第32話

 休憩を挟みつつ、フジイチが農作業をしていると声をかけられた。


「フジイチさーん!」


 振り向くと、あぜ道にポラリスが手を振っていた。フジイチは、小走りで近寄っていき、話しかける。


「こんにちは、ポラリスさん」

「こんにちは。今日は様子を見に来ました!どうですか?大丈夫そうですか?」

「えぇ、大丈夫ですよ」

「それは良かったです!」


 丁度良くポラリスと出会えたので、フジイチはゴウトの登録をしてしまおうと思いついた。


「そういえば、農業ギルドでは家畜を登録出来たんですよね?」

「えぇ、出来ますよ」

「今、連れてきたら登録出来ますか?」

「もう既にいるのですか?」

「ちょっとここで待っていてください」


 ポラリスは困惑気味だったが、そんな事お構いなしに家に向かうフジイチは、ゴウトを家に出現させ、後ろを歩くように指示する。

 フジイチはポラリスの前まで歩くと、今度はゴウトに立ち止まるように指示をした。行儀よく家から出てきたゴウトを見て、彼女は驚いた様子で尋ねる。


「随分と大人しい子ですね!?」

「そうですか?」

「私の知っているイーメエとは信じられないくらいです!」


 ポラリスは興味津々にいろんな角度からゴウトを観察し始めた。フジイチは「アハハ」と空笑いして誤魔化した。


「この子のお名前は何ですか?」

「ゴウトです」

「良い名前ですね!登録しておきますね!」

「ありがとうございます」


 ポラリスはアイテムボックスから書類を取り出して、魔物の種類と名前、それから所有者を記入していく。それを《複製(紙)》で複製し、フジイチに手渡した。


「これが控えになります!無くさないでくださいね!」

「分かりました」

「では、次に冒険者カードを借りてもよろしいですか?」

「はい」


 ポラリスはフジイチから冒険者カードを受け取って、また四角い石に翳し、そしてゴウトの首元にも翳す。するとゴウトの首輪に、縦に細長い6角形の小さな飾りが現れてぶら下がる。


「これで、家畜の登録を終わりになります!」

「ありがとうございます」


 フジイチが頭を下げて、お礼を言う。ゴウトは、フジイチの指示が無くなったので畑の周りにある雑草を食べ始めた。


「あと、お話が変わるんですけど、ここからアブラットの街って少し遠いので、もし街に行く際は私達兄妹に声をかけてください!朝であれば私が出勤の時に馬車で一緒に移動て出来ますし、それ以降であれば、兄が馬に乗せて連れて行ってくれますので!」

「あ、ありがとうございます」

「いえいえ、農業ギルドとして当然の支援です!」

「じゃあ、早速、明日の朝お願いしても良いですか?」

「今からでも大丈夫ですが、明日で良いですか?」


 ポラリスは首を傾げる。


「急ぎではないので、明日の朝で大丈夫です」

「分かりました!では、明日の朝に迎えに来ますね。では私はこれで失礼します!」

「ありがとうございました」


 フジイチはポラリスを手を振って見送り、姿が見えなくなったら、ゴウトを家の中に連れ帰った。

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