第14話 『 ミィリスの身体測定 その1 』
どうやら私は『魔王』になるべくして作られた人工生命体――正確にはしっかりと母親の腹から出てきてはいるので人工生命体ではないが、とにかくにもそれに近い形で生まれたらしい。
「まぁ、今更生まれ方なんてどうでもいいんだけど」
五度も人生を経験していると、色々な感情が達観されてしまうようだ。
だから私は「生まれた時から喋れてよかった」くらいの感覚で母、メルルアの贖罪を受け止めた。
それに怒りよりも、魔物にも優しい心があるのだと知った驚きが勝った。
何者にも、情に厚い者もいる。その片鱗を早速……まぁ、親子ではあるから愛情があるのは当然なのかもしれないが、魔物にも良心があるのだと知れて満足だった。
「――背負った期待には、ちゃんと応えないと」
ぐっ、ぐっ、と腕を伸ばし、私はらしくもない事を呟く。
五度の人生、その全てが誰にも期待されていなかった人生だからか、恐怖こそあれど期待に応えてみたいという意思が強く働いていた。
「前世はクッソたれ上司に散々ハラスメント受けてたからなぁ。あー、今でも腸が煮えくり返るくらいムカつくわ」
ふと脳裏に過った禿げづらに舌打ちして、私は腕を伸ばした次は屈伸をする。
さて、母との会話を終えて私が今何をやっているのかというと、いわゆる準備運動というやつだ。
メルルアお母様から『政治的なことはしばらく私と他の者に任せて、ミィリスはまずノズワースの土地に慣れることと自分の力を完璧に使いこなしてほしい』と指示されたので、政治的な事はお言葉に甘えてメルルアお母様たちに任せることにした。
そして私が今準備運動をしている理由は、そう、自分の与えられた『力』を確かめる為だ。
「……ふぅ。大体このくらいでいいかな」
およそ三分間の準備運動を終えて、私は一息吐く。
体の調子はすこぶるいい。今朝の倦怠感も今はすっかり消えて、その場で軽く跳ねただけだが十メートルくらいは飛べそうな気分だった。
「すぅぅ。はぁぁ」
再び息を吸って、吐く。
わずかな緊張感と高揚に包まれながら、私はこの肉体の実力を測り始めた。……なんか、あれね。体力測定みたい。
「まずは、跳躍」
ぐっと膝を折り、脚に力を溜める。理想は一メートルくらい飛べればいいな、と思いながら足に溜めた力を解放――した瞬間、私は直感的に〝危機感〟を覚える。
「――おっ、わっ⁉」
危機感が電撃のように全身に張り巡るも、わずかに遅かった。既に〝ジャンプ〟する動作を始めた体は、私の想像を遥かに超えて高く飛んでいた。
ふわり、と宙に浮く感覚とは裏腹に、恐怖が押し寄せてくる。
なんと私は、軽くジャンプしただけで十五メートル以上はある木の、その半分くらいを優に越していたのだ。
「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ⁉」
空中で慌てふためく私は、目尻から大粒の涙を流しながら落下。そのまま地面とゼロ距離になって、思いっ切り草木に叩きつけられた。
「いったあー! めっちゃいったあ!」
落下の衝撃が全身に走り、激痛が襲う。死んではいなかったが、死ぬほど痛い。
草木に転がり悶える私はまるで這いつくばる虫のようだ。はは、我ながら憐れ。
数分ほど経ってようやく痛みが収まり始めれば、私は赤くなった鼻を抑えながら呟いた。
「なんて脚力。頭が反射的にブレーキ掛けてなかったら、倍以上は飛んでた気がする」
あのジャンプは全力から半分以下まで落としたはずだが、それでも想像を絶した。
「というか、あの高さから落ちて痛いだけのこの体も異常では?」
人間であれば、七メートルも高いところから地面に落下すれば骨折どころの騒ぎではない。打ち所が悪ければ全身骨折、死亡する可能性だってある。
しかし、私の体は無傷だった。骨折も、たぶんしてない。
「はは。……頑丈過ぎる」
流石は『魔王』になるべくして生まれた存在とでも言えばいいのか、多少のことでは傷はつかないようだ。
「あはは。なんだか、面白くなってきたわね」
脚でこれならば、拳は、他はどんな力を持っているのだろうか。そう思うと、途端にわくわくしてきた。
私は草のベッドから立ち上がると、笑みを浮かべて実験を始めたのだった。
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