世界と都市を線引いて

「終わりにしよう

終わりにしよう」

 その都市の掛け声に反唱して

「ここは現実だ

 君の愛は嘘じゃない」

 僕はファシストの寂しげな一人言を

 うわごとのように思い出しながら呟く

 

 ここには昨日と明日があって今日はない

 終わりを見失い寝過ごし続ける

僕の眠りを覚ますための

 デジタル時計はもうなくて

 砂時計の時間割が音もなく

都市から出られないと告げる


 僕らには昨日と明日があるからわかるのだと

 言いたいが、今日がないのでいつも言えずじまいで

もうすべて決めてくれないのだという

 ファシストの歓喜とマルキストの嘆きが代わりに聞こえて

 そろって彼らをここが「千年都市」だとよばせる

 しかしパリにはエッフェル塔が200年もなく

 しかしモスクワにはソヴィエト宮殿があるのは

 歓喜は55年を節目に爆破する現実語りで

 嘆きは1000年続かない都市の夢語りだ

 どちらも同じだ、都市は変わってしまう


 「また誰か都市の外へ迷い込んで入って行ったらしい」


都市は線引く

 消え消えに都市の掛け声と共に

 一人ずつ夢と現実の線引きをしては

都市の外へ入って消えていく

 話すことないままに

 彼らは突撃して死ぬか入っていって死んだ

それを見届けるのがよいのならよかったと思うままに

今日がないことも

続いてよかったと思えばいいのに

僕は都市から出て行けずじまいだったから

信じられない都市の愛を見つけるために

僕はここを現実だと思うことにしたのだから

やはり僕はここから出るには出られなかった


僕だって、いつか入れる都市の外に

空を感触として触れたい

太陽に目を焼かれる痛みを感じたい

夜に沈んだ海に声をかけたい

だけど、死ねるのならずっと死んでいたい

 万歳と叫べば僕は死ねるのだろうか

 幸せになれば僕は死ねるのだろうか

 そう思うと僕は世界に向けて線を引いてしまう

 都市の外と世界の外

 その境界を見つけた時、ここはどこだろうと思い

 都市に倣って線を引いた


 ここまでは昨日と今日

 ここからは明日

 

 たった一つの嘘のために都市は僕を隠してしまう

 都市で響いたのは

  声ではなく

   夢ではなく

    死ではなく

     生でもなく

      ただ、温もりで

それでぼくはここにいる

疑い終わり見つけた今日が来る日まで

僕は線を引き続ける

 ここでの愛を都市が信じられるまで

 ぼくはここにいる

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