第6話 これが日常に

今日も長い長い授業を終えて家に帰ると、いつものようにダラダラと漫画を読んでいた。

正直勉強しないとやばい、という事は頭では分かっていても、後でやろうと後回し症候群が出てしまう。

後でやろうとダラダラしていると、いつの間にか午後の6時になっていた。

はぁ~もうこんな時間かダラダラするとすぐに時間が経っちまう。

こういうのやめた方がいいんだろうなと、脳内反省会をしていると、ピンポーンとインターホンの音がして現実に戻った

そしてそのインターホンを押したのが誰かなのか、薄々気づいていたので、心の準備して扉を開けた。

本当に今日も来てくれるんだ。


扉の前には、食べ物の入った袋を持って立っている伊吹さんがいた。


「本当にご飯作ってくれるんだね」


「何言ってるの?昨日も作ったじゃない」


いや、はい。その通りでした。

俺はまだ伊吹さんがご飯を作ってくれることを理解出来ていなかった。


「池田くん。早くご飯作りたいから入っていい?」

 

「う、うん、どうぞ」


こうしてこんな美少女をまた、家にいれてしまったのであった。



その後伊吹さんの後を追う形で部屋に戻ると、伊吹さんが今日買ってきたであろう食材を、冷蔵庫に丁寧に閉まっていた。

俺は財布から2000円を取り出して、伊吹さんの後ろに行った。

昨日、今日の食費ってこんなもんかな?

スーパーで食料品を買った事が無いのでよく分からない。


  

「これ食費だ。受け取ってくれ」



俺が伊吹さんの後ろからそう声を掛けるとチラッと後ろを見てで「3000円」と言ってきた。


え?あーね。3000円よこせってことね。

俺は、さっき閉まった財布をポケットから出して、1000円札を1枚取り出して伊吹さんに渡した。

だが伊吹さんは、何を勘違いしてるの、みたいな表情をした。


「違うわよ。この食材を買った時の値段が3000円。だから半分でいいから。2000円も受け取れない」


「は?なんだよ。そういうことね。伊吹さん主語つけてください」


最後に少し伊吹さんに文句を言いながらお金を渡す。


「このくらい察してよ」


冗談混じりに伊吹さんが言ってくる。


「無茶言うな。俺は人の心を読む特集能力なんて持ってない」


「冗談よ。お金は1500円でいいよ」


「いや2000円受け取ってくれ」


だが俺が2000円を渡そうとすると伊吹さんは「私の言った事が理解出来ない?」と真顔で聞いてくる。


「いやな、伊吹さんは料理作ったりするの大変なんだから黙って受け取れ」


そう言うと「それもそうね」とあっさり納得してくれた。

てか伊吹さんって結構毒舌強め?

 

「伊吹さんその喋り方が本当の感じなの?」


なんか日本語がおかしい気もするが、こんな感じのニュアンスでしか疑問を言葉に出来ない。


「その喋り方?本当の感じ?別に意識してるつもりないけど」


「マジで?学校で喋ってる時は、もっと柔らかくない?」


「あー、多分それは…あなたを舐めてるのかも」


「そう言う事か。……ってどういうこと??」

 

 えぇ?俺舐められるの?


「冗談よ。学校も慣れてきたらこんな感じになるわよ」


「でもそんな感じなら、あまり緊張しなくて済むかもしれんからありがたいわ」


「なんか失礼ね」




伊吹さんは今ご飯を作ってくれている。

さっきは緊張しなくて済むかもしれんと思ったが、やはり美少女と部屋で2人っきりとか緊張しない訳無い。



そして俺はさっきまで読んでいた漫画を片付けて、参考書を机に出すが、眺めているだけで料理ができるのを待っていると、伊吹さんがキッチンから呼んできた。


「料理出来たから持ってってくれる!」


「わかった。今行く」

 

俺はそう返事をして、全く参考にならなかった参考書を閉じてキッチンに向かった。


 


キッチンから料理を運び、机に並べるとお互いが向き合って席に着いた。

並べた料理は、生姜焼き、サラダ、みそ汁、ご飯というメニューだ。

多分このメニュは一般的な家庭では、普通に出てくるようなメニューだろうけど、俺が生まれてきてトップクラスに豪華なメニューだ。

料理を見てテンションが上がったおかげで、さっきまでの緊張は完全になくなっていた。


「伊吹さんはやくたべようぜ!」


だが俺がそう言った時には、伊吹さんは静かに手を合わせていた。


「げ!食べるなら一言言えよ」


「だって池田くんずっと料理見て食べようとしないから、先に食べてもいいかなって」


「だってこんなに美味そうで、豪華なんだぜ。少しは見とれるだろ」


「美味しそうって言ってくれるのはうれしいけど、豪華は大袈裟じゃない?」


確かに、そうだよな。俺から見たらすげぇ豪華だけど、伊吹さんからしたらこれは普通なんだ。

何とか誤魔化さないと。


「いや違うんだ。1人暮らし始めてからってことだよ」


ふぅ何とか誤魔化せたか。

だがなぜだ?伊吹さんが悪い顔をしている。

なんでそんな顔を?

だがその疑問はすぐに解決した。


「あら、池田くんも主語が無くてわかりずらいって言われない?」


うぜぇー。誤魔化そうとしたらブーメランになった。

ああー もうしらね。

俺は敗北を認めてご飯をかきこんだ。

 



2人ともご飯を食べ終えて、俺は洗い物をしていた。リビングに戻ると伊吹さんはまだ帰っていなくノートを開いて勉強をしていた。


「伊吹さん勉強しているの?」


「うん、最近引っ越しの準備とかで中々出来てなかったからね。てか池田くんは勉強してるの?」


「いやそれが全くしてなくて」


今の高校に入ることが勉強のモチベーションになってたのだが、その目標が無くなって勉強のやる気が全くでなくなってしまっている。

まぁ、ただの言い訳だけど。

伊吹さんはなんか虫を見るような目で見てくる。

え?怖いんだけど。


「…日ごろから勉強しないと」


伊吹さんは先生みたいなことを言う。

まぁ確かに前のテストも散々だったしな。

俺はそれにたいしてこう言うしかなかった。


「できるだけ、頑張ります」



俺がそう言うと荷物をまとめて伊吹さんは「じゃあ帰るね」とすぐに立ち上がった。

そして2人で玄関まで向かった。


「今日ありがとな。すげぇ美味かった。」


「どういたしまして。じゃあまた明日」


また明日か……伊吹さんもいつかは居なくなる。

俺も料理くらい出来ないとな。

こんなことを頭の片隅で考えながら伊吹さんにこう言った。


「また明日」






















 

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