第6話 危ない底辺配信者
「では気を取り直していきましょうか。インパクトガールチャンネルー」
パリピ状態のときほどではないが初めのときよりは元気な声で、ピンク髪メイド服ハンマー少女が宣言した。
「さて、今日も今日とてわたし、インパクトガールはダンジョンに潜っています」
ピンク髪の配信者はすらすらと台本を読むようにそう言った。……というか、手に持ったメモをガン見していた。セリフそのものは聞き取りやすいのだが、目線は一切カメラに向けられていない。
うーん、おしい、と鉄也は思った。それはともかく、あのハンマー少女はチャンネル名の通り、インパクトガールと名乗っているらしい。
探索者として登録する際、名前は自由に決められる。もちろん本名は探索者協会にきちんと知らせないといけないが、どういう名前で活動するのかは探索者本人の自由なのである。鉄也は本名で活動しているが、配信者は探索者ネームを設定することが多い。あのピンク髪少女改めインパクトガールもそういう手合いらしかった。
「はい、ではここでクイズです。わたしがいま潜っているのは、どのダンジョンでしょうか」
インパクトガールはメモをじーっと見ながら、明るい口調でカメラの先の視聴者に向かってクイズを出していた。
うーむ、読み方そのものはいいと思うんだがなー……、カメラを見てないのがもったいない、と鉄也は思った。
「はい、正解は先日出現したばかりのダンジョン、「怒れる死霊術士の穴蔵」です。名前の通り、出てくるモンスターはアンデッド系ばかりですねー。みなさんはオバケとか大丈夫ですか? わたしは平気ですよー。陰キャぼっちなわたしの将来よりも怖いものなんてこの世に存在しませんからね。アハハハハ!」
「…………」
鉄也には、メモをガン見しながら明るい口調で重めの自虐ネタを披露するインパクトガールの姿が、さっき戦ったアイシーコープスよりも恐ろしいものに見えた。
「さて、小粋な陰キャジョークも決まったところで、そろそろ探索に移りましょうか。……と、その前に……」
そう言ってインパクトガールはすっとカメラに向き直った。
なんだろう? 探索の前にやることがあるのか? 鉄也が不思議に思っていると、ピンク髪少女はものすごい勢いで頭を下げた。
「どうか、どうかチャンネル登録を! よろしく、よろしくお願いいたします!」
今日一番の、気合いが入った声だった。
神藤鉄也は、俺、なにやってるんだろうな、と思いながらダンジョンを歩いていた。視線の先にいるのはあのハンマーを担いだメイド服のピンク髪配信者、インパクトガールである。
「出てくるモンスターはアンデッド系が多いですけど、このダンジョンは結構明るいですねー。わたしの未来もこのくらい明るいといいんですがー」
インパクトガールはネタ帳らしきメモをじーっと見ながらときおり自虐ネタを交えつつ、てくてくダンジョンを進んでいる。鉄也とはそれほど離れていないのだが、彼女がこちらに気づく様子はない。動画を撮るのに集中しているのだろう。
別に話しかけようとか思っているわけではないのだが、もう少し探索をしたかったし、配信者がどんな風に動画を撮っているのかにはちょっと興味があった。なのでこうして彼女の後を追う形でダンジョンを進んでいたのである。
やましいことはないにもないけど、よくよく考えてみたらこれってストーカーか? 鉄也はちょっと不安になってきていた。
ダンジョン内であってもつきまといは迷惑行為である。色々とインパクトのある探索者だが、相手は女の子だ。やっぱりこういうのはよくないか。探索はもう少しやりたいけど、今日のところは切り上げよう。
そう思って引き返そうとした鉄也だったが、視線の先でインパクトガールが足を止めるのが見えた。
「こ、これは……!」
ピンク髪少女が驚いている。通路の脇でなにか見つけたようだ。
「た、宝箱……!」
インパクトガールが言う。たしかに彼女の言う通り、通路の脇に宝箱が置いてあるのが鉄也にも見えた。
が、その宝箱には「WELCOME! 財宝たっぷり! これで君も億万長者だ!」と書かれた看板がぶら下がっていた。どう見ても罠だった。
ダンジョンには宝箱(誰が設置しているのか不明)があるが、希に宝箱と見せかけた罠もある。とはいえ、ここまでレベルの低い罠は鉄也も見たことがなかった。
あんなの誰も触らないだろ……、と思っていた鉄也だったが、宝箱を前にしたインパクトガールは明らかに開けようか迷っている様子だった。
「どう見ても罠……どう見ても罠ですが……しかし、あえてトラップに引っかかってみたら、再生数が、稼げるのでは……タイトルはそう、「宝箱(どう見ても罠なやつw)開封動画ww」とか……」
底辺配信者がなんか危ないことを考えていた。
宝箱の開封動画は探索系動画の中でも人気のコンテンツだが、だからといって彼らも罠とわかっている宝箱を開けたりはしない。罠と言っても色々だが、やはりただでは済まないのである。しかし、ピンク髪の配信者はかなり迷っていた。
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