第5話 闇神と取引
『……取引? 人間、それも生贄風情が何を言う』
闇神は怒りを言葉に含めながら、魔力を解き放つ。神の魔力をただの人間が浴びれば卒倒してしまう。けど、俺にはこの4年間で積み重ねた闇属性の魔法がある。
【深淵喰らいの鴉】
魔法を自分にかける。
深淵喰らいの鴉。ゲームでは一定のターン闇属性、状態異常、スリップダメージなどを無効化し、それを受ける度自身の魔力に変換するというものだった。
この効果はこの世界でも変わらない。発動している間は俺に闇属性は効かず、闇神が解き放った魔力は全て俺の物へと変換されていく。
『何をした人間。人間風情が我の魔力に耐え切れるはずがない』
「キヒヒヒ……アハハ、キャハハハハハハハハハ!!!
聞いたかラインハルト!! 神がよりによって何をしたか? だとよ!! 教えてやれ!」
歯牙にもかけないといった様子だったのに、声音から訝しんでいるのが滲み出ているぞ闇神。
闇神の魔力を得たおかげか、ラインハルトの本能は愉快げにこう言う。
【分からないのか? 神の目をもってしても見えないのか? それとも混ざり物ゆえに気を取られたか?
俺たちは器だ。本来の不出来な状態とは違うゆえ、俺たちはお前の力を許容する】
その声、その言葉。ラインハルトの本能は闇属性の取得と共に本来の物へと近づいていった。
そして今、闇神の魔力を得たことでラインハルトの本能はほぼ原作時と変わらない状態まで形を取り戻している。
【この場において俺たちとお前は対等だ。このまま魔力を俺たちが喰らい尽くせば、お前はここにはいられないんだろう?】
『……人間がなぜそれを』
闇神が驚いたような様子でそう口にした。
この知識はこの世界ではなく、俺が転生前に得たもの。
神は人間界には干渉できない。さっきみたいに大規模な儀式を執り行うことで、神をこちら側に呼び出す。
ここは今、呼び出されている最中。ここで俺が生贄となって、命を捧げることでようやく闇神は人間界に顕現するのだ。
それだけでは無論俺たちは対等ではない。なんせ闇神にメリットがないもんな今のところ。それは俺の口から言おう。
「闇神、お前は眷属を欲しているだろう。お前も俺たちもあいつらも大して変わらん。どいつもこいつも何かが欲しくて欲しくて仕方がない。違うか?」
『……だとしたらどうという?』
……よし! 話に食いついた。いい傾向だ!
この世界の神々が求めるのは自由だ。
神は絶対的な権能と力の代償に自由を失っている。だから人に加護を与える代わりに、人を眷属にする。眷属が多ければ多いほど、眷属の魔力を使って神は人間界に顕現できるからだ。
けど神にとってもっと効率のいい話がある。
「お前は分かっているはずだ。俺たちが器であるということを。闇神の力を許容し、引き出すことができる存在だと」
そう、それが器という存在。
器は眷属よりも遥かに神に与える影響が大きい。眷属の力を借りて顕現するには何十人と必要だが、器であれば一人で事足りる。
さらに器と神は表裏一体。器が成長すると神としての格も進化する。力が極限まで強まった神は……。
「器を通して神としての力が強まれば、単独での顕現も可能となる。それを成した神は未だにたった一柱だけ。
お前たち神は絶対的な力も権能もあるが、それを振るう場所がない、自由がない。宝の持ち腐れだ。だからこそ躍起となって眷属を、器を欲する違うか?」
『お前のいう通りだ。我々には自由がない。我々は自由を欲する。お前ならそれを与えられるとでも?』
後一押しと言ったところか。
大丈夫。俺には転生前に得た知識、4年間で取得した魔法、そしてその期間ですり合わせた知識とこの世界の常識からなるこの世界への認識がある。
俺ならこの闇神を俺のものにできる。そう、今、確信した。
「もっとだ。刺激をくれてやる。自由だけなぞ、悲しいことを言うな。あらゆる生物の中で人だけが識ることができる刺激。脳汁が出る、全身が震える、歓喜する! それをシステムでしかないお前にくれてやる。だから……」
【だからお前は俺たちに力を寄越せ。闇神の力、俺たちが効率よく使ってやる。さあ、どうする闇神?】
ナイスタイミングだラインハルトの本能!!
その言葉はシステムでしかない闇神に深く突き刺さる。
闇神が悩んでいるのが感覚でわかる。
神は本質的にはシステムに近しい。自由がないということは、そこから生まれる感情もないということだから。
「自分たちに比べれば弱く、脆い人間。だが、自分たちには決して手に入らぬものをいくつも持っている」
【それが自由であり、感情であり、刺激だ。
つまるところお前たちは人が羨ましいのだ。人の世界に立ちたい、自身の絶対的な力を持ちながら】
「俺たちが舞台を用意してやる。だからお前はここまで降りてきて、俺に力を寄越せ。それが取引の内容だ」
「【さあどうする?】」
ここまでは賭けだ。ここで闇神が乗るかどうか。それに全てがかかっている……!!
本来は俺の知識だけで闇神を誘う必要があった。けれど、ラインハルトの本能が思わぬ進化をしてくれたおかげで、本来ラインハルトが持っていた話術まで即興だが組み込んだ。これで乗らなければどうするか全力で考えなくちゃならない。
『…………お前の提案、魅力的だ。それに我——私は混ざりもののお前に興味が出てきた。いいだろう。お前の口車に乗ってやる』
……よっっっし!! 恐らくだけど最大の難関は乗り越えた!
だが油断はできない。そう教えてくるかのように闇神は言葉をつづける。
『器としての強度、闇への理解、共に完璧と言える。どちらかが欠ければ不完全であったが、その歳にしては見事な完成度だ。
だが、私が望むものは大きいぞ? 私を満足させなければその時は……』
「言うな。取引に応じてくれた以上、俺は成すべきことを成す。それに俺たちの人生は中々に愉快だぞ」
なにせまだ見えているだけでも二つ。
カルファン本編が始まれば無数の爆弾というか……破滅への分岐路があるからだ。
これを乗り越えていくのはさぞかし刺激的だろう。……多分。
『キヒヒヒ……キャハッ! キャハハハハハハハハ!!!! こう笑うのだろう? 人間というのは。まるで先がわかっているような言い方、ますます興味が深まった! たしかに退屈はしなさそうだ』
ラインハルトの笑い声をコピーされてるーーーー!?!?
それになんか知らんけどハードルが上がった気がする……。
まあでもどのみち破滅回避のためにはやるざるを得ない。破滅回避のためだけに解釈違い、善人ムーブやるなんてありえないと決めた以上、俺は悪の道を貫くしかないのだ。
こんなハードルいくらでも飛び越えてやる。
『先ずはお前に力を与えて返してやる。私の顕現には少し時間がいる。それまでに済ませるべきことを済ましておけよ?』
「当然だ」
『よく言った。では受け取れ、闇神の叡智、闇神の力を』
俺の身体に見えない何かが流れ込んでくる。身体の内側から漲るような大量の魔力、そして知識。
それと同時に周囲を覆っていた闇が晴れていく。どうやら闇神の領域から俺は出たようだ。
ブラッディギアス邸の宙に現れて、五体満足に着地した俺を周囲の人は信じられないものを見たと言った感じに驚愕している。
宮廷魔導士の何人かは咄嗟に戦闘態勢を取っている。
さて……ここからどうしたものか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます