第12話 あーんしてあげる♡

 ダウンした次の日、学校へ行くと委員長が俺の机までやってきた。

 眉毛を下げ、心配そうな顔をしている。


「日ノ出くん、体調大丈夫?」

「うん、一晩寝たらよくなったよ」

「そっか、よかった」


 委員長はホッと安心した顔になった。どうやら昨日体調が悪かった俺を心配してくれたらしい。


 誰かに心配されるっていいな。


「ありがとな、委員長」

「う、うん!」

「……あれ?」


 ふと委員長の顔を見てあることに気がついた。


「委員長。髪型変えたんだな」


 委員長にそういうと、委員長は頬を染めながら嬉しそうに笑った。

 いつもはおさげだけど、今日は髪をストレートに下ろしていたのだ。


「うん、たまにはいいかなって。ど、どうかな?」


 髪を手先でクルクルさせながら、もじもじと俯く委員長。

 その姿が、素直にかわいいと思った。


「かわいいと思うよ」

「かわっ!?」

「すごく似合ってる」

「っ〜〜!」

「どうしたんだ委員長?」


 委員長は顔を手のひらで覆って、「あー」とか「うー」とか唸っている。

 なんだか耳も赤いし……熱でもあるのか?


「大丈夫か、委員長? 熱でもあるんじゃ」

「だ、だだ、大丈夫! ちょっと気温が暑かっただけー。いやー暑いね」


 パタパタと手で顔を仰ぎながら、委員長はいった。

 少し肌寒いくらいだと、思うんだけどな?


「そうか?」

「そうだよ! あっ私先生に呼ばれてるんだった! じゃーね」

「おぅ」


 俺は委員長に手を振ると、教科書を取り出そうと机に手を入れた。


「ん?」


 机に手を入れるとクシャクシャの紙があることに気がついた。何だろう?


 不思議に思いながら紙を広げると、そこには"地味男、学校来るな!!"と殴り書きされた文字が書かれていた。


 まぁ、誰がやったのか大体わかるけどさ。


 俺はカバンにクシャクシャの紙を入れると、ふぅーっと息を吐いた。


 「(勘弁してくれよ、俺はそこまで暇じゃないんだからさ)」


 それからも、席を立つたびにクシャクシャの紙を入れられた。悪口も言われたし。


 そろそろなんとかしないとなー。


 めんどくさいと思いつつ俺はどうしようか考えていたのだった。



 結局、いい案は浮かばなかった。

一番は青と関わらないことなんだと思う。そうすればこの嫌がらせもおさまるだろう。


 だが、それは無理だ。

 幼馴染であり、大切な親友だからな。俺たちの絆は固いんだ(ドヤッ)

 まぁ、それを言ったら言ったでやばそうだけど……


 そんなことを考えながらリレー練習したら転んだ。それはもう盛大に。


「うわっ、膝すげー擦りむいてんじゃん」

「大丈夫?」

「いてて、まぁ、少し痛いくらいで大丈夫だ」

「いや、どう見ても少しじゃないだろ!? 日ノ出、今日は帰れ」

「えっでも」


 俺がオロオロしていると、近くにいた委員長が言った。


「いつも練習してるんでしょ? 今日くらいは、休んだらどうかな?」

「うーん、そうさせてもらうよ」


 ということで、みんなにいわれ、俺は家に帰ることにした。あれ以来、リレーメンバーの仲が深まってきたように思える。いい傾向だなって思った。


「いてて、手当してもらったが痛いな」


 保健室で手当してもらったけど、包帯をかなりグルグル巻きにされた。他の人が見たら、すごい大怪我をしたように見えるよな。


 なんとか家に帰り、ソファーに体をしずめた。

 

「ふわぁ、眠い」


 ソファーに座っていると、だんだん眠くなってきた。最近の疲れが、一気に出たのかもしれない。


「少し眠るか……」


 俺はそのままソファーの上で、横になったのだった。


 が、


「お兄ちゃん!? どうしたのその包帯!!」


 大きな声で目が覚めた。目を開けると、そこにはいすずの姿があった。

 制服を着ているので、今日は仕事ではなく学校に行っていたのだろう。


「いすず、おかえりー」

「いすず、おかえりー。じゃないよ! どうしたのこの包帯! なにかあったの」


 どうやらいすずは、俺のケガを心配してくれてるみたいだ。


「ど、どど、どうしよう! お兄ちゃんが、お兄ちゃんが!?」

「落ち着けって! 大丈夫だから!」

「でも!?」


 俺はいすずを落ち着かせると、考えごとしたら転んだということを話した。


 その話を聞いたいすずは、安心したのかはーとため息を吐いた。


「包帯ぐるぐる巻きだから心配しちゃったじゃん!」

「あはは、保健室の先生が大げさに巻いちゃってさ。断ったんだけどさ」

「もう、びっくりして心臓止まるかと思ったよ」

「ってかいすず、俺のこと心配してくれたの」

「にゃ!?」


 いすずは顔を赤らめる。どうやら、図星だったらしい。


「そ、それは」

「どうなんだ」

「うっ」


 俺が問いかけると、いすずはそれはもうぎこちない笑みを浮かべた。


「し、心配するわけないじゃん。何勘違いしてるの、ざぁーこ! ざぁーこ!」


 プイッと顔を背けるいすず。どうやら指摘されたのが恥ずかしかったみたいだ。


 少しからかいすぎちゃったかな?


「ごめん、ごめん。心配してくれたのが、嬉しくてついからかっちゃった」

「バカ」

「ごめんって、今日はいすずの好きなオムライスを作るから許して! この通り!!」


 手を合わせると、いすずはチラッと俺を見てはぁーっとため息を吐いた。


「まぁ、からかったのは許してあげる……心配だったのは事実だったし」

「えっ? いすずがデレた」

「うっうっさい! とにかく今日は何もやらなくていいから」

「でも」

「お兄ちゃん最近忙しかったでしょ? 疲れたと思うし、今日はゆっくりしてて!」

「はーい」

「とりあえず今日の夕飯は私が……」

「え」

「なに? なんか文句でもあるの?」

「い、いやべつに」


 俺は口笛を吹いて誤魔化した。


「なんかその態度は怪しいけど、まっいっか。私が作れたらよかったんだけど、家で仕事をやらなくちゃいけなくて。今日も出前でいいかな?」

「ありがとう! 神様」

「ん? なんで、感謝してるの?」

「いや、べつに」


 俺はまた口笛を吹いて誤魔化した。


「ますます怪しいんだけど……とりあえず出前は私が頼んでおくから、お兄ちゃんは休んでて」


 そういわれ、俺はまたソファーの上で休ませてもらうことにした。


 1時間後、頼んでいた出前が届いた。


 のだが、


「あの、いすずさん」

「なーに、お兄ちゃん」

「どうして、俺にピザを食べさせようとしてるんだ?」

「だってお兄ちゃん、怪我してるから」

「怪我してるのは、膝だからね!?」


 なぜかいすずは、俺にあーんをしてこようとした。


「ほら、口開けて。私が食べさせてあげるから」


 そういって身を乗り出すいすず。身を乗り出すいすずのある部分が目に入る。ワイシャツのボタンを2つ外しているからか、谷間が丸見えなのだ。


「お兄ちゃん、胸ばっか見過ぎ」

「うっ」

「お兄ちゃん、そんなに胸が好きなの?」


 そういうといすずは、ワイシャツのボタンをもう一つ外した。


「なら、触ってみる?」

「はっはぁ!?」

「まっ童貞なお兄ちゃんには無理だろうけどね。ぷぷぷっ」


 イラッとしたのでいすずの胸を……さすがに触れないので、持っていたピザにかぶりつく。


「お兄ちゃん美味しいでちゅか?」

「なぜに赤ちゃん言葉!? まっうまいけど」

「はい、もう一回あーんでちゅよ」

「もう、いいって!?」


 結局俺はいすずにあーんされ続けた。(お腹空いているのに、いすずがピザを渡してくれなかったのだ)


「お兄ちゃん食べるのじょうじゅでちゅねー」

「くっ」

「もっと、食べまちゅか?」

「ほ、欲しいです」

「お利口でちゅねー、お兄ちゃん。ほら、あーん」

「(く、屈辱だ!)」


 結論、あーんされるのはめちゃくちゃ恥ずかしかった。ってか途中から赤ちゃんプレイみたいになってたんだけど!?

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