第2話:ルカ 第5章

「えっ、レフ!?」

 すっかり冷えてしまった夕食を、祖母の魔法で温め直してから、改めて美味しくいただいた後。自室に戻ったルカは、慌ててベッドに駆け寄った。

 オスライオンのぬいぐるみ・レフが、サイドボードから転がり落ちている。

 拾い上げてほこりを払い、どこも汚れたり破れたりしていないことを確認して、ルカはようやくホッと胸を撫で下ろした。姉が作ってくれたぬいぐるみは、あちらの家族を思い出す、たった一つのよすがだ。出来るだけ綺麗なまま、大事にしていきたいと思っている。

 ――しかし、なぜ落下などしていたのだろう。昼過ぎに出掛けた時は、いつも通りサイドボードに座らせていたはずなのに。もしかしたら、翼竜よくりゅう達の咆哮で家全体が激しく揺れた時、振動で落っこちてしまったのかも?

「…………」

 つぶらな瞳をじっと見詰めてから、ルカは思わず、鼻の先をレフのおでこにちょこんとくっつけた。可愛さのあまりの行動だったが、テンションが上がっていたというのも否めない。祖母に斥候隊せっこうたい加入を認めて貰えた喜びで、ルカの口元は食事の間も緩みっぱなしだった。それを眺める隣の席のベリンダ、向かいに座るユージーンも、全員が終始ご機嫌な状態で過ごしたのは言うまでもないだろう。

 ベリンダは、ルカを斥候隊に正式に加入させるにあたって、1つ条件を出してきた。

『闘う力のないあなたを守ってくれる人を、私以外にあと3人連れて来ること』

 それならば、充分に当てはある。ベリンダはきっと、既にルカの成長を認めてくれており、このやさしいお題はあくまでも体面上のものであるに違いない。

「――よし!」

 己を鼓舞するように声に出して、ルカはレフをサイドボードの定位置に戻した。乱れてしまったたてがみを整え、名残を惜しむかのように指先で頭をつつく。

 ――明日から、早速スカウトだ!

 希望とやる気にメラメラと心をたぎらせながら、ルカはひとまず入浴を済ませるべく、部屋を後にする。

 その様子を、レフのスチロール製の無機質な瞳が、じっと見詰めていた――。




第2話 END

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