第5話 老親から借金をしてはいけない

 義理の父母、夫の実家の話である。

嫁である私は苦労も口出しもせず、外野から学んだ教訓である。

年老いた親から決してお金を借りてはいけない。サラ金の方がましかも知れぬ。


 義母が85を超えたころ、物忘れが出てきた。当然である。60を超えた私が昨日、Suicaをスーパーに置き忘れ大騒ぎをしたのだから。


 或る日、母は通帳が無くなったと騒いだ。生活費をおろす通帳である。通帳はいつもの場所にしまった、だけどない。家中をひっかきまわして捜すもない。パニックになった母は義姉に電話をした。弟である私の夫は遠方におり、姉が父母の家から1時間ほどの場所に住んでいて、時折様子を見に出入りしていた。すぐに姉は金融機関に連絡をし通帳の再発行の手続をしてくれた。


 姉が解決してくれた、はずだった。だが、これが始まりとなる。

高齢になると「もの盗られ妄想」がでることもあるという。これも当然である。私なぞは働いていたころから、使おうとした文具が見当たらないと、まずは周囲の机上に視線を走らせ、結局、目の前の書類の下にあって苦笑いをしていた。


 置いたはずの通帳がなくなり、手続済みで心配はないとはいえ、通帳は母の手元になかなか来ない。モヤモヤと不安がつのる。そんなとき、姪(義姉の娘)が父母の家のすぐそばに部屋を借りることになった。そろそろ1人暮らしをしたい姪と、高齢の父母の近くにいてくれたら安心と思った身内の思いが一致。夫も喜んで家賃の手助けを申し出た。


 だが、夫の知らぬところで事は動きだす。契約時に必要なお金、礼金敷金と家賃1か月分の50万ほどのお金を姉は母から借りた。通帳をなくした口座からおろした。契約を急ぎたいのに手元になかったからか、母の為にもなることだから借りてもいいと思ったのかはわからない。とにかく借りた。そして返さなかった…と私は思う。


 返したのかも知れない。夫が再三、返すように言い、自分が出すからと言ったが、姉は返したと断言した。だが、母も父も返してもらっていないと言う。返したのか、返さなかったのか、わからない。わかるのは高齢の父母に混乱と不安を与えてしまったということ。10万円が大金!の私が敢えて言う。たかが50万で…これをひきずって…混乱と不安のなかで暮らす…借りてはいけなかったんだ。


 お姉さん。お父さんが心配していたよ。

あの娘は公務員としてずっと働いてきたのに、50万の金も自由にならないのかね、夫が浪費癖があるからなぁ苦労しているんじゃないか…。



 


 

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