第36話 言わんこっちゃない
「え……?」
「ノ、ノエルさん!?」
驚くロゼとソリン。
俺はマシューへ向かって言葉を続け、
「残念だが、そのドラゴンの飼い主が俺って噂はデマだ。俺は忙しいロゼ様に代わって飼育を任されただけの、ただのモブさ」
「きゅーん!」
そうだぞ、バーカバーカ!
と息を合わせてくれるスピカ。
ああ――これでいいんだよな。
ありがとう、スピカ。
「な!? うっ、嘘をつくな! ロゼが眷属を手に入れたなんて話は一度も……!」
「アンタが知らなかっただけじゃないのか? 俺たちにとっては周知の事実だったけど? なあソリン」
「ふぇ!? そ、その、そうですね! 私も知ってましたとも!」
よーし、ナイスだソリン。
キミは空気の読める子。
このままダメ押ししてしまえ。
「デ、デタラメだ! 証拠はあるのか、ロゼの眷属だという証拠は!?」
「ある。ロゼ様の肩にホワイト・ドラゴンが乗っているのが、なによりの証拠だ」
「――ッ!」
「アンタもドラゴンを従える身なら知ってるよな? 彼女たちはとても気高い生き物だって……。自分の主人以外には、そう易々と触らせてもくれない」
――事実、初めてスピカがロゼと会った時は激しく威嚇した。
生まれたばかりで人見知りしてたっていうのもあるだろうけど。
俺が仲介しなければ、ロゼとスピカが仲良くなるにはもっと長い時間を要していたはず。
それだけドラゴンは警戒心が強いのだ。
むしろスピカは、ドラゴン全体の中でも一際人懐っこい方だろう。
ロゼと会話ができて、波長が合ったっていうのもラッキーだったな。
――そんな俺の発言を聞いたシュガー&ソルトは、
「な、なにおう!? 飼い主以外が触るなんて、こっちのアース・ドラゴンでもできらぁ!」
マシューの傍に佇むアース・ドラゴンに二人して触ろうとする。
しかし、
「ブオオォ」
バチンッ!
「「ぎゃああああああああああああああああああああッ!!!」」
アース・ドラゴンの長い尻尾に弾き飛ばされ、空の彼方へ消えていった。
あーあ、だから言わんこっちゃない……。
「……これで証明されたな」
「む……ぐうううぅぅッ!」
反論の術を失い、苦虫を嚙み潰したような顔になるマシュー。
これで二人の立場は対等。
マシューが一方的にアリッサム家の家督継承権を主張するのは不可能となった。
今の話を一族会議の場まで持ち込めば、ヴェルドーネ家はともかくアリッサム家は必ずロゼを支持する。
そもそも他家の婿養子なんて、保険でしかないのだから。
勝ちを確信した勝負を振り出しに戻してやったぜ。
ふふーん、ざまぁみろ。
さて――どう出る、マシュー・ヴェルドーネ?
「…………ク、ククク……! そうかそうか、これは予想外だったなぁ……!」
苦し紛れなのか、引き攣った口から笑い声を漏らすマシュー。
そして――
「い、いいだろう! 我らの立場は対等! ならば――このマシュー・ヴェルドーネとロゼ・アリッサム、どちらがより優れた竜騎士なのか決めようではないか!」
「! それって――」
「ああそうとも! ――"決闘"だッ!!!」
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