第25話

約1時間後。夜斗の自宅のテーブルには、これでもかというほど料理が並べられていた

料理を作ったのは霊斗だ。家族に作るために育てられた調理技術をフルに使い、合計7品を短時間で作成した


そして冷蔵庫に入れられているのは夜斗が精密計量器を用いて作ったケーキと、八城が作ったミックスジュース



「…すげぇ、なにこれ…」


「これは簡単にいうとポルシチだな。ロシアでよく食べられてるやつ。こっちは青椒肉絲でこれが麻婆豆腐だ。でピザはまぁ、小さいけどオーブンで作れるからやってみた。これは…まぁ、どっかの郷土料理だ」


「オーケーそこまでにしよう。尺を取る」


「ミックスジュースはほぼ青汁だが、飲みやすくしてある。我が家の必須アイテムだ」


「相変わらずその技術高いなお前。昔もやってたし」


「私は必死に設営してたわ。紙リボン作ると童心に帰れていいわねこれ」



と4人が話すように、会場もといリビングは大きく変身させられていた

新婚の結婚記念日か?と突っ込まれそうな様子だ



「食いきれないから残れよお前ら…」


「あ、俺と莉琉は帰るぞ。明日も仕事だし」


「公務員共め…」


「俺は…いてもいいけど気まずいしな」


「ヘルプ・ミー雪菜ァァァ!」



スマホに飛びつき電話をかける

数秒で出た雪菜を自宅へ呼び出し、ちょうど八城と莉琉が帰るそのタイミングで到着した



「ありがとう雪菜…マジでこの恩は忘れんわ…3日間」


「その間に買い物付き合ってくださいね、先輩」


「背に腹は代えられない…。よし、6人いれば食い切れるだろ。俺単体で2人分食えるし」



時刻は午後6時を過ぎた頃。煉河は紗奈と弥生の送迎で一緒なのでなかば強制的に巻き込まれることが確定している



「…紗奈さんが駐車場に到着したそうです!」


「総員配置につけぇ!」



夜斗の号令で他4人が動く

それぞれに向けて投げられたクラッカーを移動しながら受け取り、紐を外してリビング入口で構える

夜斗は「眼」を用いてエレベーターがこのフロアに着いたことを確認し、電気を消した



「カウント。5…4…3…2…1…」



夜斗のカウントの直後、玄関のドアが開かれた

弥生と紗奈、無理やり連れてこられた煉河が玄関からリビングへ向かってくる音が全員に聞こえる

そしてリビングのドアが開かれるとほぼ同時、夜斗が小さな声で合図を告げクラッカーが放たれた



「っ!?な、なに…?」


「ハッピーバースデーだ、弥生」



口々におめでとうと言われて困惑する弥生

背後にいた紗奈と煉河も、いつの間にかクラッカーを手にしている



「…どういう」


「俺の時派手にやられたからな。人を集めてもっと派手にした」


「…なるほど。夜斗のセンスが伺える」


「やめて心に来るから。提案者は莉琉だけど」



霊斗が電気をつけ、食卓に並ぶ料理を誇らしげに語り始める

苦笑いしながら紗奈も荷物を兄の部屋へと置いてリビングへ入った



「すごい…。夜斗、人望あるんだ…」


「なんかすげぇ傷つくなそれ。やられたらやり返す主義ってだけだ。さぁ飯を食うぞ!6人がかりなら食い切れるだろ多分」


「…結構量ある。お米いらないかも」


「ハナから炊いてねぇよ。米も入れたら流石の俺でも食いきれないからな」



いつもは一言も喋らずに終わらせる食事も、これだけ人が集まれば和気藹々と進んでいく

弥生はその騒がしさに翻弄されながらも、どうにか楽しんでいるらしい



(…いい色だ。弥生からこんな色が出るとはな)


((とか思ってんだろうなぁ…知らんけど))



思考が噛み合った霊斗と煉河が顔を見合わせニッと笑った



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