第一章 狂信者の選択(一旦公開停止したものを再公開しています)

第8話 008 狂信者の選択1 新しい仲間

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★第一章は少し堅苦しい、掴みが弱い、予め決めていたプロ

ット予定外、といった理由で一度公開停止していたものです。

 本編が次回最終章に入るため再公開致します。

 無理にお読み頂かなくても大丈夫ですが、伏線などもある

ため読んで頂けた方がより楽しめると思います。


★次回から第一部最終章です。分量的に4章の半分よりちょい

多いくらい?でしょうか。素人の駄文を今までお読み頂き本当

にありがとうございます。試行錯誤繰り返しながら少なからず

読んで応援してくれる方々がいらっしゃったため、それを励み

になんとかここまで書けました。

 ラスト頑張ります、宜しくお願いします。


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 今日はこの季節にしては日差しが暖かく、甲板かんぱんの風が心地良い。

 舳先へさきでカルが胡坐あぐらをかき水平線を見つめている。船尾の方ではガイとレノスが談笑している。この二人の組み合わせは珍しい。リナは船室の壁に寄りかかりうたた寝をしている。


 ライナスを出て3日、航海が順調ならば今日マイス島に着くはずだ。



 マイスの遺跡迷宮は正確には"迷宮"ではない。入り組んだ迷路のような"王宮遺跡"だ。遥かな昔、三千年前の古代の民が造ったことが判明している。

 学者が言うにはそうした迷宮ようの王宮遺構はマイス島に始まりこの大陸北西部全域に広がり隆盛した後、二千年前には衰退する。地上に作られたそれらの遺構は主を失った後、長く風雨に晒され多くは原型を留めてはいない。マイスの迷宮は離島にあったためか今に遺る数少ないものだ。


 一方、今一般に言われる"迷宮"は、人の手ではない、人知の及ばぬ者が造るものだ。多くは迷宮の"あるじ"が統べる。

 "迷宮"が世界に、人の歴史に現れたその最古の記録は700年程前と言われている。眉唾ではあるが今の"迷宮"はかつての迷宮様の王宮を模した神々の遊戯たわむれと主張する神学者も居るそうだ。


 迷宮という言葉は元はかつての王宮遺跡、特にマイス島の遺跡迷宮を指したのだが今では"迷宮"と言えば後者に限定されつつある。

 遺跡迷宮は既に調査が進み地図やルートも十分作成されており、多くは各地の冒険者協会が管理を行っている。

 今ある"迷宮"はそれら遺跡とは違い、魔物が集い罠が張り巡らされ深部に潜む"主"を護る防衛網を成している。その踏破難易度は遺跡のそれとは一線を画す。

 そのため、おかしな話だが冒険者の中にはマイスの迷宮を"偽迷宮"と呼ぶ者も居る。しかし魔法使いなどはそれらの歴史的経緯は座学ざがくとして当然に、決して学のある方ではない俺でも知っている事実だ。前衛でも知識があるに越したことは無い冒険者で"迷宮"とは言えずとも本家本元であるマイスを"偽迷宮"呼ばわりする者は冒険者としてハズレと言える。


 今回の任務は遺跡迷宮の確認調査だ。"主"の居ない遺跡とは言えその入り組んだ迷宮遺跡は野盗や亜人デミヒューマンの根城となりうるため協会が定期的に確認を行う。マイスの迷宮の規模から3日程かかるだろう。

 遺跡迷宮の確認調査は任務としては難度も低く、つパーティとしての基本的な技量を試せるため駆け出しパーティには打って付けだ。カルも新人として己が試される事はわかっているだろう。


「見えた!」


 カルが叫ぶ。

 ガイとレノスが舳先に歩み寄り目を凝らす。


「ええ?私には見えませんねえ」


「微かに、見えるような」


 ガイの眼は相当良く、ジェストと左程変わらない。

 俺も必死に目を凝らすが水平線の先の微かなもやとしか見えない。

 しかしその靄は時間と共に、ゆっくりと、島影のようなものに変化していく。


「カルさんは眼が良いんですねえ」

「俺やジェストより良いみたいだな」


 おだてられたカルは得意顔だ。眼の良さはパーティで偵察の役を負うシーフの強い武器になる。「俺より才能ある」と言っていたジェストの言葉は島に着かぬ内に証明された。

 島影は近づくにつれゆっくりと明瞭な姿となっていく。カルが叫ぶ。


「いざ、偽迷宮へ!」


 後方でうたた寝していたリナが目を開き言う。


「バーカ」


 ガイとレノスは笑い、その反応が理解出来ないカルは「ぇあっ?」と素っ頓狂すっとんきょうな声を上げ、思わず俺も笑ってしまった。

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