第19話


 擬態を解いたランザの姿に興奮したカトリーナがベタベタとランザの身体を触ったり、あまりに激しい戦闘訓練に、自ら参加を申し出たアマンダが白目を向いて気絶したりと、なんだかんだありながらも、合流した二日後の昼過ぎに、目的地であるエスエリア領領都であるサバルの街に到着した。


 巨大な門を抜け街に入ると、そのまま大通りを抜けて街中央に聳え立つ城に向かって進んでいく。


「凄いな、これは……人の多さも、街の規模も、クウォタリアと比べ物にならん。」


「ここ、サバルの街は国で一・二を争う広さを持ちます。それに、海の玄関口であるクォタリアからも比較的近いですから、人も物も多く集まるのですよ。」


 そう、ミカルドはレンに説明した。


「成程な。これ程の街を治めているとは、ミカルドの父は中々の重鎮のようだな。」


「父は侯爵家の当主ですから。それに、軍務大臣でもあります。国の軍部のトップですね。」


 『ほぉ。』とレンは感心した様に声を漏らした。


「以前は王都に詰めていましたが、今は長男のグラントに殆どの仕事を任せてこちらに戻って来ているそうです。そろそろ代替わりするつもりなんでしょう。」


「ふふっ。ミカルドちゃんの言う通りですよ。今はグラントの試験中だと、あの人が言っていたわ。」


 その後少しの間雑談に興じていると、竜車は立派な城門を潜り、ゆっくりと速度を落として停車した。


 ミカルド達に続き竜車を降りたレンを出迎えたのは、両脇に整列した騎士達と、中央に佇む一人の男だった。


 二メールは有ろうかという長身に、服の上からでも分かる鍛え上げられた体躯。グレーの髪を後ろに撫でつけた壮年の男は、鋭い視線をレンに向けている。


「ようこそ、我が城へ。私がミカルドの父、マグナル・フォン・エスエリアだ。遠路遥々よくぞ参られた。歓迎しよう、レン殿。」


 レンはその男——マグナルの視線を受け止めながら、差し出された手を握り返した。


「レンだ。宜しく頼む。」


 握手したまま、両者無言の時が流れる。

 数秒後、マグナルは握手した手の力をゆっくりと緩め、レンの手を離した。


「……私では、相手にならんか。」


 マグナルの言葉に、周囲の騎士達に動揺が走った。


「そうだな、お前では相手にならん。今のランザとならいい勝負が出来るかもな。」


 そう言ってレンが後ろにいる人の姿に擬態したランザを指差すと、マグナルもそちらを向いた。


「確かに、今の・・ランザ殿ならば互角以上に渡り合えるかもしれんな。」


「誇っていいぞ。あれも俺の眷族だからな。」


 レンの傲慢不遜な物言いにも、マグナルの感情が揺らぐ事はなかった。


「貴殿とは良き友でありたいものだ。」


「あぁ、俺もだ。敵対せず済むよう祈ってるぞ。」


 そう言って今度はレンが右手を差し出した。

 それを見て、マグナルは少し口角を上げその手を握った。


「あなた?いつまでこんな所でお話ししているつもりですか?」


「あぁ、そうだな。済まない、カトリーナ。私も随分緊張していた様だ。……レン殿、それにお連れの方々も、中へ案内しよう。」


 そう言ってマグナルは踵を返し、城の中へと足を進めた。


 城の中は質実剛健といった雰囲気のマグナルらしく、華美な装飾は殆どなく、品のいい品々がが所々に置かれていた。

 レンは『センスがいいな。』と内心感心しながらマグナルの後ろをついていく。


「ここだ。入ってくれ。」


 レン達が案内されたのは二部屋が繋がった広々とした客室だった。


「暫しこちらでゆっくりと過ごされよ。私は先にミカルドの報告書に目を通すのでな。夕食はこちらで用意するが、構わんか?」


「あぁ、遠慮せず戴くとしよう。」


「承った。では後ほど。」


 そう言ってマグナルはカトリーナとミカルドを連れて部屋を後にした。


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