第16話 山狩り終了
「……っはぁあ!!か、勝てた……!!よっしゃー!!!」
自分の実力で格上の相手に勝てたことに自身の成長と勝利の余韻にソルは浸っていた。
しかし、シンハとアリスがピンチだったことをすぐに思い出した。
「なんて喜んでいる場合じゃねぇ!早く二人を助けなきゃ!!」
ソルは駆け出して周囲を探した。
すると、すぐに木の根元に座って気絶しているアリスを見つけた。
「アリス!大丈夫か!?」
「う、う……ん」
「よかった……眠ってるだけか。そういや、魔力使いすぎると眠くなるっていってたな」
魔力を消耗しすぎると体が回復しようとして、どうしても眠くなるという話をアリスから聞いていた。目立った外傷はとくに無さそうなので、今も魔力切れによる睡眠状態なのだろう。
「……シンハはどこだ?あの黒い狼もいねぇし。……ま、まさか、やられてないよな!?」
その時、少し離れた場所から強烈な光が放たれた。
「な、なんだ!?また怪物か?」
剣を構えてしばらく警戒していると、光が止んだ。
その後もいつでも斬りかかれるように構えて待つソル。
ガサガサ
「っ!!さっきの狼か?出てこいよコラァ!!」
「お、れだ……、ソル。斬るな、よ……」
「シンハ!?よかった、無事だったのか!!」
「この、状態で、無事とおも、うか……?」
「おいおいボロボロじゃねぇか!?待ってろ、すぐに手当てしてやる!!」
「ま、ま、て……!じぶ、んでや……」
「よし、傷に傷薬を塗ってやるぜー!!」
「んぎゃぁああああ!!し、沁みるぅううううう!!!!」
*****
「……あんなに頑張ったのに、最悪な目にあったぜ」
「いやぁ〜よかった!俺の手当が間に合ったようだな!」
「そうだね、ありがとよ。おかげですごい痛みで意識が回復したよ、バカヤロウ!」
「……ああ、頭が重いわ。あんたらの騒ぐ声で起こされて寝覚めが悪いわ」
ソルの雑な手当てを強引に遮り、自分で応急処置をしたシンハ。
「俺がやってやるから!」「止めろ!」っと譲らずに騒ぎあった声で、アリスも睡眠状態から目を覚ました。
「これで終わったのかな?」
「わからねぇ。怪しい気配は感じなくなったけど、さっきもそうやって油断したところを襲われたし、警戒は怠るなよ」
「ああ、ただでさえソル以外は満身創痍だからな」
「私も今襲われたら流石にやばいかも。魔力がすっからかんだからね」
「……ところでよぉシンハ、その剣なんだ?」
「そうそう、私も気になってたの!綺麗な剣だよね〜。どこで見つけたの?」
「森の奥で見つけた。……変な声に呼ばれてさ、狼に吹き飛ばされながら声の方向へ向かったら地面に刺さってた」
シンハは自分と黒い狼との戦いの過程を説明した。その途中で聞こえた声や手に入れた剣のことも。
「お前も一人で勝ったのかよ!!やっぱやれば出来る奴なんだよ、シンハはさ!!」
「オレが勝てたのはこの剣のおかげだよ。それまではギリギリ防御できただけだった。……途中でその防御も破られてボコボコだったけど」
「それにしても、変な声に地面にささってた剣?不思議なこともあるものね〜」
「……今にして思えば声が聞こえたのは気のせいかも?意識が朦朧としてたし、幻聴だったのかな?」
落ち着いて考えると謎だらけだった。
謎の声のことは曖昧だが、森の中に見たことのない剣が刺さっていたのは事実だった。現に今もその剣を持っている。
使ってみた感じ、かなり特殊な力をもっている剣のようだった。かなり高価な剣のように見えるが、なぜこんな辺境の村近くの森に刺さっていたのか?
(……ま、考えてもしょうがないか。こいつのおかげで助かったんだし、持ち主が見つかるまでは縁起物としてしばらく持ってよ〜。……持ち主見つからないと思うけど)
「オレとしてはあんな怪物と戦ってそんな元気なソルに驚いてるよ」
「ソルも一人で勝っちゃうなんてね。あの黒い熊もかなり強そうだったのに」
「雰囲気的に熊のほうが強そうだったよな。さすがにソルといえども厳しいと思ったけど……さすがだよ」
「俺も最初は負けるかもって思ったけどさ、なんていうんだろ……覚悟決めたら力が湧いてきた?」
「何で疑問系なんだ?覚悟って何の覚悟だよ」
「世界を旅するって覚悟。今まではいつか行きたいって漠然とした未来だったんだけど……」
「「けど?」」
ソルは立ち上がり遠くを見つめた。
まるで、まだ見ぬ世界に思いを馳せているようだった。
「あの熊は、これから戦う強敵たちに比べたら普通なんだ。こいつに勝てないようなら世界へ出るなんてずっと先になるんだ……そう思ったんだ。
そうしたらさ、今ここで勝たなきゃダメだ、『この程度の相手』に負けてられるかって思ったら力が湧いてきた」
「……そうか。じゃあ最初の壁を乗り越えて強くなったってとこか」
「そのせいでじいさんから貰った剣が欠けちまったけどな。あとで直してもらお」
「あんな強い奴倒せたら、もう本当にこの森の敵じゃ物足りないね。……ってことはソルはもうすぐこの村から旅立つの?」
「今すぐじゃない。けど、お前らのケガが治ったら旅立ちたいな〜」
「やっぱ俺たちも一緒にか?」
「……いやか?」
少し不安げにソルは二人に問いかけた。
二人は一瞬ポカンとした顔になったが、すぐに笑った。すでに答えは決まっていた。
「一緒にいくに決まってんじゃん!!あんたたち二人との旅なら面白そうだし!!いろんな魔法を見たいし覚えたいもん!!」
「まあ、お前が誘ってくれなきゃ世界に行くなんて思いもしないだろうな。戦闘は二人に任せるけど、折角だし、オレは気ままな世界旅行としてソルについていくよ」
「そ、そうか……。へへ、やっぱそうこなくっちゃな!!楽しみになってきたぜ!二人とも早くケガ治せよ!!!」
不安そうな表情から一気に元気な顔になったソル。
全力で旅を楽しくするためには、二人も一緒が最低条件と考えていた。
シンハとアリス、二人が一緒ならどんな壁も乗り越えられる。
ソルはそう信じていた。二人が賛同してくれた今、恐るものはなくなり、これからの旅が楽しみでしかたなくなった。
その時——
「おーーーい!!大丈夫かーーー!?」
遠くで多くの人の声が聞こえた。
「この声、ハリスさんね!応援が来てくれたみたい」
「……ちょっと遅かったな。もう少し、早く来てくれたら嬉しかったぜ」
「だな!俺たちの勇姿を見せられたのによ!」
「いや、オレが言いたかったのはそうじゃなくて。……まあいいや、今日は疲れたからもうツッコミやめよ」
ハリスは狩人を連れて駆けつけてきた。武装した狩人たちが弓や片手剣を携えて臨戦体勢だった。
「無事か三人とも!……ってみんなケガしてるじゃないか!?シンハなんて血だらけじゃねぇか!!」
「いろいろあってね……」
「あらかたの話は聞いた。怪物の姿が見えないが………この様子だと、もしかして、お前らが怪物を追い払ったのか?」
「いや?怪物なら俺たちで倒したぞ!!」
「た、倒した?さすがにそれは……。いや、まずはここから離れよう。山狩りはいったん終了する!三人をます治療してもらおう!」
狩人たちは戦闘体勢を解き、三人を運ぶ準備をした。ソルは自力で動けるため、アリスを担ぎ、シンハは若い狩人に担がれた。(ちなみにアリスは歩くことはできたが、ソルに担がれて嬉しそうだったので黙っていた)
こうして、タート村の危険な山狩りは終了となったのだった。
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