二十二話 祈りの結実は彼女の心の救いに
死者を一時的に呼び出す魔術。本来繋がる筈のないパスを無理やり繋いだとすれば。
『――もって後五分といったところかの。それでも十分長い方じゃろうて』
「嫌じゃ~!! お祖母様は此方と一緒に帰るのじゃ~!!」
『あぁ、こんなに泣き腫らしてからに……。まだまだ子供じゃの、アリアは』
十分ほど祖母と孫で思い出話や今の話をしたところでそろそろタイムリミットが。
既に限界を越えているのか、アリアンナ様の身体の所々が薄くなり始めていた。
『礼を言うぞ、カイト。恐らくお主でなければここまでの現界は不可能じゃった』
「アリアンナ様の魔術理論の賜物です。俺は少し力を貸しただけですよ」
『くぅ~、一体どうやってこんな傑物を見つけたんじゃ。此方の時代にも欲しかったぞ!!』
消えかけの身体で俺の背中をバンバンと叩きながら上機嫌なアリアンナ様。
俺の出来ればご存命の状態でゆっくり話してみたかったが、それは叶わぬ夢。
「此方!! 此方が見つけたのじゃ!! カイトは此方の最高の相棒なのじゃ!!」
「そのきっかけになったのは私なんだけど。私が先なの忘れないでくれるかしら」
「世迷言を。カイト様を一番最初に見つけたのは私ですし、相棒も私。平伏せ雑魚共」
『うむ、良い友にも恵まれておるようじゃ。此方の若い頃を思い出すのぉ』
きっとアリアが見せたかったのはこういうものなのだろう。自分は元気にやっていると。
自分が生きてきた道程を思い返しているのか、アリアンナ様はクスッと笑った。
『そうじゃ、カイト。その実力ならお主もゆくゆくは賢者やら目指すんじゃろ?』
「あ、いえ。今のところは魔術学院で用務員を続けるつもりです」
『嘘じゃろ!? というかヨームインって一体何じゃ……?』
首を傾げるアリアンナ様に俺は顎に指を当てる。確かにその時代には無かった概念か。
改めて問われると一言で表すのは難しい。果たしてどう伝えたらいいものか。
「一言でいえば、学院の生徒の為になることなら何でもやる職業……ですかね」
『ほう!! 何でもやらなければならない、というのは大賢者に通づるものがあるのぉ』
「言われてみれば確かに。突き詰めれば詰める程、奥が深いと言いますか」
やれることをどんどん増やす。増やしてもっと出来ることを伸ばしていく。
そう考えると魔術とも似ており、必然的に魔術を究める大賢者にも近いかもしれない。
『ならば文句無しじゃ!! 喜んでうちの孫娘を嫁として託そうぞ!! 此方が許す!!』
「えっ」
『なんじゃその反応……。そもそもアリアにはここに来させたのはその為でもある。大賢者の孫娘よりも凄い奴を連れてくるってことは、つまりはそういうことにならんか?』
そこで全員が一斉にアリアの方を見る。当のアリアは顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。
「言えば来なかったじゃろ、お前様……」
「諸説……あるかな」
ささやかな祈りの影に隠れていた、多大なる欲望。だから存外早いとか言ってたのか。
冗談で結納案件とかも言っていたが、それもまた彼女の中では冗談ではなかった。
「決めました、アリアさんはここに一緒に埋葬しましょう」
「そうね。大好きなお祖母様と一緒に居られてアリアも幸せよね」
「わ、悪かったのじゃあ!! 無言でお墓の隣に穴を掘るのをやめるのじゃ!!」
そしてアイリスとミラは怒り心頭。最後の最後で大騒ぎとなってしまった。
相変わらず孫娘が翻弄されてる姿を見てアリアンナ様は笑い転げている。
『まぁ、アリアもまだまだ子供じゃ。今回は顔を見れただけで良しとするかの』
「お言葉ですが、俺はまだ用務員をやめるつもりは……」
『よい。お主もまた若人、様々な経験をしてから決めるのも遅くない』
俺の言いたいことが伝わったのか、アリアンナ様は満足げな笑みを浮かべる。
それはあまりにも真摯で。こんなお祖母様がいてアリアは幸せ者だと感じた。
『……時間じゃな。アリア』
「!! はい、お祖母様……」
そうして遂に時間が。もう既に半透明までになっていたアリアンナ様は最後に。
ギリギリで形を保っていた腕でアリアの身体をぎゅっと強く抱きしめた。
『悔いの無いように生きよ。己の信じた道を真っ直ぐに進め。……よいか?』
「はいっ……はいっ……!! ありがとう、なのじゃ……!!」
あまりにも深く重い、そして思いの詰まった言葉を聞いてアリアはまた号泣。
それは大賢者アリアンナとしての言葉ではなく、アリアの祖母としての言葉だった。
『では、またの!! また会う日を楽しみにしとるぞ、未来ある若人達よ!!』
そんな言葉を残して遂にアリアンナ様はその場から消えていった。
消える際の魔力の残滓がアリアの周りに集まっているのを見て、目頭が熱くなる。
「……凄い人だったね、アリアンナ様」
「じゃろ? 此方自慢の……大好きな、大好きなお祖母様じゃからな」
かくしてアリアンナ神殿の地下で起きた出来事は終わりを告げる。
この経験を糧にまたさらに成長する、とアリアの泣きながらの笑顔が物語っていた。
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