妹の部屋に突撃し続けたら、段々デレてきた件

あかせ

第1話 押してダメなら引いてみろ!

 「理沙りさ。お兄ちゃんが遊びに来たぞ~」

俺は理沙の部屋の扉を、ノックせずに開けて突撃する。


「兄さん…。『用事があるならノックして』っていつも言ってるよね?」

彼女は呆れ顔で俺を観る。


ふむ…。今はベッドに転がりながら携帯をいじっているな。


「いや~、ごめんごめん。ついうっかり…」

うっかりではなく、わざとやっている。


「…用事がないから、出てってくれる?」


今はこれぐらいにしておこうか。


「わかった。じゃあな~」

怒らせてからでは遅い。引き際を誤ってはいけないな。



 俺達、理央りお・理沙兄妹は、親戚はもちろんご近所でも『仲良し兄妹』として有名だった。そう、それは過去の話…。


理沙が中2になってからは、彼女から俺に距離を置くようになる。これが思春期ってやつなんだろうな。あまりにも寂しいので、受験勉強に集中できない…。


俺は中3なので、本来なら妹に構わず受験勉強しないといけない。だが、心に隙間がある状態で勉強しても無意味だろ?


という訳で、俺は理沙との関係回復に全力を注ぐことにした。

色々考えた結果、部屋に突撃して会話の機会を増やすのがベストだと判断したのさ。


闇雲に突撃すれば、関係回復どころか悪化するのは目に見えている。

なので、1日に突撃する回数や時間帯は気を付けているつもりだ…。



 人間関係の基本は『会話』だ。会話なくして、関係回復なんてできる訳がない。

突撃はやや強引だと思うが、そうしないと食事の時以外話すのは難しい…。


その食事の時だって、俺と理沙は隣同士だから話しかけにくい状況だ。

せめて向かい合っていれば、話しやすいんだが…。



 そんなある日。俺はネットで恋愛テクニックについて調べているところだ。


理沙との関係回復と、興味がない女子を振り向かせるのって、案外似てるのでは? と思ったからだ。仮に似てなくても、乙女心を知るチャンスになるだろう…。


俺にもできそうなテクニックを探している中、ある言葉に目を奪われた。


『押してダメなら、引いてみろ』


…これ、良いんじゃないか? 毎日最低1回は、理沙の部屋に突撃しているからな。今の状況は、ひたすら押していることになる。


ここでいうは、突撃を止めることを指すだろう。


毎日やっている突撃を急に止めたら、理沙はどう思うかな?

気になって気になって、仕方がないんじゃないか?


『清々する』と思われる可能性はあるが、恋愛に絶対はない。

この方法が吉と出るか、凶と出るかはわからないぞ…。



 ……悩みまくったが、とりあえず引いてみることにした。そろそろ真面目に受験勉強しないといけないしな。ここは我慢のしどころだ…。


今日から突撃を止めて勉強に専念する俺。うまくいくことを祈ろう。



 突撃を止めて1週間になった。ヤバい、理沙と1週間も話してない。

このままじゃ、関係回復の前に俺が折れるぞ…。


そう思った日の夕食開始時。


「兄さん」

理沙が俺を呼ぶ。


彼女から俺に声をかけるなんていつぶりだ…?


「どうした?」

嬉しさが顔や声に出ないよう、平然を装って答える。


「最近、私の部屋に来ないよね? 何で?」


それを聴き、俺の前に座っている父さんと理沙の前に腰かけている母さんが、それぞれ俺を観る。


食事中に無駄話すると怒られるんだよな…。


「後でお前の部屋で話す」

最低限伝え、食事を再開させる。


本当に『押してダメなら引いてみろ』効果が出てるんじゃないか?

理沙がなんて言うかを想像しながら、俺は夕食に手を付ける…。

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