第56話 56

56


とある少し高級な料理屋にて二人の男が話合いをしていた。

一人は厚生労働大臣の五反田ごはんだ晋三しんぞう

もう一人は参議院議員の本間ほんまと言う40代の男だ。


五反田ごはんだ先生、顔を合わせるのはお久しぶりです」


「確かに顔を合わせるのは久しぶりだな。いつもは携帯のビデオ通話だからな」


「ええ、それで早速シグナルスキャンの件についての報告をさせて頂きます」


五反田ごはんだはビールを一口飲みコクリと頷く。


「シグナルスキャンには予定通り私のいとこと言う事にして、例の総合病院へと案内し詳細占いを行ってもらいました。そしてその結果を医師会の副総裁を務める男に説明しました」


ここまで言うと本間ほんまは無意識に口元に笑みを浮かべる。


「で、結果はと聞きたいがその顔だと上手く行ったのだな」


「ええ、副総裁はかなり満足していて『これが噂のシグナルスキャンの占いかと』関心なされていました」


「それで、医師会との会合は開けそうなのか?」


「それは問題ないと思われます。ただ、やはりシグナルスキャンの力を是非医師会の方で使いたいとの話が上がっています」


「ふん、医者も神の力の前では無力と言いたいのか?」


「いえいえ、彼らはプライドがありますので、あくまでも参考にとの話です」


「まあ、良い。それで医師会にシグナルスキャンをあてがえば選挙協力は問題ないとの事だな」


「はい、そこは確約できるとの事です。上手く行けば医師だけではなく製薬企業を巻き込めます」


五反田ごはんだは肩の力を抜きビールを一口のみ口を開く。


「しかし、シグナルスキャンの力は怖いな。味方であればいいが敵になれば全てひっくり返りそうだ」


五反田ごはんだ先生の見解は間違いないと思います。彼の力は政治の頂点そして世界にも通用する力です。なんとしても我々の監視下において有意義に活用する必要があると思います」


「そこまで分かっているならシグナルスキャンとあのサポート役の女、二人を完全に取り込む方法を考案せよ。お前だけで無理なら他の有力な議員も巻き込め。報酬には金ではなくシグナルスキャンが付いてくると言ってな」


「ええ、全力で当たらせてもらいます。それで現状把握をしたいのですが現在何処まで進んでいますか?」


「今シグナルスキャン達は会社を興そうとしている。そこには息のかかったブラックスマイル法律事務所を当てがった。周辺調査警戒に対しては一生笑顔スマイリー教の笑顔えがお万歳まんさいに依頼してある」


本間ほんま五反田ごはんだの話を聞き少し考えて口を開く。


「それだけでは少し物足りないかもしれませんね」


「物足りないと言うと?」


「表社会の権力と裏社会の権力です」


五反田ごはんだはしばし考える。


「警察か…警察はある程度の事であれば手を回せるが、裏は少し厄介だな。あまり表沙汰にしてはこちらがまずくなるしな」


「ならばそこだけは少し様子を見ましょう。上手い具合に事が運ぶ事もありますので」


この時二人の男達は知らなかったが、シグナルスキャン達は名古屋の西地区の南組との交流を果たしていたのだ。

五反田ごはんだ達の息の掛からない者達と。


「それではシグナルスキャンを医師会の依頼として送り込む手配をしろ。議員からのお願いや依頼と言う形でも構わん。それで医師会からはたっぷりもぎ取ってシグナルスキャンも文句が出ないようにしろ」


「わかりました。それでは奈波ななみ詩織しおり君にも動いてもらい手配をします」


「ここから少し忙しくなるか」


「ええ、先生の元には議員達の身体情報がどんどん集まって行きますので、忙しくなりますよ」


「派閥の完全掌握そして拡大、選挙そして総裁選挙の流れだな」


「そうです。五反田ごはんだ先生がこの国のトップの椅子に座る日は近いかと」


「上手くいけばいいがな」


五反田ごはんだは現状上手く行きすぎている事からの不安だった。


*


しばらくすると奈波ななみ詩織しおりさん経由で依頼が来た。

以来と言うよりも強制的な仕事と言った方がいいだろう。


依頼主 医師会

仕事場 総合病院

日及び時間 5日間・9時から15時

内容 病気の検証

報酬 50万/日


「報酬ヤバくない?」


俺は依頼を見て安藤さんに呟く。


「でも、何人見らされるか分からないわよ」


「確かにね。でもこんな美味しい依頼をくれる奈波ななみさんには感謝しないとね」


「ん~確かにそう思うけど、あまりにも美味しすぎない?」


「美味しすぎるかもしれないけど、怪しんでも俺達にはどうする事も出来ないから、とりあえずお金を貰えるんなら仕事をすればいいんじゃない?」


「もぉ~鈴木君には不安とかはないの?」


「ない訳じゃないけど不安はお金にならないからね」


「鈴木君が社長になったら悪徳社長になりそうね」


「ふふふ、気づいたかな安藤君。ふところが常に温かい社長になるよ」


俺はニヤリと口角を上げる。


「絶対に裏で悪い事する社長一直線ね」


「大丈夫、表に出さないようにするから安心してね」


安藤さんは頭を抱えて俺の元から離れて行った。

俺は心の中で安藤さんは真面目だなと思うのだった。


-


依頼当日俺と安藤さんは指定された総合病院へとやってきた。

そこに待っていたのは奈波ななみ詩織しおりさんと、参議院議員の本間ほんまさんがいた。

なぜ本間ほんまさんがと思ったがその前に医師会の人と思われる人が声を掛けて来た。


「ようこそおいでくださいました。シグナルスキャン様、安藤様。私はこの病院の院長及び医師会の総裁を務めています城之内じょうのうちと言います」


声を掛けて来たのは60歳くらいの細身のイケメンのおじさんだ。

俺達は挨拶を行い説明を受ける事になった。


「今回の検証はシグナルスキャンさんの病気占いにて何処まで病気が分かるかの検証を行います。当然全部わかるとは思いませんが、いろいろな角度から5日間に掛けてゆっくりと行いますのでよろしくお願いします」


俺は言葉を検証する。

当然全部わかるとは思いませんは、煽り文句だと思うが俺はそんな軽口に乗る程バカではない。

変な病気に対しては不明とする事は、来る前に安藤さんとの話合いで決まっているからだ。

バカではないと言ったが安藤さんのアドバイスがなければやらかしたかもしれないが…。


そして実験の日々が始まった。


まず安藤さんだが病院と言う事で感染の恐れがある事から待機所で待機する事になった。

俺が昼とか休憩時には会いに行くのでとりあえず我慢してもらう事にした。

後の話だが今回泊りになるので遠慮してもらおうと伝えたが『私はサポート役だから仕事がないからと言って帰る訳にはいかない』となんとも頼もしい言葉が返って来たので、継続してもらう事にした。


俺はマスクをして服は医者の白衣を着る事になった。

そして実験が始まったのだが、院長を始めとしてたくさんの医師を連れての大名行列のようにして病院への周回が始まった。

ちなみにこの総合病院は病棟が5から6棟程ある大病院だ。

当然中にはコンビニ、食堂やいろんな日常品を買える店まで入っているのだ。


そして俺は指示されるままの個別病室の患者に詳細占いを行う。

するとその占い結果を医師達で協議すると言った感じで進むので、占い作業としては楽な物だった。


そんな事をやりつつ日々は過ぎて行き3日目に難病病棟に来た。

現在難病と言われる物も数多くある事を知らされた。

俺はこの難病に不謹慎だが興味があった。

自分の能力で場所の特定が出来るかと言う事だ。

俺の想定では病名は出てこない可能性大だと思う。

そして詳細占いを開始した。


結果は……成功と言えば成功だがイマイチと言えばイマイチだ。

ある人はピンポイントで場所の特定に成功したが、ある人は全身がグラデーションになったのだ。

そして病名だがやはり頭の中に浮かんで来ない人が多数を占めた。

現状での難病に関しての俺の能力は特定率が20%と言う事がわかった。

やはり一か所が原因の病気なら特定が可能と思われるが、全身となってくると俺の能力でも難しいと思われる。

その中でも特に頭の病気に関しては分からない事が多かった。

やはり人間の頭と言うより脳の病気と言うのは神の力でも難しいらしい。

いや、俺に知識がないのが原因なのかもしれないが詳細はわからない。


あと、水虫のような細かな病気は検出にもの凄い力がいる事がわかった。

グラデーションがなかなか見えないのが検出に時間が掛かる原因だった。

『この人は水虫ですよ』と教えられても、中々出てこない人もいた事は確かだ。


そんな感じでいろんな発見のあった5日間は過ぎて行った。

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