第40話とある弁護士side
憂鬱だ。
私は長年キング侯爵家の顧問弁護士をしている。
かれこれ二十年といった処だろうか。祖父の代からの関係は今も継続している。貴族社会から爪弾きにされ、嘗ての栄光は見る影もない。それでも雇用契約をしている以上は仕事を全うするのみ。
一年ほど前からエラ嬢との連絡が途切れた。
キング侯爵が孫息子と一緒に彼女を屋敷から追い出したせいだ。
『アレは私の孫ではない!!あの阿婆擦れが何処かから種を拾って出来たものだ!!ああぁ、そうに違いない。でなければ何故、魔力がないのだ!!!』
よっぽど「魔力持ち」でなかった事が堪えたんだろう。その割には侯爵も「魔無し」だから血筋云々を言う権利はない筈なんだがなあ。どうにもプライドだけは高い男なので余計に気に入らないようだった。
キング侯爵家の悲願とはいうが、いい加減諦めればいいものを。
一応、定期連絡を入れる事になっていたのにそれがない。
発覚したのは一ヶ月前だ。
当事者の一人であるライアン様は「そうだっけ?」と他人事だった。
自分の息子が狙われる立場だと言う自覚がないにも程がある!!
探偵を使って探そうかとも考えたがそれは止めた。雇った探偵が裏切って他者に情報を売らないとも限らないからな。
『探す?アレを?なら魔力の流れを辿った方が早い』
そう言ったライアン様はいとも簡単に追跡魔法を使って居場所を突き止めた。
天は何故この方にこれほどの才能を与えながらそれを活かせる性格を持たせなかったんだろう。
心底残念でならない。
取り敢えずその場所をメモし、念の為に護衛を連れて向かった先で目にしたモノを見て思わず胃の中が逆流してきた。
エラ嬢が住んでいるとされた場所は薄く暗く澱んだ空気に包まれていた。
まともな者なら絶対に立ち入らないだろう。
こんな場所で暮らす?
正気じゃ無い。
よほど金に困った人間じゃない限り暮らそうなどとは思わないだろう。
実際、私の後ろにいる二人の護衛だって眉間にシワを寄せているじゃないか。
本当にこんな場所にエラ嬢と御子息が住んでいるというのか?
ただでさえ薄暗い路地なのに建物が日陰を作っている為、日中だというのにまるで深夜のような雰囲気だ。おまけに建物と建物の隙間からは悪臭が立ち込めており気分が悪くなる。
「……ライアン様には申し上げなかったが、もしや既にお二人共亡くなっているのでは?」
ついそんな疑問が口に出るくらい酷い状況だった。
こんな明らかに異常な場所はさっさと退散したい。恐らくこの場所は警察ですら碌に調査出来ない所だろう。下手したらこちらの身の方が危ういかもしれない。
それにしても何故彼女はこんな場所を選んだんだ?
養育費は一括で支払っている。
ライアン様が今後の憂いがないようにと、相場の何倍もの値段を提示した程だ。
余程の贅沢をしなければ一生遊んで暮らせる額だというのに。
彼女の暮らしぶりに首を傾げざるを得ない。
しかし何時までも立ち往生してもいられないので更に奥へと進む。
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