第17話:ゴブリン討伐

「えぇっと、殴ればいいんだよね。殴ったら魔法が使えるんだよね」


 でも祈りの言葉は? 詠唱は? いらないの?


 ゴブリンは町の直ぐそこまで来ていた。

 数匹のグループに分かれて、あちこちから襲撃してきているらしい。

 こちらもグループに分かれて、ゴブリンの捜索を開始した。


 私が本当に魔法を使えるのか、確かめなきゃ。


「いやぁ、しかし聖女様がご一緒とは心強い」

「まったくだ。俺たちはついてるなぁ」


 も、もしかして私のこと言ってる?

 さっきの神官と言い、私はまだ候補なんだってばっ。


「あまりこの子にプレッシャーを与えないでやっておくれ。なんせ自覚がないのだから」

「自覚って、どうしてですかい?」

「この子は自分の意思で、まだ魔法を使えないんだよ。むしろ魔法が使えていることも、信じられないといった様子だからね」

「はぁ。アレを無自覚で……いやそりゃまた、余計に凄いことじゃないですか」


 アレ? アレってなに。

 なんか私の知らない所で、とんでもないことをした女ってことになっていってる?


「ゲギャッ」

「おっと、さっそくお出でなすった。四匹か、気負う数じゃない」

「聖女様は後ろにお下がりください」

「え、ダメだよ。私も殴りに来たんだから」

「「え?」」

「殴ったら魔法。殴ったら魔法」


 借りたメイスをぎゅっと握る。

 向こうも棍棒を振り回し、ゴブリンたちが駆けてきた。


「聖女様、危険ですっ」

「平気! ゴブリンは見慣れてるからっ」


 アディと森で狩りをするとき、ゴブリンやコボルトを見かけることはよくあったもん。

 倒すのはアディだったけど、私も石を投げたりして気を逸らして手伝ったりしてた。

 だからこいつらは怖くない。立ち向かえる。


 それに――


「殴ったら魔法、殴ったら魔法!」


 呪文のように唱えながら、メイスを下から上に振り上げる。


「ゲッ」


 柄の先端にある硬い打撃部が、ゴブリンの顎にヒット。

 非力な私でも、小柄なゴブリンを吹っ飛ばすことぐらいは出来た。


「魔法!」


 ウィリアンさんを見る。

 首を傾げてた。

 発動してないってこと?


「もう一発! 殴って魔法!!」

「グギャッ」

「どう!?」


 今度は首を横に振った。


「えぇー、なんでぇ」

「変に意識しすぎるのも、よくないもんだよセシリア」

「でも検証しなきゃいけないんだし、意識するに決まってるじゃん」


 というか意識して魔法が使えなきゃいけない訳だし、これが正解でしょ?


「あの……なんですかその、殴ったら魔法って呪文みたいなのは」

「え? うん、あのね、私の魔法って、殴ると発動するみたいなの。それを助かめるために、ゴブリン殴ってるんだけど。えい、この野郎!」


 ボコっとゴブリンを殴る。

 どうだと言わんばかりにウィリアンさんを見るけど、また首を左右に振られた。

 なんでぇー!?


「いってっ」

「おい、聖女様ばかり見てないで、ちゃんとゴブリンを見ろっ」

「すまん。けどかすり傷だ、心配ない」


 同行している兵士のひとりが、ボグリンの振り回す棍棒に当たったみたい。

 私がすぐにこいつを倒せていれば、怪我させなかったのに。

 それに魔法が出ないから、怪我も治してあげられない。


 私が治癒魔法を使えていれば――

 私がこいつらをさっさと倒せていれば――

 私がちゃんとみんなの力になれていれば――


「んの野郎! さっさと倒れろぉっ」


 ゴスッと、ゴブリンを吹っ飛ばす。


「んぁ、あれ? 傷が――」

「ん? な、なんだか力が湧いて……」

「ごめんなさい。私が魔法使えていれば。ウィリアンさん、その人の怪我を治してあげてっ」


 私には出来ないから。

 振り向く暇はない。早くゴブリンを!


「ウィリアンさんっ」

「あ、あぁ、分かっているよ。お前も魔法のことは気にせず。今は目の前のことだけに集中しなさい」

「うん、分かった」


 そうだ。魔法なんて気にしてる場合じゃない。

 

「聖女様っ。奥からゴブリンの増援が!」

「えぇ!? 何匹?」

「暗くてよく見えませんが、五、六体かと。なに、こちらには聖女様のご加護があります。普段の十倍、戦えますよ」

「候補だってばっ。それに加護なんてないからねっ。あぁ、こう暗くちゃよく見えないね。それにあっちは夜行性だから有利だし」


 しかもこれからどんどん暗くなっていく時刻。長引かせると不利になる。

 だからといって、松明持って戦えないし。


「あぁん、クソ! 明かりが欲しい!」


 八つ当たり気味にメイスを振り下ろす。


「ゲッ」


 ゴブリンの短い悲鳴のあと、なんと……なんと、明るくなった!

 私が!


「ひいいぃぃぃっ。なにこれなのこれ。なんで私光ってんの!?」

「せ、聖女様っ」

「おぉ、なんと神々しい」


 んな訳あるかーい!


 私の全身が光って、おかげで辺りを照らしてはいるけど。

 なんでこんなことになってんの!?

 そりゃ明かりが欲しいとは言ったけど、私が光れとは言ってなぁーい!


「はっはっは。これは戦いやすい」

「聖女様、ありがとうございますっ」

「うぅぅ、どういたしまして……」


 私が辺りをギンギラと照らす中、二人の兵士は楽々とゴブリンを一掃した。

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