第30話 ご案内します

「さすが、ニックが大事にしてるだけあるね。頭が良くて……賢い。試すような事をして申し訳ありません愛梨沙様。僕は貴女にお礼が言いたかったんです」


「お礼?」


「はい。僕はこの国の人間ではありません。一年前まで、スラムで暮らしていました。酷いものでしたよ。みんな死にかけて、生きる気力なんてなかった。だけど、貴女が助けてくれた」


「一年前って……まさか……」


神様とニックにめちゃくちゃ叱られたあの事件ですか?!

世界中の人を癒すなど何を考えているんだ。我もそんな無茶な事は出来ないと神様が激おこしたアレですよね。


「あれだ。とんでもねー事やらかしやがって。あの後、国王陛下がどれだけ苦労したか分かるか? 聖女を寄越せと言ってきた国は片手じゃ足りない位だったんだぞ」


「それを全部潰したのはニックだろう?」


「……悪いのは向こうだ」


「ひぃ! ごめんなさい!」


確かにあれから色々あった。神様の力だとしても世界中の人々を癒すなんて異常で、聖女である私の力が強い事は明らかだった。神殿は私を旗頭にして嬉々としてお金を集めたけど、その時覚えた贅沢のせいで今はお金に苦労してる。神様は、こんな事は二度とできないと言ってくれたけど……それを信じてない人もいる。魔法で統計を取ると、0.01パーセントの人は神の力じゃなくて私の力だと気が付いていた。パーセンテージは低いけど、世界中の人を足すと結構いる。


その中には、国のトップも含まれるのだろう。


私は魔道具をいっぱい作って国王陛下やニック達をサポートしたけど、ずっと結界に篭りっぱなしだったからなにが起きているかあまり分かっていない。


ニックが何をしていたのかは知らないし、知ろうとも思わない。ニックとは相変わらずテレパシーで話せるけど、私が以前使っていた心を読む魔法は使えないよう封印した。使える力はいつか使いたくなるものだし、シスターコリンナみたいな考えの人がどこに潜んでるか分からないからだ。封印するまでに一悶着あったけど、使えなくなって良かったと思ってる。


「おかげでおふくろが元気になったし、オレは愛梨沙に感謝してるよ。過ぎた事はもう気にすんな」


「そうですよ。貴女のおかげで多くの人が救われたのは事実なんですから」


ルネさんがにっこり笑うと顔が赤くなる。美形、怖い。


「愛梨沙?」


ニコニコ笑う恋人はもっと怖い。ニックは意外と独占欲が強いのよね。他の男の人と話すと機嫌が悪くなるし。ま、そんなところも素敵なんだけどさ。


私が嫌がる事は絶対しないし、優しいし、かっこいいし……あ、しまった。また聞こえてるわ。さっきまで機嫌が悪かったニックの顔が真っ赤だもん。


「ははっ……やるね愛梨沙様。ニックのこんな顔、見た事ないよ。さて、そろそろ本題に入ろうかな。君達の目指す場所にご案内するよ」

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