第18話 『 魔法の試し打ちと『クモイト』 』
翌日。私は引き続き自分の能力を知るべく修練場となってしまった場所へ足を運んだ。
「おぉー。本当に元通りになってる」
私は思わず感嘆の声をもらす。
昨日散々荒らした場所だが、リズが言った通り綺麗に元通り――それ以上に改修されていた。
折れた木々は真っ直ぐにそそり立っていて、それに見れば、頑丈そうな石工も用意されていた。注文した訳ではないのでリズの独断だが、中々に気が利く専属秘書だ。主の木じゃ物足りなさを理解している。
簡易的ではあるが私専用の修練場を一晩で作り上げてくれたドワーフたちに感謝しつつ、私は神様がくれたギフト――メニューバーを開いた。
「さてさて、いったい私はどんな魔法が使えるのかしら」
三度目に転生した世界でも魔法は使えたが、才能はなく簡易魔法しか使えなかった私。
しかしこの六度目の転生――ミィリスとなった私には、おそらく魔法を使える才能がある。
どうしてそう言えるのか。それは内側に宿る魔力が源泉のように湧いてくるからだ。
魔力とは血液と同じで、見えないが全身を駆け巡っている。その流れは基本感じることはないが、しかしこの肉体は違った。
前述の通り、魔力が内側から源泉のように湧いてくるのだ。それも際限なく。その絶大さはおそらく、私の出生と関係している。私は、このノズワースに生息する多くの魔物たちの魔力を注がれて生まれた。故に、生まれたばかりから以上な魔力量を誇っているのだろう。
「魔力量が多ければ多いほど強いってのは、魔法を使える世界ならではの理よね」
ゲームでもマジックポイントが多いと大技連発できるのと同じだ。結局、大は小を兼ねるというやつだ。
口笛を吹きながら私はメニューバーから『スキル』という項目をタッチする。昨夜このメニューバーに慣れるべくすらすらとスマホのようにイジっていたが、早速効果が表れたようだ。まぁ、使い方なんてスマホに似てるからその容量でやればいいだけだけど。
慣れた手つきで『スキル』を開いた私は、早速ギョッと目を剥いた。
「うわお。結構なスキル量ね」
初めは初級魔法くらいしか使えないと思っていたのだが、私の潜在能力は私の想像を軽く凌駕していた。
ざっと見ただけでも使えるスキルは20種類以上あった。これは私が『魔王』が故なのか、将又他の魔物の魔力を注がれたことによる副産物なのか。理由はおそらく後者なのだろうが、これだけ最初から魔法を使えると何から手を付けようかと目移りしてしまう。
「とりあえず簡単そうなファイアから行きましょうか」
私のイメージだと、『ファイア』は手から火を噴く魔法な気がする。
回答も含めて私は早速――この世界で記念すべき初めての魔法を行使した。
「――ファイア!」
意気揚々と魔法を唱えた瞬間、それは私の想像を超えて猛火が顕現した。
ボォォン! とまるで大爆発でも起こったような爆音が手から鳴って、ドッジボールの玉くらいの火の玉がドワーフたちが用意してくれた石工目掛けて一直線に飛んでいく。
そして私の手から生み出された火の玉が石工に衝突したのと同時、さらなる爆炎が生じて石工を跡形もなく粉砕した。
「――まじすか」
その一部始終を見ていた私は、ただ唖然とするしかなかった。
私的には、手からポッと火が吹いて「きゃっ」と可愛らしく驚くくらいだと思っていた。しかし、今起きたことは私の想像とは真逆で、軽く唱えた魔法が石工を容易に粉々にするというヤバさ。
語彙力すら失わせる自分の才能に、私は自部自身に恐怖し――
「じゃあ他の魔法はどうなのかしら⁉」
なんてことはなく、自分の才能にずぶずぶと己惚れていく。
当然だ。これまで五度の人生全てが『弱者』だった私が、生まれながらに手に入れた『強者』の力。過去のクソみたいな人生経験が、強大な力に対する畏怖ではなく好奇心に変貌して私を高揚させる。
まだ驚愕こそあるものの、私は自身の強大な力に惹きつけられていく。
「こうなったら上の欄から順に発動させていきましょう。あ、オリジナルの魔法なんて作れるのかしら。それも実験しなくちゃ」
わくわくと、私はまるで新しい玩具を買ってもらった子どものように、それはもう夢中で魔法を試すのだった。
「あぁもうっ。ホントッ魔物になって正解ね!」
爆音が轟く森で、私はこの時確かに、魔物としての生をエンジョイできると確信したのだった。
*****
「ふぅ。ちょっと休憩」
私は深く息を継ぎながら、じんわりと額に滲んだ汗を拭う。
魔法を行使し始めてから約十五分ほど。私はとりあえず初級っぽい『ファイア』から『ウォータ』、『アース』に『サンダ』を試してみた。
そして『ファイア』と同様に、他の三魔法も凄絶な威力を誇っていた。
『ウォーター』は水鉄砲だが威力が消防車並みで、『アース』は地面を隆起させるどちらかと言えば防御性能に優れた魔法だった。『サンダ』は手から雷を顕現させる魔法だったが、繊維のように細い電撃が四方八方に飛び散ってコントロールが難しかった。
魔法とは奥深い、と耽りながら、私は実に楽しく有意義な時間を過ごしていた。
今日はまだ抉っていない雑草にお尻を乗せながら、私は威力調整した『ウォータ』を発動して手から出てくる水を口に注いでいく。数分前に実験と称してペロッと『ウォータ』の水を舐めてみたのだが、意外と美味しかったのでこうして今は給水用として使用している。
絶対そんな使い方じゃないとは私も思いながらも、どこからともなく手から流れ出る水をごくごくと飲み込んでいく。
「さてと、他に面白そうな魔法はないかな~」
意識的に『ウォータ』の発動を止めて、私は開いたメニューバー、それのスキル欄をスワイプしていく。
「『センプウ』に『ヒール』、『チャーム』、『レッセン』、『エンハンス』に『エンチャント』……やっぱ多すぎだし、なんか後半はわけ分からんスキルばっかね」
特にこの、『ボウショク』とか『ゴウダツ』というスキルがよく分からなかった。おそらく日本語に変換すれば『暴食』と『強奪』なのだろうが、使ってみても何の現象も起きず不発に終わったスキルだ。
現状、使えない魔法なのだろうと解釈したが、そうなるとこのスキル欄の大半が使えない魔法ばかりになってしまう。なんだこの『チャーム』って魔法は。一体誰を魅了しろってんだ。
「使える魔法と使えない魔法は今のうちに区別しておくにして……あ、これなんて使えそうじゃない」
私はスキル欄の丁度真ん中辺りにあった『クモイト』と表記されている魔法を見つけた。
鬼が出るか蛇が出るかは分からないが、私は立ち上がると早速『クモイト』を唱えてみた。
「クモイト」
と唱えると、手からクモの糸がぴゅっと出てきた。
ぱさっ、と軽い音ながら雑草に落ちたクモの糸を拾うと、私は目をぱちぱちとさせた。。
「意外と粘着性があるのね。出方と長さとネバネバ感がアレを彷彿とさせて一瞬キモイと思ったけど……ふむ、これ使えそうね」
手で蜘蛛の糸をイジリながら、空いたもう片方の手を顎に手を置いて思案する私。
「さっきはちょっろとしか出なかったけど……もう少し魔力を込めれば」
魔法の威力は、使用した魔力量に応じて威力が増す。
それにコツ、というものはなく、発動者の意思によって意外と簡単に為せる。
私は手に付着している蜘蛛の糸を振り払うと、真正面を向いた。そして数メートル離れた樹木を捉えながら手を伸ばして、再び『クモイト』を発動する。
「クモイト!」
ハッ、と腹に力を籠めながら唱えれば、発動した『クモイト』は一回目よりも勢いよく、そして長い糸が飛び出した。
垂直に真っ直ぐと飛ぶ糸はやがて樹木にビタッと張り付いた。
「ここからさらに……っ」
私は『クモイト』を発動させた右手をそのままに、数歩引き下がった。真っ白な糸は伸びても千切れる気配なく、樹木と私を間接的に繋ぐ。
数歩引き下がる最中、私は『クモイト』を見て前世の記憶、その時にテレビで見た映画を思い出した。
蜘蛛に噛まれた男が蜘蛛男となって、手から糸を吹き出し自由自在に街を駆け回るヒーロー。
それの真似事を、私は今から再現しようとしていた。
「――よしっ」
不安とわずかな期待に胸を膨らませながら、私は意を決して足を地面から離す。
まず、体にふわっと宙に浮くような感覚があった。そこから伸ばした糸が、刹那だけ宙に浮いた私を――収縮する力で引っ張った。
「あははっ! 実験成功ね!」
空中をジップラインのように滑走する私。しかし伸びが足りなかったのか、樹木に届く前に速度が落ちて着地してしまった。
しかし、立てた仮設を立証したと言うには十分な結果だった。
「これは、工夫次第で化ける魔法になるかも!」
色々と応用が利きそうな魔法を見つけた私は、それはもう楽しそうに『クモイト』を試し尽くしていくのだった。
――――――――
【あとがき】
明日日曜日の更新はお休みです。
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