第22話
「……呪いか。数百は贄として殺したか?」
マグナルの執務室を出たレンは、その足でとある一室に訪れていた。
何重にも張られた結界や数々の罠をスルーして辿り着いたこの部屋では、一人の男がベッドの上に寝かされていた。
意識はなく、顔色もかなり悪いその男——シーガルド王国国王、アーガイア・フォン・シーガルド——を一目見たレンは、その身体に纏わり付く悍ましい呪いに、僅かに顔を顰めた。
「【
レンはアーガイアに右手を翳し、解呪の魔法を発動した。
すると、アーガイアの身体から部屋を覆い尽くすほどの黒い霧が噴出し、次いでそれが一塊となって耳障りな奇声を発しながらレンに襲いかかった。
レンはそれを、何もせずにその身体で受け止めた。
「……お前らは俺が使ってやる。感謝しろ。」
レンは顔色の良くなったアーガイアの顔を確認した後、黒い渦の中に消えていった。
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「あれを解ける者がいるとは……」
蝋燭の火のみが辺りを照らす薄暗い一室で、長い金髪で豊満な胸の先を隠した女がベッドに腰掛けてポツリと呟いた。
「ラベリア、何あったのかい?」
ベッドの上で横になっていた少し汗ばんだ貴公子然とした青髪の男がその女——ラベリアに声をかける。
ラベリアはニコリと笑みを浮かべてその男——シーガルド王国王太子、レオナルド・フォン・シーガルドに視線を向けた。
「いいえ、殿下。何でもありませんわ。」
ラベリアは身体を倒し、レオナルドにしなだれかかった。
「何かあれば遠慮なく言っておくれ。私は君の味方だからね。」
レオナルドはしなだれかかってきたラベリアを抱きしめながら、耳元でそう囁いた。
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次の日、エスエリア侯爵城の客室で目を覚ましたレンは、メイドの案内で食堂に向かった。
昨夜は様々なことがあった為、結局客室で夕食を取ったので、食堂に行くのはこれが初めてだ。
「待たせたか?」
「いえ、
レンが食堂に入ると、ミカルドとカトリーナの二人が既に食卓についていた。
カトリーナがニコニコと笑みを浮かべており、その対面に座ったミカルドはレンを視界に入れると硬い表情で軽く頭を下げた。
レンはそれに軽く手を振って答えると、若い執事が引いた椅子に腰を下ろした。
「マグナルはどうした?」
レンが席についてすぐ朝食が運ばれてきたが、この城の主人が座るべき場所にマグナルの姿はなかった。
「夫は緊急の連絡が入ったと言って朝一番に王城へ向かいましたわ。レン様に『この礼は必ず。』と伝えるように仰っていましたが、何かあったのでしょうか?」
「気にするな。たいした事ではない。」
レンは探るようなカトリーナの視線をひらりとかわし、朝食に手をつけた。
それから暫く、カトリーナは久々にミカルドと食事を取れるのが嬉しいらしく、ミカルドに次々と話しかけながら食事を進めていた。
ミカルドはそれに応えながらも、時折レンの方に視線を向けていた。
「ところで、他の皆様は来られないのかしら?」
カトリーナは不意にレンに向けてそう問いかけた。
「あぁ、あいつらには少し仕事を頼んだからな。もうこの城には居ないぞ。」
「いつお戻りになられるのかしら?」
「さぁな。仕事が終われば戻ってくるだろう。」
レンは食事を終えたレンは、用意されたナプキンで口を拭うと席を立った。
「さて、俺は用事があるから先に行く。久々の親子水入らずを楽しんでくれ。ご馳走様。」
レンは背後から突き刺さる
案内を申し出たメイドに連れられて客室へと戻ってきたレンは、ハンガーにかけられていたローブを羽織り、
「おう。待ってたぞ、レンの旦那。」
人間の姿ではなく元の姿で座るランザの周囲には、無数の魔物の死体が散乱しており、少し離れた場所には一際大きな真っ黒に焼け焦げた塊から煙が上がっていた。
「ここがそうか。」
「あぁ、ここがシーガルド王国の南に位置する魔境——イステカリア大森林、その奥地だ。」
昨夜、ランザに人の寄りつかない場所はあるかと尋ねたレンは、このイステカリア大森林の事を教えられた。
ここは周囲を六か国の国境と接する広大な森であり、強力な魔物が跋扈し、複数の領域主が存在する魔境である。
森に存在する豊富な資源を求めて、過去幾度となく様々な国が開拓に乗り出したが、その魔物の多さと強さを前に大損害を喫し、今やどの国も手を出す事を恐れる事実上の禁足地となっている。
そんなイステカリア大森林はレンの目的に都合が良かったようで、レンはエスエリア領城に到着したばかりで一息ついていたランザに命令し、魔物の間引きと土地の確保を命令した。
ランザはその命令を受けて顔を引き攣らせながら『冗談だろ?』と返したが、レンから返ってきたのは『早く行け。』の一言だった。
ランザは命令に従い、文字通り空を駆け抜けて最短距離でこの大森林にやってくると、その奥地にあたるこの場所にいた領域主とその眷族を相手に夜通し戦闘し、この土地の支配権を確保したのだった。
「ご苦労。ここの主は強かったか?」
「いやー、強かったぜ。さすがにこの場所で自分の領域を持ってるだけはあったな。レイナイトさんとの修行がなけりゃ負けてたかもしれねぇ。」
ランザは相当疲れていたようで、そのまま大の字に寝そべってグーグーとイビキをかき始めた。
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