第84話 偉い人①
「だから言っているだろう! あいつらがドラゴン・タートルを街に引き入れたのだ!」
――遠くの方で、ディルクが衛兵に向かって怒鳴り散らかしている。
……なんか聞き捨てならないことが聞こえた気がするんだが?
「あそこにいるノエルとクローディアという二人組が今回の事件の首謀者だ! 早く捕らえろ!」
「し、しかし……彼らは街のためにドラゴン・タートルと戦ってくれたのですが……」
「貴様、衛兵の分際で私に意見するのか!? 私はフェルスト家嫡男ディルク・フェルストだぞ!?」
「そうよそうよ! 大貴族様に逆らうなんていい度胸ね!」
「……」
凄いなお前ら……。
逆にそこまで徹底的に厚顔無恥になれるのは敬意すら覚えるレベルだわ。
一周回って拍手を送れるよホント。
――よし、死なそう。
「慈悲はない。キゾク殺すべし」
人を虫ケラのように扱って顧みず、
自らを絶対強者と信じて疑わぬ者たちを、
逆に恐怖のどん底に叩き落として蹂躙する。
なんと心地良い体験なことだろう。
ノエルは、スピカの瞳に映るキゾクが自分自身の姿であると理解した。
彼は、キゾクを殺すキゾクとなったのだ。
キゾクスレイヤーに!
「イヤ――――ッ!」
「グワ――――ッ!?」
ディルクの顔面に強烈な右ストレートを叩き込む。
俺渾身の一発を受けて、彼は綺麗に弧を描きながら吹っ飛んでいった。
「ふぅ、ようやくちょっとスッキリした」
「ディ、ディルク様!? 大丈夫!?」
「き、貴様、よくも……! こんな真似をしてタダで済むと――!」
「思ってない。でもお前らはやっぱり許せん。止めないでくれよ、スピカ?」
「きゅーん……」
まったくもう、しょうがないんだから……。
と、ポキポキと拳を鳴らす俺を遂に容認するスピカ。
彼女も内心では相当怒っていたのだろう。
大丈夫だよ……キミの手は汚さないからね……。
俺が直接殺るから……うふふ……。
「い、いいいい度胸だ……! おい衛兵、見ただろう!? こいつがドラゴン・タートルをけしかけた張本人だ! ひっ捕らえろ」
「――ほう、ではそのドラゴン・タートルは誰が用意したのかね?」
「そんなのこいつに決まっているだろう!? わかり切ったことを聞くな!」
「では今回の件に、フェルスト家とビュッセル商会は一切関与しておらんと」
「そう言ってるでしょ!? 一体さっきからなにを……聞い……て……?」
「おやおや……おかしいなぁ、ばあさまや。”元老院”では両家の間で大きな取引があったと聞いたのだが」
「そうですねぇ、じいさまや。私もそう記憶しておりますよぉ」
「もし嘘を吐いているのだとしたら、これは重罪に当たるかもしれんなぁ、ほっほっほ」
「私たちのバカンスも邪魔されてしまったことですし、誰かに責任を取ってもらわないとですねぇ、うふふふ」
――ディルクの背後から現れた、お揃いの
彼らは明らかに騎士と思しき、数名の屈強な護衛に守られている。
そんな厳重警備の老夫婦を見た瞬間、ディルクとアルベナは真っ白になるほど顔から血の気が引き、ブワッと冷や汗を垂れ流す。
まるでこの世の終わりを見たかのような表情だ。
だが驚いたのは俺も一緒で、思わず目を見開いて丸くしてしまった。
だって――
「あ、あ、あなた方は……!」
「元老院”最高議長”ヴァルター・ボーレンハイム閣下に、その奥方様カサンドラ・ボーレンハイム夫人……ッ!」
なんの前触れもなく、俺たちの前に現れたおじいちゃんとおばあちゃん。
彼らは――この大陸で最高の権力を持つ元老院、その最高議長席に座る老紳士とその奥様。
つまり実質、大陸で
ダンプリにもチラッと登場して、偉い人ムーブをかましていた記憶がある。
……ゲームでは
その権力は当然絶大で、デイヴィス学園長すらも上回っている。
――いや、なんでそんな偉すぎる人がこんな場所におるんや!?
粗相があったら首が飛ぶなんてレベルじゃない人たちが、目の前におるんやけど!?
こっっっっっわ!!!
俺も冷や汗止まらんわ!
「あ、あ、あの、これは……!」
「ばあさまと『ハンプール』で幸せな休暇を過ごしておったのに、まさかこんなことになるとはなぁ」
「この事件の原因がどこの誰にあるのか、調べればすぐにわかりますよ。両家の当主には、しっかりと事情聴取しないといけませんねぇ」
「う、ううぅ……ッ!」
「ちっ、ちがっ……私は関係ありません! 悪いのは全部このディルク・フェルストです!」
「ア、アルベナ……!? なにを……!?」
「わ、私は無関係です! ビュッセル商会は脅されただけで、で、ですからお許しを!」
「……! 貴様ッ、ふざけるなァ! ドラゴン・タートルでクローディアたちに意趣返ししようと言い出したのは、そっちの方だろうが!」
「うっさい! 知らないわよ! アタシは悪くないわ!」
ヴァルター最高議長の御前で罪の擦り付け合いを始めるディルクとアルベナ。
こいつらはホント……最後まで救いようがないなぁ。
そんな二人を見ていたカサンドラ夫人はにこやかに笑い、
「うふふふ、お若いのに往生際が悪いですこと」
「衛兵、彼らを拘束なさい。街を危険にさらした重犯罪容疑で、今後裁判にかけるのでなぁ」
「は……ハッ!」
最高議長直々の命令を受けた衛兵たちはすかさずディルクとアルベナを拘束。
手の平を返して態度を硬化させた。
「さあ、キリキリ歩け! 逆らったら容赦せんからな!」
「なんでよぉ……どうしてこうなったのおおぉ……!?」
「ク、クローディア! 助けてくれぇ!」
「ディルク……」
「私が悪かった! だから頼む!」
最後の最後、あろうことかクローディアに向かって懇願するディルク。
そんな情けない彼の姿を見て、
「……申し訳ないのだけれど――寝言は寝て言ってくださるかしら、"元"婚約者さん?」
「なっ……!」
「もしあなたも
「チ、チクショウ……チクショオオオオオォォォッ!!!」
衛兵に連行され、どこかへと連れていかれた二人。
そんな彼らを見て、俺から一言。
「ざまぁ」
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