第36話
それから朝まで夜斗は弥生に付き添い起きていた
魘されれば手を握り、笑えば心を落ち着かせる
そんなことをしているうちに、午前九時を回っていた
「…おはよ、夜斗」
「おはよう。少しはマシになったか?」
「…少しは」
「嘘でも本当でもない、か。そうだろうとは思っていたがな」
泣いた分飲め、と自販機で購入した水を渡す
それを少し飲んでから周囲を見回し、首を傾げる弥生
「ここは…」
「駅前のホテルだ。家に戻るわけにもいかんからな」
「……そっか。私、両親を亡くした。一人になったんだった」
「……」
夜斗も水を飲んで悲しげに顔を伏せる弥生に目を向けた
また涙を流しながら、水を飲んでいく
「1人ではなかろう」
「……?」
「今は俺がいる。俺が親を亡くした時、お前が俺を支えた。今度は俺の番だ」
「…ありがと」
「存分に泣くがいいさ」
それからは話がトントン拍子に進んでいった
2度葬式を経験した夜斗の手助けにより手続きは滞りなく終わり、行政書士が持っていた遺言書に基づいて葬儀は行わずに火葬・納骨が行われる運びとなった
「手配するのはひとまず終わりだ。墓はあるのか?」
「…一応、家のはある。仏壇は置かないけど」
「俺も置いてねぇしそれは自由だろ。買うなら同棲を解消したあとでも遅くはない。墓があるならそのあたりの手配はいらないな…とすれば親戚への連絡だが…」
「連絡する義理はない。お父さんの兄が生きてるかもしれないけど、会ったことないから」
「叔父に会ったことないのか、珍しいな」
「…ロリ趣味があって、私は狙われてた。だからお父さんが会わせないようにしてたの」
「おおこわ…ゾッとするな」
手元の書類を処理しながら話を進める
珍しくメガネをかけている夜斗は、どこか真面目さを感じさせる
「…ああ、俺だ。元気か?」
『元気とは言い難いな。なんだ』
「死亡証明送れ。届出こっちで出しとく」
『わかった。それと、治療費についてだが』
「今の弥生に請求する気か?俺が払うから請求書寄越せ」
『いや、先に親御さんからもらってる。だからいらない』
「ほーん。用意周到だな」
『らしいな。…ナースコールか。悪いがかけ直す』
「いや、俺の要件は終わった。用があるならかけてきてもいいが」
『明日でいいや。んじゃあな』
夜暮が何かを看護師に伝えながら電話を切ったのがわかった
が、さして気にするべきではないと断じて作業に戻る
弥生がそんな夜斗に休憩をかねてとティータイムの用意をして声をかけた
「…助けてくれてありがと」
「構わん。俺はやられたことはやる」
「…別に私なにかした記憶ないけど」
「寄り添ってくれただろ。支えてくれていただろ。あれは俺にとって、これくらい有り難かったんだ」
火葬と納骨は今週末土曜日に行われるため、夜斗も立ち会う
合わせてメンタルケアも行う必要があるだろう
「…さて、俺は俺がやれることをやるか」
買い物に行くと言って外に出てきた夜斗は、手に持っていた茶封筒で手のひらを叩いた
大した音は出ないが、この静寂には響く
「ひとまず、あの会社を辞めるか。そして時雨の会社に入り、生計を立てる。弥生がすぐ立ち直るとは限らないから、辞める前に有休を使わせてもらおう」
去年は全く有休を使えなかったため、積立と今年分を合わせて40日分がある
それを全て使えば2ヶ月は余裕ができるのだ
「さて、ここからは俺の戦争だ」
夜斗はスマホをゆっくり持ち上げながら上司へと電話をかけた
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