第61話 フレンの実力①


 調教場にやって来た俺たち一行。


 スピカはいつものように俺の肩に乗り、フレンはクローディアの頭に乗っている。


 彼はどうやらあのポジションが気に入ったようだ。


「うぅ……頭が重いですわぁ……」


「きゅわっ、きゅわっ♪」


 フラフラと歩くクローディアと、ピクニック気分で楽しそうなフレン。


 まさに母と子って感じ。


「それにしてもノエル……ワイバーンの赤ちゃんって、そんなに凄い実力あるの?」


 不思議そうな顔で、ロゼがそんなことを聞いてくる。


「ん? 凄い実力って?」


「だってさっきの言い様からして、そう思うじゃない」


「確かに。でもワイバーンの赤ちゃんがそんなに強いって想像できませんねぇ」


 ソリンもなんだか腑に落ちないご様子。


 俺は彼女たちの先を歩き、


「ああ……。まあ、見てればわかるよ」


「「?」」


「俺はどうしても、クローディアに”今のフレン”をちゃんと知っていてほしいんだ」


 そう言って――開けた場所までやって来る。


 そして実力の比較チェックも兼ねて、スピカとフレンには地面に降りてもらった。


「それじゃ二人共、今からこのボールに向かって”攻撃”をしてほしい。OK?」


「きゅーん!」


「きゅわっ!」


 やる気十分のドラゴンたち。


 勇ましい上にかわいい。

 眼福眼福……。


「それじゃまずスピカから。――それ!」


 取り出したボールを上空へと放り投げる俺。


 次の瞬間――


「ぐるるる……ぎゅーん!」


 ピゴーッ!と〔ファイヤ・ブレス〕を発射。


 〔炎〕属性レベルが12まで上がった彼女の一撃は、以前調教場で同じことをやった時よりも破壊力抜群。


 炎のビームは野太くなって攻撃範囲が広くなり、直撃を受けたボールはジュッと一瞬で蒸発した。


「うわぁ……」


「スピカちゃん、本当に強くなったわね……」


 スピカの〔ファイヤ・ブレス〕を見て驚くソリンとロゼ。


 対して、


「ふ、ふん! それくらい大したことなくてよ! 私のフレンならもっと凄い大技が出せるはずですもの!」


 対抗意識を燃やして張り合おうとするクローディア。


 相変わらずマウント取りたがるんだから。


「さあ、見せておやりなさいフレン! あなたの実力というものを!」


「きゅわっ!!!」


「じゃ――どうぞ」


 続けてフレンの実力を見るべく、俺は二球目のボールを――地面へと置いた。


「きゅわっ!」


ペシッ


「きゅわっ!!」


パシッ


「きゅわーっ!!!」


コツンッ!


 ――ボールに対して、美しい連続頭突きコンボを叩き込むフレン。


 それを受け、ボールはコロコロと遠くに転がっていった。



「「「…………」」」



「おぉ~、いい攻撃だね! 生まれたばかりなのに凄いじゃないか!」


「きゅーん♪」


「きゅわ~っ」


 きっちり褒め称える俺とスピカ。


 それほどでも~。

 とフレンもまんざらではない様子だ。


「あ……あの……ちょっとよろしくて……?」


「ん? なんだいクローディア?」


「今のって、あ、遊んでただけ、ですわよね……? 絶対に”攻撃”ではありませんわよね……!?」


「いや、明確な”攻撃”だったな。ドラゴン調教師テイマーの俺が言うんだから間違いない」


 そう教えてあげる。


 次の瞬間――彼女は膝から地面に崩れ落ちた。



「よっっっっっっっっわ過ぎですわあああああぁぁぁぁぁッ!!!」



 調教場に、悲しい叫びが木霊する。


 ……だがそんなクローディアに対し、俺は確かな実感を得ていた。


 だって今この瞬間、彼女はワイバーンフレンのことを知ったのだから。


 たった今――”クローディアによるフレンの育成”が始まったのだ。

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