らなくっちゃ』


「はい、OK!今日も良かったよ」


「ありがとうございます」


私は心の中でホッとする。今日もなんとか切り抜けたと。

私は衣装から普段着へと着替え、マネージャーが来るのを待つ。

なっなんか疲れちゃったな。私は机の上に腕枕をして目を閉じる。


弘子ひろこ弘子ひろこ!」


なんかマネージャーの呼ぶ声がするけど、ごめん今眠いんだ。


-


はっ!?ここは何処?

いつもと違う布団と天井…病院?


弘子ひろこ気づいたのね、良かった」


マネージャーが私の手を握って声を掛けて来た。


「わっ私どうしたの?」


「楽屋で眠ったまま起きなくなったのよ。それでそのまま救急搬送で病院」


「ごっごめんなさい、迷惑かけちゃって」


「いいのよ。私も体調悪いのに無理させちゃったから」


それから病院の先生が診察に来てくれて、今日はこのまま病院に泊まる事になった。

ちなみに私が楽屋で寝込んだのが18時頃で、目覚めたのが23時頃。

明日簡単な検査をしてよければ退院との事。

……

翌朝言われた通りに簡易検査を行い問題ないと言う事で、一度事務所に帰る事になった。


「心配したぞれい大丈夫か」


声を掛けて来たのは芸能プロダクションの社長。少し髭を生やしたダンディーなおじさま。


「すみません、心配を掛けて」


「謝ることはない。誰でも体調の悪い時はあるからな。それでだ本題に入る。現状今のままでは女優業に支障が出るのは確かだ。しかし、これだけ予定が埋まっているのを反故ほごにするのは、芸能と言う訳ではなく社会人として駄目だ。と言って無理をさせるのも会社としてどうかと思う。そこで俺が考えた今後の事を話す」


私はコクリと頷く。


「仕事はしてもらうが、大幅に減らした。減らしたと言うのは先送りできるものは全て先送りした。その間に体調を治すのだが現状手立てがない。そこでだ、俺は伝手つてを使い情報を収集した所一つの希望に当たった。占いだ」


「社長気は確かですか?」


横からマネージャーが口を挟む。


「最後まで聞け」


社長の一括でマネージャーは黙る。


「占いと言ってもただの占いじゃない。病気占いだ。噂では的中率98%との事だ。そこでお前を占ってもらう、異論はないな」


「そっそれで私の病気が分かって治るのですか?」


「わからんとしか言えない。だが、その病気占いの掲示板書き込みを見る限り『神の使徒』とまで書かれている。信用ならないならお前達も見て見ろ」


社長はそう言うと社長の机にあったノートパソコンを私達の前に置き見せてくれた。

私とマネージャーは占いのホームページにあった掲示板を流し読む。

社長の言う通りにほとんどの人が感謝を記入し、そして続くのが住んでいる街への招待だった。


「こっこんな人気のある人に占って貰えるのですか?」


私は単純な事を聞いた。


「大丈夫だ。個別占いがあり、そこで予約が取れた。明日朝一で名古屋へ行く。いいな」


私は頷く。


-


翌日、私はマネージャーと共に名古屋へと降り立った。

服装はジーパンにパーカー両方ともに黒と目立たない格好。

当然帽子とマスクは必須。

名古屋から地下鉄に乗り降りた駅からはタクシーで5分程でその場所についた。

長屋の店舗の一つ。

とても皆から求められている人が居るとは思えない。

でも、私は気合を入れてマネージャーと共にドアをノックしたのだった。


*


安藤さんから携帯に連絡が来た。

個別予約が入ったと。

初めての予約に俺は胸を躍らせた。

占い当日俺と安藤さは店で待機していた。

そこへノックの音が響く。

安藤さんがドアを開けると二人の女性が立っていた。

一人は年増?の女性と一人は若いと思うが帽子にマスク姿の女性だ。


「いらっしゃいませ、お名前をよろしいですか?」


安藤さんが声を掛ける。


田口たぐち弘子ひろこで予約しています」


「承りましたどうぞ中へ」


安藤さんが店の中へ案内する。俺は店の奥からそれを見守りそして二階へ案内する。

改めて女性客と対面して自己紹介をする。


「俺がシグナルスキャン病気占い師です。田口たぐち弘子ひろこさん、女性で間違いないですね」


若い女性がコクリと頷きながら帽子とマスクを取る。

その瞬間に安藤さんが反応したが俺は特に何も思わないが、とても綺麗な女性だと思った。ちなみに俺もノーマスク、ノー仮面だ。個別と言うより知り合いじゃないから問題ないと言う事で。


「それでは今から病気占いを始めますので、しばし立つ事が可能でしたらこちらへ立って頂きたいのですが」


「大丈夫です」


女性は言うと俺の指示する場所へ立つ。

そして俺は声を掛ける。


「それでは占いを開始します。シグナルスキャン」


俺は詳細占いを開始する。


「安藤さん頭の絵を」


安藤さんは無言で俺に脳の絵を渡してくれる。

俺は記入し体へと目を移し、今度は体の絵を安藤さんからもらい記入する。

次に腕、足と見たが問題はなかった。


「終わりましたので椅子にお座りください」


女性が椅子に座り、それから説明を開始した。


「場所 頭、病名 慢性疲労症候群、レベル4.5よんてんご、黄色から赤です。よくある病気の一種だと思われます」

「場所 体、病名 鉄欠乏性貧血、レベル4、黄色から赤色」


レベルはバージョンアップだ。

俺の話を聞いた年増の女性が直ぐに声を上げた。


「病院と同じ事しか言えないの?高いお金払っているのに」


女性の目が怖い。


「お待ちください、話はまだ終わっていませんよ」


俺は女性をなだめながら口を開き続ける。


「俺達はあくまでも病気を占うだけです。ですがたくさんの人達を占いその病気の結末を集めた結果、ある程度の対処法をお伝えする事が出来ます。聞かれますか?」


俺達は体の細胞の病気に関しては何もできる事はなかったが、脳の精神的な病気に関してはお客さんにお願いして、その後をメールで連絡してもらった。お礼はお客さんの値段割引と言う形で。当然全員が答えてくれる訳ではなかったが、かなりの人がメールで詳細を教えてくれたのだ。当然だが安藤さんの案だ。


「もちろん、聞きます」


マネージャーは即答する。


「最初に言いますが俺達は医者ではありません。あくまでも病気に対しては医者へ行って指示を仰いでください。それを心に留めて俺達の集めた情報をお伝えします。慢性疲労症候群は自律神経の中枢である脳がダメージを受けることで疲労が起こると推測されます。この病気の一番の対処方は休息、つまり良質な睡眠・・が一番の回復方法になります。鉄欠乏性貧血もある事から鉄分を取っての休息が最善だと思います。ちゃんと寝れていますか?」


俺は若い女性に問うが田口たぐちさんはうつむいて答えない。


「答えはいりません。俺達は病気を占う事しかできませんので以上が占いとなります」


俺は占った結果と脳の絵にマーカーを塗った紙を渡す。


「お大事にして下さい」


ここまでが俺の仕事だ。後は安藤さんが会計を行い店の外へ送り出すのが流れだ。


「はい、確かに5万円受け取りましたので、こちらが領収書になります。ありがとうございました。もし企業でのご依頼の際は優遇させて頂きますので、よろしければ携帯へのご連絡をお待ちしております」


安藤さんの会計とセールストークも終わり女性二人のお客は店を後にしたのだった。

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