第29話 疑惑
「ふんっ! 所で青化に救援に来てくれた白鷹族は何処だ?」
「先の戦いでかなり疲弊したらしくて広場で休んで貰っている」
ジャオミンと呼ばれた女武人は深呼吸して怒りを抑えて鞘から手を離すと、救援にきた白鷹族を探すように見回すが、リョフウセンが何処にいるか伝えると軽く咳払いして、僕達に視線を向ける。
「その後ろにいる者は? 髪や肌が白い中原人に竹民族と大道芸人か?」
「先の戦いで手伝ってくれたものだ。俺の見立てでは中々の腕前だったからな。太守様に目通ししようと思ってる」
ジャオミンは討魔白リュウ世家のことを知らないのか、僕とゲンロン兄様の姿を見て大道芸人と勘違いする。
リョフウセンはニコニコしながら嘘ではないが必要な情報を伏せて僕達を紹介する。
ジャオミンは僕達をリョフウセンの配下として戦いに加わったと思い込んでる。
実際に僕達はリョフウセンの配下ではないが、拡大解釈すれば援軍として青化軍として今回の戦いに加わったと言える。
太守への目通しも救援にきた白鷹族を代表してと言う主語が抜けているが、目通しにきた僕達をリョフウセンが案内している最中とも受け取れなくはない。
「………お前のみどころの基準が理解できない。どうみても戦えない女もいるじゃないか」
「えっ!? わたっ、私ですか? ど、どうも」
ジャオミンがタンゲツを指差し指摘すると、タンゲツがワタワタしながら自分を指差し、ペコペコと頭を下げて挨拶する。
「おいおい、見た目で侮ると痛い目に遭うとよく俺に言ってたのは何処の誰だ?」
「………」
リョフウセンがにこやかにジャオミンに向かってそう言うと、ジャオミンはふんと鼻をならしただけでなにも言わない。
「太守様はおられるか」
「おられない訳があるか。玉座の間でお前を待っている。さっさとこい!」
ジャオミンは言うなり踵を返し、リョフウセンの返事も待たずに供回りを連れて回廊の奥へと歩いていく。
「了解した」
リョフウセンは苦笑しながらジャオミンについていく。
僕達もリョフウセンの後ろを歩いていく玉座の間と言う場所へ向かう。
「彼女の名前はジャオミン。青化の副団長で正規兵纏めている。うら若き乙女に見えるが、ああ見えて超一流の武人だ。少々潔癖性で融通が利かないが、正義感は強く不正を憎む」
リョフウセンはこちらに振り向くと小声でジャオミンについて教えてくれる。
「ずいぶんと嫌われてるな」
「まぁ、身から出た錆びと言うやつだ」
トゥルイがジャオミンとリョフウセンの関係について述べると、リョフウセンはばつが悪そうに明後日の方向を見ながら呟く。
「おおっ! これはこれはリョフウセン殿ではございませんかっ!」
不意に背後から声をかけられた。
リョフウセンがその声に足を止めて振り向き、僕達も釣られるように振り向くと、そこには恰幅の良い………と言うよりかなり肥満体な中年男性がにこやかな笑みを浮かべてやってくる。
「いやぁ、聞きましたぞ! あの忌々しい猪豚人達を見事に撃退して見せたそうですな。いやはや流石はワシが見込んだ男だ! 貴方は青化の、いや南蛮の英雄でしょう!」
肥満体の中年男性はそんな賛辞を周囲にも聞こえるような大声で述べる。
大袈裟な賛辞だなと僕は思っていたが、ふと中年男性の目を見ると鼬のような冷たい光が宿っていた。
リョフウセンは中年男性の視線に気づいてないのかガハハと煽てにのって笑っている。
「南蛮の英雄ですか? この身に余る評です。俺はただの傭兵ですよ。契約にしたがって働いただけですよ」
「何を言いますか! 貴方はただの傭兵などてはありせんよ、お亡くなりになった先代太守の甥であり、この青化の正当な継承権をもつ由緒ある血筋なのです!!」
中年男性は周囲にも聞かせるように正当な継承権と言う部分を大きな声で言う。
先を歩いていたジャオミンは足を止めて肩を震わせて拳を握りしめている。
さらに中年男性はジャオミンの姿を確認すると軽く咳払いして口を開く。
「それに、猪豚人撃退と言う前団長であり現太守様の息子であるカンオン様ですら成し遂げられなかった偉業を遂げたではありませんか! 大事を成し遂げた英雄には相応の評価と報酬を渡すのが当然でしょうなあ」
「正当な働きには正当な報酬を。一介の傭兵が求めるのはそれだけですよ」
中年男性の賛辞に対してリョフウセンはそう答える。
「正規兵を使わずに猪豚人を撃退したリョフウセン殿に太守様はどうやって報いるつもりでしょうなあ?」
「さて? それは俺にはわかりかねますが………俺は太守様は道義を知る人物だと信じております。決して我らを粗略には扱いますまい」
リョフウセンはニヤリと笑う。
「もっとも、あくまでも猪豚人を撃退しただけに過ぎず、奪われた村々を取り返した訳ではありません。この状況で恩賞をねだるというのも気が早いとも言えるでしょう」
リョフウセンの言葉に中年男性は笑みを消し、どこか不服そうな表情になる。
「ふむ、リョフウセン殿は無欲でございますな」
「いやいや、俺ほど欲深い男はいませんよ。猪豚人を撃破して村々を取り戻し、この青化を安寧に導いたその時には、俺は恩賞を望むつもりです」
リョフウセンがそう言うと、中年男性はニヤリと笑う。
「なるほど、小さな物を複数よりも、大きな物を一つですな。流石はリョフウセン殿だ。そのご慧眼には感服いたします」
「ははは、俺のそれなどハドリ殿の眼力の前には児戯に等しいでしょう。誠に慧眼であられるのは青化の為に立ち上がった貴方こそ───」
「リョフウセン殿っ!!」
苛立ったような女性の声が回廊に響き渡る。
声の主に視線を向けれはジャオミンが怒気を宿してリョフウセンを睨んでいた。
リョフウセンが足を止めたのにあわせて待っていたが、進む気配がなくてイライラしたようだ。
「交友を深めるのは結構なことだが、あとにして貰えないかな?」
怒りが言葉から漏れ、ジャオミンはリョフウセンとハドリを嫌悪も露に睨む。
リョフウセンはジャオミンが睨んだのをみて肩をすくめる。
「副団長殿がお怒りのようです」
「ほう、城の奥に引きこもっているだけで副団長になれるのですかな? ハハハハっ!」
ハドリは会心の冗談が言えたと思ったのが腹を抱えて笑う。
ジャオミンは剣に手をかけるが、必死に深呼吸して怒りを抑えようとする。
「そう言えば俺は太守様に呼ばれていましたな。ではハドリ殿いずれまた」
「ええ、リョフウセン殿」
クククと笑いながらハドリは立ち去っていく。
僕達はハドリを見送った後怒り肩のジャオミンを先頭に回廊を進んでいく。
「リョフウセン殿」
トゥルイが困惑気味に声をかける。
「今はなにも言わないでくれ。全てが終わったら話す」
リョフウセンは振り向かずにその一言だけ言うと黙って歩き続ける。
やがて回廊の奥深くにたどり着くと、両開きの門が現れた。
「リョフウセン軍団長をお連れした。開門!」
「ははっ!」
先頭を歩いていたジャオミンが門番に向かって叫ぶと、門番は扉を開く。
一行が奥へ進むと赤い絨毯のうえに玉座があった。
玉座には中原人と南蛮人のハーフと思われる妙齢の女性が座っていた。
深紅の髪と瞳には力が宿っているかのように輝いて見え、武功を学んでいるのか体は引き締まっていた。
天寿を全うした先代太守の代わりに太守を名乗り、親族を粛清してその玉座を得た女太守がリョフウセンの姿をみて憎しみのこもった視線を向ける。
リョフウセンはそんな視線を浴びせられても仕方なしといった感じで女太守の前に出ると片ひざをついて頭を垂れた。
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