第5話*記憶の中の男の子

「あ、あの、み、みさ? 大丈夫?」


 焦りながら心配そうに覗き込んでくる、男性の視線にハッとし、顔を上げ、男性をじっと見つめる。


「え、えとあの……ごめんなさい、まだ頭が混乱してて。その髪は確かに見覚えがあります……小学生の時に不思議なお花畑で出会った王子様みたいな男の子と一緒で……」


「そうだよ。俺がその時の子≪シリウス≫だ。思い出してくれたみたいで嬉しいよ」


 シリウス……そう、確かにそんな名前だったはず……だけど、こんな急にまた会えるものなの? あんなに探しても何処にも居なかったし……


「シリウスさん、ごめんなさい。私、あの時の事は断片的にしか覚えていないの。……あなたが嘘を言っているとは思えないし、この石の事も私から話した訳でもないのに知っていたから。でも……」


「でも?」


 シリウスは私の顔を真剣に見つめながら、話を聞いてくれている。


「……実は小学生の頃、あの不思議なお花畑に行った後、目が覚めると病院のベッドの上でした。だから、これもまた夢で何処かで目が覚めて現実に……って思ってしまうんです。だって、今までいくら探してもいなかったし、いきなり現れて魔法みたいに髪の色が変わるとか、何だか現実離れしてて……分からなくなっちゃいました」


 そう、こんなのまた、夢に決まってる。さっきあんな事があったから、現実逃避しちゃったんだ……きっと……


 そう思うと、また涙が出てくる。


 そんな私を見て、シリウスは優しく頭を撫で『抱き締めても良い?』って聞いてきた。


 どうせ夢だし……そう思いながら頷くと、シリウスは私を優しく抱き締める。


「みさ、信じられないかもしれない……けれどこれは夢ではないんだ。俺、みさに会いたくてずっと探していたんだ。見付けるまでには随分時間がかかったけれど、みさがこの石≪ホシノカケラ≫を大事に持っていてくれたからもう一度会うことが出来た。ありがとう、ずっと大切に持っていてくれて」


 シリウスから離れ、ペンダントの石を持って見つめる。


「これが……本当に夢じゃないの? 私があの時見た、あのお花畑も? 本当にある場所なの?」


「ああ。あのお花畑は俺の国にあるよ。今から連れて行ってあげたい……って思っていたけれど、今のみさ、きっとそれどころじゃないよね? ここで泣いていたのも何か事情があるはず……もし、良かったら聞かせてくれる?」


 シリウスがそう言うので、今日あった事を話した。


「そか……それはショックが大きかったね。けれど、出ていった事を気付いたお父さんやお兄さんはきっと心配してるよ。もう、今日は帰った方が良いね。辺りも薄暗くなってきたし」


「うん、心配してるよね。ましてやお兄ちゃんの誕生日に飛び出すなんて私、何て事を……ありがとう、シリウス。私、帰ってちゃんと話すね」


 でも、帰ってしまったら、またシリウスには会えなくなるのかな……せっかく会えたのに……


 そんな私の気持ちが伝わったのか、シリウスが優しく微笑み、私をまた優しく抱き締める。


「みさ、心配しなくても、次はちゃんと会えるから。今度の日曜日、お昼にまたここで待ってる」


「今度は会えるのね。嬉しい……シリウスありがとう! またね!」


 まだ少し一緒に居たいけれど、シリウスもまた会えるって言ってくれているし、信じて別れを告げる。


「心配……してるかな」


 あの話は本当なんだろうか……養子……って考えると、本当はまだ、帰るのが怖い……だけど、ちゃんと話さなきゃいけないよね……そう決心し、家へと急いだ。










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