第50話 50

50


俺と安藤さんは城島じょうじまさんから連絡が来たので喫茶店で待ち合わせる事にした。

俺達がいつも通りの喫茶店に行くと、城島じょうじまの隣に見た事ない女性が座っていた。

俺達は軽く挨拶をして席について話合いが始まり最初に口を開いたのは城島じょうじまさんだった。


「今日は来てくれてありがとう。先に君達から提案があった件だが、条件付きで先生から了解が得られたので報告するよ」


俺は条件付きと言うのに引っ掛かったが、まずお礼を言う事にした。


「ありがとうございます。条件は気になりますが、これで俺達も一歩前進する事が出来ます」


「お礼を言われる程の事はしていないよ。それにこれから君達には頑張ってもらわないといけないしね」


そして場が和やかになった所で条件についての話があった。


「先ほど言った条件と言うのは私の隣に座ってる奈波ななみ君を占いの席に同席させてほしい。奈波ななみ君まずは挨拶を」


女性は背筋を伸ばして挨拶して来た。


奈波ななみ詩織しおりと言います。主に事務を担当しています。よろしくお願いします」


奈波ななみと言う女性の印象は影が薄いと言う言葉が一番しっくりくるだろう。

おうとつの少ない顔、ミディアムな黒髪、そして極めつけが細い目だ。

その目なんだけど、何処までも見透かす様な目だなと思った。


「彼女は議員の先生方に精通していて、なおかつトラブル対応に長けていますので、シグナルスキャンさんの邪魔にはならないと思いますよ」


奈波ななみさんを同席させるだけ・・が条件ですか?」


「いや、もう一つある」


俺はどんな条件を言われるか静かに言葉を待った。


「占い用紙に記入した後、それとなくこの奈波ななみ君に見えるようにしてほしいんだ」


「見えるようにですか?」


「ああ、詳しくは言えないが私達は議員の監視役でもあるのでね。理解して欲しい」


俺は考えた。

正直占い結果を少し見せる程度は俺にとってなんでもない事だ。

だが、じっくり見せるとなるとお客さんに不審に思われるので、そこは確認して置く事にした。


「結果を見せるのはいいのですが、あまりしっかり見せるとお客さんに不審がられるのですが」


「ああ、見えると言ってもチラリ程度でいいんだ。時間にして1秒とかそんな感じでいい。あくまでも確認だけだから。奈波ななみ君もその程度で問題ないだろ?」



「はい、問題ありません」


奈波ななみさんは答える。


「それなら問題はなさそうですね」


俺は一安心して答えた。


「それから会社を興す件なのですが、私共が信用している法律事務所を紹介します」


「法律事務所ですか?」


「はい、会社の場合は税金とかいろんな事が発生します。それを一気に引き受けてくれる方がシグナルスキャンさん達の手間にならないと思いまして手配しておきました」


「あっそう言う事ですか。ありがとうございます」


俺は城島じょうじまさんから法律事務所の名刺を受け取る。

それから俺達は詳細な打ち合わせを行い、その場は解散となった。


-


「安藤さんは今回の事どう見る?」


俺達は城島じょうじまさん達と別れてから俺は安藤さんに聞いた。


「少し話がうますぎるような気もしないわね。それから今日の城島じょうじまさん鈴木君の事をやけに持ち上げているような気もするの。これって巧言令色こうげんれいしょく?(*1)って思えるほどにね」


「なんか難しい言葉を使うんだね」


「そうね、口八丁(*2)ではない事は確かだから、そこまでは思わないけど…」


それからしばし安藤さんは黙ってしまった。

俺の会話の中にそんな駆け引きが含まれていたのか?

俺は城島じょうじまさんと言う人間を甘く見ていたのかもしれない。

俺は今後新しく奈波ななみ詩織しおりさんと言う人と仕事をする事になるので気を引締める事にした。


(*1)相手に気に入られるように、言葉を飾り、心にもない事を言う

(*2)適当な言葉で人を惑わす


*


私はVチューバーヤミコ。

テレビ出演後のライブからこんなコメントが増えた。


『生のヤミコも見たい』


私はテレビの時の出演風景を思い出す。

あの時はテレビと言う事で、コアラの被り物をしての生ヤミコとキャラのヤミコのダブル出演だった。

あれが良かったの?

正直にみんなは可愛いキャラクターが動くのがいいと思っていたけど違うの?

私は困惑する。

だからライブ後、来てくれたみんなとトークする事にした。


「みんな来てくれてありがとう。今日はみんなに相談したい事があるんだ」


『なになに?』

『重要案件?』

『もしかして恋愛相談!?』


「実はね最近、生のヤミコも見たいってコメントがたくさんあるからみんなはどう思ってるのかなって思って」


『テレビで見たからもう一度見たい』

『ヤミコが嫌なら無理はしないで』

『毎回じゃなくてもたまにならどう?』

『私は生はなくてもいいかな』

『記念日とかに特別にやれば?』


私は最後のコメントが少し気に入った。


「今この場で決める事はしないけど、私としてはなんか特別な記念日とかならいいかなと思うんだけど」


『賛成』

『それなら特別感出ていんじゃい?』

『毎回だとあきるからいいと思う』


そんな感じで生ヤミコの出演を決めたんだけど問題が発生した。

問題はテレビの様にダブル画面での配信が困難だと言う事。

ネット回線負荷もそうなんだけど、カメラの設定が難しく設定を諦めるしかなかった。

幸いにもVチューバ―ヤミコではなく、生ヤミコのみなら問題なく映像を流せるので、記念日は生ヤミコで行こうと思う。

生ヤミコ一本と言う事で私は衣装を新調した。


今回の衣装はエアロビクスとかで使われる伸縮生地を使った物。

足の先から首まで1枚になっていて動きやすい。


そして記念日、私は生ヤミコでライブを行う。

コアラの被り物を被って、エアロビのぴちぴちの服を着てレッツダンス!


テレビ以上の激しいダンスで、それはただのダンスではなくスーパーセクシーダンスとなっていたのだった。


-


この日リアルヤミコの流した映像は、多数の心無いライブ視聴者によって録画されていた。

その映像は密かに海外のセクシーダンス映像として無断アップロードされていたのだった。


ヤミコはその情報を1週間後に視聴者から知らされる事になりヤミコは驚愕した。

しかし、顔がコアラの被り物で隠れている為、ヤミコとは気づかない者が多数だった事はヤミコにとって幸いしたのだったが、何がヤミコに火を付けたのかその日からヤミコは動画消しに邁進まいしんするのだった。。

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