第17話 病室にて
村へ無事に戻ったシンハたちは、急いで村の診療所へ運ばれて薬師に治療してもらった。
診断の結果、ソルは一日休めば問題なし。アリスは魔力の消耗が激しく、擦り傷や打撲の回復を考えると、三日の通院となった。
シンハに至っては重症で出血が多く、骨にヒビが入っている箇所も数カ所あったので、一月は通院と安静となった。
(当分ゆっくりできるってことか……。ソルには悪いけどラッキー!久しぶりにだらだらしよっと)
「そうか……。でも筋トレはできるだろ?付き合うから一緒にやるぞ!」
「話聞いてた!?骨にヒビ入ってんの!絶対安静だっつってんの!!」
「そうね……。筋トレじゃなくて瞑想しましょう!魔力操作の訓練にもなるし、戦闘で冷静でいるための精神コントロールの訓練にもなるよ。これならできるでしょ?」
「……い、いや、瞑想すると骨のヒビに響くと思うからさ……」
「嘘コケ!あんたもソルも精神力を鍛えなさい!!いつもいつも漫才みたいなおふざけしてないで!!」
「……マンザイってなんだ?」
「水の国で流行っているコミカルな劇(?)だったはずよ。何かの本に書いてあったわ」
「水の国か……。ここからかなり遠い国だよなぁ。……いつか行ってみたいなぁ」
コンコン
三人が診療所で雑談していると、ノックの音が聞こえた。
「どうぞ〜!」
「なんでソルが返事すんだよ、オレたちの病室だぞ……」
「ハリスだ、入るぞー。三人ともケガの具合どうだ?」
「俺は大丈夫!」「私も割と軽傷です」「オレは重傷です」
「うん、全員元気でよかった」
入ってきたのは狩人のまとめ役、ハリスだった。
「オレは重傷です」
「ハリスさん、どうしたんすか?ひょっとしてケガしてた?」
「いや、お前らの様子見と、いろいろと話聞きたくてな。もうすぐ村長もくるぞ」
「……オレは重傷です」
「シンハ、そんな重傷をアピールするな。充分元気じゃねぇか」
「誰も心配してくれなくて……」
「シンハは強い子だから大丈夫よ」
「そうだよ!シンハは強いからこのくらいどうってことないって!」
「適当言うな!こんな全身包帯の状態、大丈夫なわけねぇだろ!」
ハリスは元気そうな三人のやりとりを見て安心した。シンハは、包帯だらけで重傷には違いないが二人に弄られて元気に吠えているし、問題ないだろうと判断した。
(それにしても本当にこの三人が怪物退治したのか?
聞いた話だと怪物の強さはベテラン狩人が簡単に倒される強さだったはずなのに……)
大熊を倒す実力があるかも、という噂は聞いたことがあった。しかし、正直半信半疑だったハリス。
今回の黒い怪物の討伐もまだ信じきれてはいなかった。
(ただ、実際に怪物は近くにはいなかったし、この大怪我は何だって話になるよなぁ。……とすると本当にこいつらが倒したんだろうなぁ。襲われた若僧どもの話だと大熊以上の強さの怪物だ。そんな怪物を倒すとは……)
「失礼するぞい」
ハリスが考えを巡らせている間に村長が病室に来た。
ただ、村長は一人ではなく何人も引き連れて入ってきた。
「「アリス、無事!?」」
「パパ!ママ!」
「ありゃ?アリスの父ちゃんと母ちゃんも来たのか?」
「ソルとシンハの親も来ておるぞ」
「「げっ!」」
三人の両親を連れてきた村長。
命がかかった山狩りで子どもたちがケガをしたのだから、親としては当然心配する。
さらに言うと、アリスは一人娘なので父親には特に可愛がられており、しつこいくらいにケガの確認をされてアリスは辟易していた。
そんな様子をみてアリスの母親は安心していた。
ソルの家は、母親のみが入ってきた。
父親を早くに亡くしており、女手ひとつで育てた母親は、ソル自身のケガが少なくて安心していたが、他二人をケガさせたことを説教されていた。
一方、シンハの両親はというと……。
「やっぱりあんたが一番ケガしていたのね。ほんとにもう……、あれほど気をつけてっていったのに結局無茶したんでしょ?」
「え、えっとですねぇ……、それは仕方ない状況になった為でして……」
「命を落としたらそんな言い訳できないでしょ!!」
「か、母ちゃん……」
「まあまあ、母さん。そのへんにしてあげなよ」
「お父さんは心配してないの!?」
母親はシンハがソルやアリスに比べて弱いことを知っていた。
ソルとアリスは容姿が整っていて村の中でも一際目立っており、さらに最近ソルは剣術、アリスは魔法の訓練風景を村で見かけるため、二人の類い稀な才覚はすぐに村中に知れ渡っていた。
そんな二人といつも一緒にいるシンハも自然と目立つようになったが、暴走する二人をうまくコントロールできる稀有な存在という印象のみで、本人の能力は平凡なイメージを持たれていた。
今回の作戦に関しても、暴走しそうな二人のストッパーとして参加していたと両親を含めた村民には認識されていた。
しかし結果はシンハが一番ひどいケガをしていた。
母親としては、生きてくれていることで一安心していたが、実際の傷の具合や状況をハリスや村長から聞いて助かったことは奇跡だったと考えていた。
実際にシンハは奇跡的に謎の剣を入手したことで難局を乗り越えたので、生き残った理由は運の要素が大きかった
。
少しでも運が悪ければ自分の息子が死んでいた、と言う事実に心中穏やかではいられなかった。それは、父親も同じだった。
しかし、父親は違う感想も持っていた。
「もちろん心配したよ。……でもね、シンハは危険を承知で今回の山狩りに参加したはずだよ。嫌だったら辞退してもよかった。
本気で断ればソルくんやアリスちゃんも強引には参加させない子達だからね。だから、参加したのはシンハの意思だ。その勇気ある決意は尊重したいな。でしょ、シンハ?」
「……ああ、もちろん。参加はオレの意思だ」
シンハは真剣な眼をして父親と母親を見つめた。
「あの二人なら参加したがると思った。そうなると二人が心配だったんだ。
平凡なオレとは違って二人は強いけど、今回の敵は未知数ですごい危険だった。
もし二人が調子にのって挑んで、そいつに喰われたり殺されたら、きっとオレは一生後悔すると思った。
ならせめて、オレの目の届く範囲で無茶して……その上で、オレがサポートすることが最善と思った。……だから参加したんだ」
「……でも、そのケガ見るとあんたが一番無茶したんじゃないの?」
「それに関しちゃ何も言えない……。心配かけちゃってゴメン。
だけど、逆に言えばオレが無茶したからみんな生きて戻って来られたと思っている。このケガは、かなり痛かったけど勲章と思ってるよ。
母ちゃんがなんて言おうと、オレは間違っていないと思ってる」
「……」
父親はシンハの話を黙って聞き、母親は何か言いたい様子だった。
シンハは続けてこういった。
「オレは主力にはなれないけど、誰かを支える人……助けられる人でありたいから。参加する以外の選択肢は浮かばなかったよ」
息子の強い意思が篭った言葉に母親は何も言えなかった。それは初めて見る息子の立派な姿で、心配の気持ちを上回るくらい逞しさや成長を感じた。
「……子どもはいつのまにか成長するんだねぇ、母さん。ぼくは父親としてシンハを誇りに思うよ」
「……そうね。……それに、叱るよりも先に言うことがあったわね」
「え、なに?……なんか怖い」
「……おかえりなさい、シンハ。よく生きて帰ってきてくれたわね」
「!……へへ、ただいま」
少し涙目だがようやく母親は笑い、シンハも安堵した。
その様子を村長やハリスも笑って見守っていた。
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