誕生日の喧騒

第16話

「祝え!我が誕生日だ!」


「うるせぇな…ほらよ」


「おおぅ、マジであるのな…」


「もらったからその分返す…ってのも3回目だろ」



時が流れ1月末。夜斗の誕生日になった

今は霊斗の誘いでラーメン屋にきており、食べ終えた直後だ



「いやぁ…マジでもらえるとビビるよな」


「そうかぁ…?」



夜斗は約一ヶ月前、霊斗に誕生日プレゼントとしてパソコンのガジェットを渡していた

尚、霊斗はパソコン未所持のためそれを使うことはできない



「うわ使えそうで使えねぇ!」


「いつもだろそれ…」



今回もらったのはスマートホームリモコンだ

しかし夜斗が今住む家はスマートホーム対応家電ではない

が、後にこれを大きく活用することになることは2人共知る由もない



「ちなみに夜斗、上手くやれてるのか?」


「利害関係に上手くやるもなにもないだろ」


「俺まだ何を、とはいってないんだけどなぁ?珍しく不安なのかなぁ?」


「クソ嵌められた!」



コップの中の水を一息に飲み干し、音を立てて机へ置く

マナーが悪いとされてしまうだろうが、仕方がないと割り切った霊斗だった



「で、なんなんだ?」


「…なんか、最近無意識にやよ…橘を目で追ってる気がしてな」


「お前が橘さんを名前で呼び捨ててるのは知ってるが?」


「雪菜め…。まぁいい、だから俺の心理に何か異常が起きたのかと思ってな。赤の他人を目で追いかけるのはやばいだろ」


「そうかぁ?別に街中で可愛い子がいたら目で追うだろ」


「それとこれとは別の話だ。わかってんだろ?」



目を向けるでもなく問いかける



「当然。お前がそういうときは、その「眼」を使って追ってるときだ。医学的な目じゃなくて、な」


「よくわかってるじゃねぇか。つまりはそういうことだ。今まで大して使ってなかった「眼」をわざわざ使って弥生を視ている。それが俺としては問題なんだ」



ピッチャーから水をついでまた一息で飲み干す夜斗

心做しか焦っているのが手に取るようにわかった



「仲睦まじくていいことじゃねぇか」


「なわけあるか。俺はともかく、弥生はそんなことを求めてない。利害関係だといいながら、俺は弥生を女性として見始めてしまっている」


(つまり、自分の心に整理がつかないのか。橘さんが求めていないことをしてる自分を諌めながら、初めて告白される前に好きになりそうだ…って)



温かい目を向ける霊斗を一瞬睨んだが、すぐ手元に視線を戻した

コップを揺らし、水が渦を巻く様子を眺める



「逆に聞くけどお前はどうしたいんだ?」


「…俺?」


「あえて今傷口に塩を塗るけど、今までまともな恋愛をしたことがないだろ」


「……まぁな」



ぶっきらぼうにそう答えて窓の外へ顔を向ける夜斗



「大抵告られたから付き合いました。でも相手が好かれてる気がしないってんでフラれました、ってのがお前の高校生時代の恋愛だ。中学の時は1人を除き付き合ってないし、それも罰ゲームで告られたやつだろ」


「…よく覚えてるな。俺の黒歴史のトップ・オブ・ザ・ライフ」



夜斗にとっては恋愛というものが黒歴史でしかない

中学生時代は告白されたから付き合った。が、罰ゲームの告白だったがためにそれをネタにされた

高校生になってからは手にしたSNSでは何故か人に好かれやすく、告白されて付き合い、好かれてる気がしないと別れた

つまりは、夜斗から人を好きになったことが1度たりともないのだ



「まぁ拗ねるなって。そんなお前が今、共同生活を送る上で同棲相手に興味を持ってる。それ自体は悪いことじゃあないと思うぜ?」


「…そうなのか?」


「ああ。けどそれは、向こうからしたら「身内の視点」だ。だから向こうがどう思ってるかは知らないし、知る意味もない」


「まぁ、な」



霊斗からすれば夜斗の恋愛など、興味がないとまでは言わずとも管轄外だ

あくまで相談には乗るが、最終的には自己判断。そう考えている

それは夜斗も同じだ。だからこそ、霊斗に相談することにしたのだから



「もしお前が橘さんに「好かれたらどうだ?」と聞けば色を見てわかるかもしれない。けどそれは得策とは言えない。もし「嫌だ」と言われたらお互いに不幸だからな」


「…そうだな。だから聞いてない」


「いい選択だよ。その場合どうするべきか、だな。俺の場合神崎さんの思考は全く読めない。色も見えないしエコーロケーションで心臓の音なんかを聞いて把握することもできない」



夜斗は色を見ることで嘘かどうか読み取ることができる上、さらに深く見ればどの程度の嘘なのかを見破れる

エコーロケーションを持つ紗奈も、心臓の鼓動を含む体の音を観測しある程度見破ることはできる

しかし、あくまで普通の人間である霊斗はそれができない



「だからこそ、俺は俺がやりたいと思うことをするんだ。相手に好きになってもらいたいからこう動こう、とか相手をわかりたいから反応を伺おうとかな」


「…それは…わからないでもないが…」


「今までやったことがないお前からすれば、かなりの難易度だな」



笑う霊斗は、相変わらず夜斗の考えを読んでいた

付き合いももう6年目になり、会わない月などない

だからこそ嫌でも互いを理解し、色がなくても大抵のことはわかるようになっている



「…なら、どうしろってんだ」


「手探りだよ。俺もそうだし、今までもそうだった。恋愛なんて手探りで、相手を伺うのが先決だ。その結果から学習するしかない。目的があればやりやすいけどな」



好きになってもらうために行動するのは、割と可能だ

しかし夜斗の場合は弥生を好きなのかも、弥生が好かれても良しとするかもわからない

自分の目的すら手探りで、最終的には確定させる必要がある



「ま、なんとかなるさ!」


「いたっ!?」



席を立った霊斗が物理的に背を叩き、恨みがましい目を向けながら夜斗も席を立った

多少表情が和らいだようにも見える



「…ありがとな」


「いいってことよ。今まで世話になってるし、これからも世話してもらうからな」


「…御免被りたいとこだが、親友の好でやってやる」



レジに向かいレシートを店員に差し出す

直後、財布を出していた霊斗がフリーズ。錆びついた機械のような動きで夜斗を振り返った



「…お金貸してくんね?」


「…はぁ…。十日五割な」


「コンビニいけば卸せる」


「わーったよ…」



そういうところは変わらないな、と肩をすくめながら財布を出す夜斗

細かいものがなく、五千円札を出してわざとらしく最敬礼をする霊斗を鼻で笑った



(珍しくまともなこと言うから、おかしくなったかと思ったぜ。けど、俺の親友は親友のままだったな)



外に出て自転車にまたがり、最寄りのコンビニへ向かう2人は、少年のように笑いながら夜の闇へ消えていった

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