第14話 ルシアとフレア

 突然、部屋の中に現れた美青年に家族全員、メイドたちも驚いている。


『フレアボロスよ。迷惑をかけて悪いな』

「いえ、それは構いませんが、クロノルシア様がこのような個人的な場に姿を現すなど、随分と珍しいものを見れました」

『ハハハッ。お主がわざわざ説得に来てくれておるのだ。当事者の我が見て見ぬ振りはできぬよ。それに我が説明した方が早いと思ったからな』

「それではお任せすることにしましょう」


 ルシアが僕たちの方を向いて話しはじめた。


『我は名前をクロノルシアという。火龍フレアボロスの友人であり、訳あって人間界を旅しておる。

 レアンデルとはフレアボロスに会いに行く途中で偶然出会う機会があり、フレアボロスのところに連れて行ったのが知り合ったきっかけだ。そして我がなさねばならぬその旅にレアンデルを連れていきたいのだ。

 ――理由はレアンデルに己の中に眠る力のコントロールを覚えてもらいたいからだ。我ならばその方法を教えることができる。それがレアンデルのためとなり、ひいては周りのためともなろう。許可してくれぬか?』


 父上が突然の事態に驚きながらもルシアに答える。


「クロノルシア様と言われましたな。正直、何が起きているのか分からない状態でございます。しかしながらフレア様も旅の同行を勧められており、何よりも本人が強く望んでいるようです。旅の理由もレアンデルに必要なことだと思います。――マリアはどう思う?」

「私はあなたの判断に従います。それに今のレアンデルの魔力を見ても、力の使い方を覚えることはとても大事なことだと思います」

「そうだな。昨日からレアンデルの魔力が増大している。今日そのことをレアンデルに聞くつもりだったが、聞かずとも理由を察することができたな。クロノルシア様、今のレアンデルもあなたが導いてくださったのではないでしょうか?」

『ほう。ランバートだけではなく、母親のマリアまでレアンデルの魔力を見透していたのだな。そのとおりだ。今まで抑えられていた魔力をほんの少し解放してやった。旅の過程で力のコントロールを覚えればさらなる高みが見えてこよう』

「やっぱりレン兄さまはすごいのですわ! もっともっとすごくなられるのですから、私も兄さまに負けない努力をするのですわ!」


 リルが憧れの眼差しで僕を見つめてる。いや、火龍様がこっち見てるから自重しとこうか?


「クロノルシア様。それではレアンデルのことをお頼み申します」


 父上と母上が頭を下げながらルシアに旅の了承を伝えた。了承というかむしろお願いしている形だな。


「レアンデル、しっかりと学んでくるのだぞ」


 父上が僕をじっと見つめて、少し寂しいような表情を浮かべ、そのあと微笑みながら僕に告げてくれた。


「はい、父上。心身共に鍛え、成長して帰って参ります」


 ――あれ? なんか今すぐにでも旅に出発する感じになってるけど、旅にはいつ出発するんだろう? あと学園は辞めちゃうことになるのかな? 旅がどれぐらいの期間か分からないけど、授業についていけなくなっちゃうな。


「レアンデルよ。旅に行く話が決まり、色々な疑問や不安が出ておるな? クロノルシア様も私もおることだし、何でも尋ねるがよい」


 ナイスタイミングで火龍様から質問のチャンスをいただけた。もしかして火龍様って心が読めるとか?


「それではお聞きしたいのですが、いつ旅に出発するのかを知りたいのと、父上に学園はどのようにすべきかを教えていただきたいです」

『そうだな。旅に出るのは早ければ早い方がいいが、例えば今日出発しなければならないほど切羽詰まっているわけでもない。お主が心配しておる学園のことが片付いてからでもよいぞ?』

「それではランバートではなく私が答えよう。昨日ライアンと話をしてクロノルシア様とレアンデルが旅に出る了承はもらっている。

 その了承とは学園のことだ。レアンデルは学園のことを気にしていた様子だったからな。特例として旅の期間は登校免除とし、旅の終了時に復帰を認めるとライアンが約束した。学園のことは気にせず旅に出るがよい」


 火龍様に学園のことを考えてもらっていたなんて。こんな根回しをしていただけるとは思ってもみなかったよ。

 それにしても僕のためにすごい特例を作ってくれるものだな。確かに火龍様のお願いを断れる人はこの国にいないと思うけど、そんな特例を作れるのかな? もしかして……。


「火龍様がライアンと言われているのはライアン=ウェスタール王のことでしょうか……」

「そうだが? 王立学園のことは王族に話を通すのが一番早いであろう」


 なんか話がどんどん大きくなってきてる気がする。いや、気のせいではないな……。


『よし。当面の問題は解決したようだな。それでは他に問題が無ければ旅の準備を含め3日後に出発したいと思う。それでよいか?』

「僕は大丈夫です。父上、それでよろしいでしょうか?」

「もちろんそれでよいが……私からも王に報告をしておこうと思う」

『それでは決まりだ。レアンデル、明日と明後日はしっかりと学園で勉強をするのだぞ。そして旅では心身の鍛錬は当然だが、勉強も我が教えるから安心せい。学園でどの程度のものを教えているのかは全学年分の全ての教科を一通り把握したからそこらの教師よりよほど上手に教えられる。それに人族の世界で教えていないことも龍族の世界では教えているものがたくさんあるから、お主に叩きこんでやろう」

「よ、よろしくお願いします」


 ルシアは学園見学でそんなところまで見ていたのか。魔力操作の教え方も上手だったし、ルシアの授業って意外と面白いかも。


「それでは話はまとまったようだし、私は帰ることにしよう。クロノルシア様、色々とお任せすることになりますが、よろしくお願いいたします」

『気にするな。我が好きでやってることだ。お主は大龍穴の管理を引き続き頼むぞ』

「かしこまりました。それでは」


「お待ちください! 火龍様!!」


 僕は帰りそうになった火龍様を引き留めた。


「先日お会いした時はお礼をお伝えできていませんでした。

 火龍様、僕に加護を与えてくださってありがとうございます。おかげで少しずつですが魔力の操作を覚えていくことができています。僕に眠っている力のことはよく把握できていませんが、きちんとコントロールできるようになることをお約束します。本当にありがとうございました」


「フフッ。律儀なやつだな。お礼の言葉はありがたく受け取っておくぞ。ランバートよ! 良い息子に育てたな」

「はっ! ありがたいお言葉恐れ入ります」

「さて、それでは失礼する」


 そういうと、火龍様は玄関から出て、人の姿のまま飛んで行かれた。龍ってあの姿でも飛べるんだな……。


 僕は火龍様を見送りながら、旅の出発が決まったことを考え、不安と期待に胸を膨らませていた。

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