第24話


「……すげぇなこりゃ。どうなってんだ?」


 屋敷の外に放置されてしまったランザだったが、すぐにレイナイトが迎えにきて屋敷の中へと入れてくれた。

 『忘れるなんて酷いじゃねぇか』とレンに詰め寄ったが、『寝ている貴様が悪い』と、その主張はレイナイトに切って捨てられた。


 そして、レン達に連れられて一際豪華な扉の取り付けられたとある一室に入ったランザは、目の前の光景に目を丸くして驚いた。


「ここは一応俺の部屋だ。と言っても殆ど使わないがな。」


 レンは扉の前で尻込みするランザを置いて、中央に敷かれた真紅の絨毯の上を歩きだした。

 真っ直ぐに敷かれたその絨毯は、数段の階段を登り、美しい見事な装飾が施された荘厳な佇まいの一脚の椅子まで続いている。


「いやいやいや、明らかに広さがおかしいだろ。あれか?また旦那の空間魔法か?」


「そうだ。この屋敷の部屋は大抵俺の空間魔法で広げてある。ヴァイゼルでも苦労せず過ごせるように、かなり広めに作ったんだがな。それでも何かと足りなかったんだ。」


 ランザはあまりレンの話が入っていないようで、『へぇー』と適当な返事をしながら周囲をキョロキョロと見回している。


「さっさと入れ。」


 レイナイトに尻を蹴られ、ようやっと部屋の中に足を踏み入れたランザは、フカフカの絨毯の感触に『すげー。』と語彙力をなくしながらもゆっくりと足を進めた。


 レンはそのまま足を進め、階段を登ると、その先にある椅子に迷う事なく腰を下ろした。


「ここからの景色も数年ぶりか。やはり実家は落ち着くものだな。」


 感慨深そうにそう呟いたレンだったが、レンに続いて階段に足をかけようとしたランザがレイナイトに首根っこを掴まれて部屋の端に連れていかれるのが視界に入り、思わず笑ってしまった。


「阿呆か貴様は。反逆者として叩っ斬るぞ。」


「えっ?なんだ?」


「そこで黙ってじっとしていろ。」


 レイナイトの指示に従い、ランザは部屋の端に立ち、そのまま様子を伺う事にした。


「(いったい何が始まるんだ?)」


 レンの座る玉座。

 その下では、レイナイトを含め一緒にやってきた六人が等間隔に間を開けて横に並び、片膝をついた。


「むっ、少し遅れたか。」


 扉を開けたヴァイゼルはそう一人ごちると先にいた六人と同じように、その列に並んだ。


「我が主よ。我等の眷族・・・・・にも、主の帰還を知らせたいのだが、宜しいか?」


 ヴァイゼルの言葉に、レンは鷹揚に頷いた。


「構わん。」


「有り難き。」


 レンが許可を出すと、七人それぞれの背後に転移門ゲートが開き、そこから多種多様な魔物達が静かにゆっくりと出現し始めた。


「(……おいおいおいおい。眷族の眷族ってなんだよそれ。それに、どいつもこいつもバカみたいに強ぇ。俺じゃあ一体も落とせねぇぞ。)」


 次々に出てくる強大な力を持つ魔物達が、この広々とした空間を埋め尽くすと、それぞれの転移門ゲートが閉じられた。

 所狭しと並んだ魔物達は、一切口を開くことはなく、静かに並んで待っている。


 ランザがその埒外の光景を戦々恐々として見つめる中、レンの声が響いた。


「皆、待たせたな。」


 たった一言。

 レンがそう言葉をかけると、爆発するように魔物達の雄叫びが轟いた。


 ランザは驚き腰を抜かし、その異様な熱気に飲まれてしまう。


 すっとレンが右手を挙げると、先程まで空間を支配していた轟音が嘘のように消え去り、元の静寂へと戻った。


「拠点はこちらへ移したが、向こうとも繋げてある。自由に行き来してくれ。お前達の力が必要になればまた呼ぶこともあるだろう。その時は頼んだぞ。」


 また、雄叫びがこだました。


「(……魔王・・……)」


 ランザはこの時初めて、聖王国の狂信者達の名付けに納得し、少し尊敬してしまった。


『ランザ、こっちに来い。皆に紹介する。』


 頭に直接響いたレンの声で、ハッと立ちあがろうとしたランザだったが、足に力が入らなかった。


『……すまん。腰が抜けてたてねぇ。』


『はぁ……情けないやつだな。』


 レンが徐にランザに指を向け、それをクイッと動かすと、ランザの体が浮き上がり、そのままレンの真横まで滑るように移動した。


 ランザの登壇で再び静けさを取り戻した魔物達に向かってレンは口を開いた。


「こいつはランザだ。元は人間だったが、今は俺の眷族となった。宜しくしてやってくれ。」


 ランザに一言言わせようとしたレンだったが、顔を引き攣らせ盛大にビビりまくったランザの様子を見て、小さく溜息をついてまた元の位置に戻した。


「もう一人新たな眷族がいるが、また機会があれば紹介する。」


 話は以上だと、レンはヴァイゼルに視線を向けた。


 その視線を受けたヴァイゼルは、一つ頷き再び転移門ゲートを開いた。

 それに続くように他の六人と転移門ゲートを開くと、魔物達は大人しくその中へと消えていった。


「(とんでもねぇ人の下についちまったなぁ……)」


 ランザは内心でそう考えながら、目の前の光景を見つめていた。

 自然に口角が上がっているのに気付かぬまま。

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