第21話 21
21
俺と安藤さんは少し朝が早かったので、駅のコンビニで購入したサンドイッチを新幹線に揺られながら食べた。
お互い少し眠いせいか食後特に会話はなかったので、俺は新幹線の窓から景色を眺めながら明後日の営業で、能力を発動する時のポーズが上手く行くよう願っていた。
最初地元で試そうと思っていたが、お客から白い目?で見られた時に立ち直れないような気がしたので、たぶん今後あまり行く事のない東京で試す事にした。
右手を前に出してシグナルスキャンと言うだけのポーズは少し迫力に欠けるような気がするのだ。
ほんの少しアレンジを
そんな事を考えているとあっと言う間に東京へと到着した。
今日は金曜日の朝9時だと言うのにかなりの人がいて、荷物のスーツケースを持って移動するのに少し苦労した。
俺達は予定通り荷物を今日宿泊するホテル近くの駅のロッカーに預けてから東京見学へと出発した。
日本で一番高い塔や有名な観光スポットを見て回り東京を堪能した。
今日宿泊するホテルは明日のショッピングモールに程近いビジネスホテルだ。
当然シングルの部屋を2つ押さえてある。
俺達は明日の営業の
翌日、天気は快晴。
季節は7月で朝なのに気温が既に上がり始めているので、俺達は足早に今日の営業するショッピングモールへ向かった。
今日の場所は3階建ての3階の一番端と言う過去一番悪い立地条件だ。
場所代も4万円近いが俺はあまり気にしてはいなかった。
何処でも客が来るときは来るし、来ない時は来ないと思っているし、最低希望ラインが4万円なので気楽に行こうと考えているからだ。
俺達はいつも通りに
安藤さんの前にはとりあえずパソコンが置いてある。
安藤さんは忙しくならない限りネットの更新やスマホ用のホームページの勉強をしている。
そして忙しくなれば占い結果の説明を安藤さんが俺の代わりに行う方式をとっている。
あと、少し前から採用したのだが俺と安藤さんは腰にウエストポーチを付けている。
これはお客から貰ったお金を入れるものだ。
最初は鞄やポケットに入れていたが、少し格好が悪いと思いウエストポーチを採用した。
俺達は準備万端で店の開店を待ち、そして店が開店した。
今日の営業時間は10時~16時を予定している。
ネズミの国付近のホテルへまで電車で行かなくてはならなく、あまり遅くなると今回の目的に影響が出ると思ったからだ。
俺達は遥か遠い所で開くシャッターと上層階の駐車場からエスカレーターで降りて来る客を眺めていると、一組の家族らしき人達が俺達の店の前に立ったのだった。
人数は3人で一人は30代位の男性で後の二人は60代?位の夫婦らしき男女だ。
俺はいつも通りの対応を行い東京初めての能力の発動を安藤さんに見せる時がきた。
いつもは座ったままだが俺は椅子から立ち上がり、左半分の体を傾け左手を腰に当て右手の平を突き出すように叫ぶ。
「はぁ~ぁ!シグナルスキャン!」と。
きっ決まった。
俺は自分に酔いマスクの片隅から安藤さんを見ると、安藤さんは何故か赤い顔をしていたのだ。
俺はどう言う意味で顔を赤くしているのか分からず同様したが、取りあえず占い結果をお客に渡して最初の3人を無事終えたので、俺は勇気を振り絞って聞いて見た。
「安藤さん、さっきの俺のポーズどうだった?」
安藤さんが言おうかどうか迷いながら答える。
「あの…鈴木君…とっても言いにくいんだけど、正直あまりカッコよくないと言うか恥ずかしい…かな」
グサッ!
今俺の心臓に見えない何かが刺さったような気がした。
俺は自分にスキャンを掛ける。
シグナルスキャン、シグナルスキャン!
胸、胸の色は青色だ問題ないはずだ。
「ねぇっねぇっ!聞いてる鈴木君!」
俺は安藤さんの声で我に返った。
「次のお客さん来てるから取りあえず営業しようか」
それからも俺は安藤さんの『カッコよくないポーズ』を続けながら俺は思った。
慣れだ慣れが必要なのだ、そして『イヤよイヤよも好きのうち』と言う言葉がある。
口先では嫌がっていても実は好意?がないわけではない?
あれ?
これ、恋愛の言葉か?
俺の決めポーズにも適用されるのか?
わからん!が、適用されると俺は信じる。
信じる者は救われる…はずだ。
その後、安藤さんも諦めたのか好きになったのかわからないが、何か言ってくることはなかった。
-
「今日はと言うか東京は家族連れが特に多いね」
これは俺が昼休憩に発した言葉だ。
「私もそう思った。なんか家族で占いに来るのが流行ってるのかな?」
「どうだろうね。でも家族思いの人が多いのは確かだよね」
そんな会話をしながら昼食を取り、俺達は午後の営業を始めた。
そして少し
俺は凄く怪しいと思ったが通常通りの対応を行った。
そして占いが終わるとその男は俺に話しかけて来た。
「実は僕『ブラッキー慎吾』って名前で芸人をやっているのですが知っていますか?」
男はそう言うと帽子とマスクを取り俺に顔を見せて来た。
髪型はキノコカットで顔は4枚目?顔に点数を付けるのは申し訳ないがそんな感じの男だ。
俺は正直あまりテレビを見ないので知らないから、顔を安藤さんに向け助けを求めたが、安藤さんは顔を横に振っていた。
「すみません。俺達愛知県から来たので知りません」
男は聞くと落ち込む訳ではなく『やっぱりね』と言う感じで頷き会話を進める。
「実は僕健康オタクなので是非シグナルスキャンさんと写真を撮ってSNSに上げたいんですどいいですか?」
俺は一応芸能人だから、もしかしたら話題になるかな?と思い、安藤さんに確認すると安藤さんは頭を縦に振りOKサインを出していた。
「ええ、構いませんよ」
「ありがとうございます」
男はそう言うと座っている俺の横に来て自撮りでスマホ撮影を行った。その後お客が待っていたので、安藤さんに占い結果の説明を受け店を後にした。
俺は流石東京だなと思わず口に笑みをこぼすのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます