第33話

「さて、本題に入るとしようか」


「おう」



目の前に並べられた料理を前に平静を保とうとするも、それらは夜斗が見たこともないようなものばかりだ

いわゆる高級食材と呼ばれるものしか使われていないように



「…食べたいのか」


「おう」


「先に食事にするか…」


「やったぜ」



年相応(?)にはしゃぎながら食事を摂ること1時間。ようやく時雨が話に入れた



「夜斗、我が社に入る気はないか?」


「我が社って、探偵社か?この歳で転職なんかしたくねぇよ」


「この歳でってまだ二十歳だろう。まだ遅くはないし、我が社であればさして今と変わらない金額は出せるぞ」


「一応…本当に念のため聞くけど初任給は?」


「手取りで25くらいになるだろうな」


「高い…。今の俺の1.5倍じゃん」



今の夜斗は総支給でも25には届かない

手取りで言えば18かそこらだ

それが跳ね上がるとすればメリットは大きい



「けど保障がねぇじゃん。保険とか」


「むしろそれを気にするには早い気もするが…懇意にしている保険会社に頼めば格安で入れるぞ。車も安く買えるし、休養施設も安く使える」


「至れり尽くせりとはまさにこのことか。なんでそんなに手厚くできるんだ?」


「単に関わるところが広いのだ。例えば政治家の汚職事件の調査やテロの捜査援護、さらには要人警護もしたりする」


「すげぇな、なんでそこまで食い込めてんだ」



一介の探偵社が政治や治安維持に食い込むことはほとんどない

それを実現するにはかなりの権力が必要となるはずだ



「この「眼」があれば捜査は容易い。要人を殺そうと企むものを見抜いたり、汚職事件であれば汚職を抱えた人間を見つけるのも可能だ」


「…「眼」って言ったか?」


「うむ。ある程度は八城から聞いておるが、夜斗も同じものを持っているだろう?」



そう言われて衝撃が走った

今までに「眼」を持つ者にあったことはなく、最近ようやく文献を見つけたばかりだ

それも、医学に精通する漣がオカルトだと断言したもの

実質見つかっていないようなものだった



「なんでそれを…」


「だから八城に聞いたと…」


「違う!何故持ってるかだ」


「知らんのか。まぁ、少し教えてやろう。私たちはそういう血を持っている。それだけだ」


「なら紗奈に使えないのはおかしいだろ。紗奈はエコーロケーションだぞ」


「正確に言うのなら特殊能力に目覚めやすい血だ。例えば夜斗は私と同じ前世返りを、紗奈は拡張五感を持つ。他にも、私の父は感覚同調を持ち、夜斗の父は強制駆動を持っていた」


「親父まで…。…まて、持っていた…?」


「うむ。この「血」については使わねば衰える。衰えた果てに、数年で消えてしまうのだ」


「衰える…。使わなすぎるとなくなる、のか」


「そういうことだ。貴様も妹も、それを使っていたから消えていないに過ぎぬ。私の父はまだ使えるが、貴様の父は亡くなる数日前にそれを失っている。だから亡くなったのだからな」


「…だから、って?」



わからないことだらけだ。聞くしかない

それでも自分が知らなすぎると感じてしまっていた



「強制駆動は如何なる状況でも肉体を思考のみで操作できる。つまり、仮に肉体が大破したとしてもやり方さえ分かれば治せる」


「…マジかよ」


「信じられんのも無理はない。事実であることは、その「眼」に映っているはずだ」



夜斗には視れば嘘がわかる

それでも本人が本当だと信じていれば嘘とはわからないが、どうやら根拠のある「本当」らしい



「根拠があるみたいだな」


「無論だ。前世返りは使えば使うほど前世の夢を見るようになる。前世を追体験し終わるまでな」


「それが作り物である可能性は?」


「だとすればこの世界も作り物だな」



それほどリアルだ、ということになる

断言してみせた時雨の色に嘘はない。根拠もいつもなら弱いと断ずるが、今日ばかりは気分的にそう言えなかった



「…転職は考えておく」


「いいだろう」



その一言で会話を終えた時雨を見てため息をつく

時雨の所作は以前より上品になっていた

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