第23話
フジイチは休憩を挟みながら、畝を作っていく。シトリは途中で飽きて、フジイチに声を掛けてからいなくなった。
ゲーム内で夕方になり、フジイチはディッパーに声を掛けられた。
「そろそろ終わりにしよう」
ディッパーと共に納屋に向かい、フジイチは鍬を指定された場所に鍬を立てかける。
「夜遅くに出歩くのは危険だから、今日は我が家に泊ればいい」
「じゃあ、お言葉に甘えてお願いします」
ディッパーに案内されて、家の中に入る。火が着いた暖炉で家の中は暖かい。ポラリスは、その暖炉で料理を作っていた。
「今日のご飯は、山クジラのシチューよ」
デニム生地のエプロンをしているポラリスが持ってきた料理は、陶器で出来ている器に盛られたシチューは赤く濁っていた。
具材は、山クジラの肉、ニンジシリリ、タマノコネギ。それらを赤ワインで煮た料理だ。
テーブルを囲む椅子は2脚しか無かったので、ディッパーが別の部屋から椅子を1脚持ってきた。
用意された椅子にフジイチが席について、ディッパーとポラリスも座った。ディッパー兄妹二人は手を合わせ目を瞑る。ディッパーの言葉にポラリスが続けて祈った。
「山クジラに感謝を」
「感謝を」
「か、感謝を」
フジイチは慌てて二人の真似をして、手を合わせ、祈りの言葉を言う。
祈りが拙く聞こえたディッパー達は、微笑ましく思った。
目を開けて、スプーンを持ち、ディッパーが「さぁ、いただこう」と食事を促した。
ポラリスの手作りシチューは、フジイチにとって見たことのない料理ではあったが、味がしみて肉はホロホロと柔らかく、口に合う。
「美味しいですね!」
ぱぁと顔を輝かせたフジイチに、微笑みながらポラリスは山クジラの話しをする。
「そうですよね!山クジラは、山に住んでいる大きな魔物なんだけど、時々、命が尽きる前に山を降りてきくれるんです!おかげでこうして、美味しいお肉を食べれるんですよ!!何より、農家に大事な水を降らしてくれるんです!だから、私達は神に祈るんじゃなくて、山クジラに祈るんですよ!」
「そうなんですね。凄いんですね」
褒められたポラリスは続けて料理の話も始めた。
「このシチューに使ってる赤ワインはね、隣の町のルドーヌで作られてるちょっと高い物なんだけど、フジイチさんが来てくれたから、奮発して開けたんですよ!!そうだ!兄さん、飲むように開けても良い?」
「ん、構わないよ」
ディッパーが許可すると、ポラリスは席を立った。気分が浮きだっているポラリスを見て、ディッパーが苦笑交じりに、フジイチに話しかける。
「悪いな。お客さんは珍しいからはしゃいでいるようだ。ところで、お酒は飲めるか?飲めなければ断っても良いからな」
「あー、弱いですけど、お酒は好きです」
「それは良かった」
フジイチは断るのも悪い気がして嘘をついた。しかし、ポラリスが持ってきた赤ワインは、口当たりはまろやかで甘いもので、内心、これならと驚きつつフジイチは「美味しい、美味しい」と、注がれるままに飲んでいった。料理を完食する頃には、ベロベロに酔ってしまった。
フジイチは客間のベッドに横になり、そのままログアウトした。ログアウトすれば、酔いも覚めた。
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