第14話 運命の交差 ー声に導かれー

 (……身体中、痛い……。でもあいつの標的はアリスからオレになった。あとは、応援がくるまで……耐えれば……)


 ふらふらのシンハに黒い狼は手を抜かなかった。爪攻撃に噛みつき、膝蹴りなど攻撃の手を休めない。

 身体中に打撲や切創だらけで、体力も消耗しているシンハはナイフで何とか受けることで精一杯だった。


 しかし、狼の猛攻に耐えきれずに何度も攻撃をくらい、狼のスピードに乗った頭突きによって再度吹き飛ばされた。


「ぐ、ガハ……。や、ヤバイな……。応援、くるまで、持たないかも……」

「グルフフフ」

「……な、んだ?……わら、てるのか?……畜生の、分際で、バカにすんなぁ……!!」


 そう叫んでシンハは、ナイフを投げた。

 あまりに予想外だったことと、ボロボロの相手に油断していた黒い狼は驚き、反応が遅れた。


 ナイフを何とか躱すことができたが、迫ってきていたシンハに思いっきり飛び蹴りをされてよろめいた。そして、予備として持っていたもう一本のナイフを取り出して追撃した。


 しかし、黒い狼はすぐに立て直してシンハの攻撃を受け止め、そして思いっきり殴り飛ばした。


 「っぁ!?」

(ま、まずい……、意識が飛びそうだ。このままじゃ、や、やられる)


 シンハのダメージが深刻になってきたが、黒い狼の攻撃は止まらない。

 しかし怒りで攻撃が粗くなったことで予測しやすくなり、シンハは必死で避けて、ナイフで攻撃を防ぎ続けることがてきた。


 グゥウウウ!!


 「へ、へへ……苛ついてんな。防御力は唯一の取り柄、なんだぜ?そんな、粗い攻撃……わけ、ないんだよ!!」


 ナイフで爪攻撃をいなして体勢を崩し、その隙をついてナイフで思いっきり突いた。やはり毛皮が硬くて刺さらないが、黒い狼はさらに苛ついたようだ。


(オレから攻撃しても、ダメージにならずに、隙をつくってしまう……。とにかく時間を稼いで、ソルか狩人の、応援を待とう……)


 体力の限界も近いから自分から攻めないことで、動く時間を減らし体力を少しでも回復させながら黒い狼の攻撃を凌ぐ。

 シンハが今一番有効と考える手段だった。


 しかし、その手段を覆す一手を黒い狼に打たれた。黒い狼は後ろへ飛び退くとしゃがんだまま固まった。


(何か仕掛けてくる気か……?だったらタイミングを測っていなしてみせる!!)


 ナイフを構えて攻撃に備える。黒い狼の攻撃パターンがある程度絞れていたため、防ぐだけならば耐え抜く自信があるシンハ。しかし、黒い狼は今までにない攻撃を仕掛けてきた。

 しゃがんだ状態から思いっきり跳躍してシンハに向かってきた。


(初めての攻撃!?しかも速い!!)

 

 バキン

 「……っぁ……!」

 ドゴーン


 なんとかナイフで受け止めたが、衝撃に耐えきれずにナイフは折れ、そのままシンハは吹き飛ばされた。

 多くの木々を薙ぎ倒しながらかなり遠くまで飛ばされ倒れこんだ。そのままトドメを刺そうと狼は近寄ってきた。


(……い、一瞬意識が飛んだ……。アリスに注意が向かなかったことはよかったけど、このままじゃオレをすぐに始末してアリスに向かっていく……。何とかしなければ、でもどうすれば……)


 体がうまく動かず、予備のナイフもなくしてなす術がなくなった。

 痛みで考えがまとまらず、シンハは混乱し焦りが募っていく。


(落ち着け、落ち着けよシンハ!力がないなら頭ぁ使え!!この状況を打破する方法を考えろ!オレの敗北はアリスやソルの危険に繋がるんだぞ!!)


 必死に己を鼓舞して対策を考えるが浮かばない、絶体絶命の危機に陥っていた。

 その時――。


 『――こっちへ来て』


 どこからともなく、聞いたことのない声が聴こえた。


 「……だ、だれ、だ?」

 『――こっちへ来て、助けてあげられるから』


 普段だったら怪しんで聞く耳を持たなかった。

 しかし、頭が回らずに絶体絶命な今の状況に、藁にもすがる思いで声のする方へ向かった。


 狼はシンハが逃げると思い、急いで追いかけてきた。

 そして、また少ししゃがんで力を溜めての跳躍攻撃を仕掛けてきた。シンハは直撃は回避したが、完全には避けきれずに再度吹き飛ばされる。


 しかし、幸運にも吹き飛んだ方角が声のする方向だった。

 吹き飛ばされたせいで地面に倒れ込んだシンハだったが、傷だらけの体に鞭をうって声がした方向に顔をあげた。


 そこには、この森に似つかわしくない、光り輝く剣が地面に刺さっていた。


 「な、なんで、ここに、剣が?……しかも、まぶしっ」

 『——この剣を抜いて戦うんだ』

 「……あ?」

 『——この剣ならあいつも切り裂ける、使うんだ』

 「……お前、だれ、だ?なんで、そんなこと、わかる?」

 『——考え込む暇はないだろ?今君にしかできないことだ』

 「よ、くわからん、が、みんな、助かるなら、やってやる……!」


 シンハは謎の声に従って剣を引き抜いた。

 剣は眩い光を放ち、やがて収束した。不思議な剣だが何となく手に馴染むように感じた。


 黒い狼は襲い掛かろうとしているが、何かを感じ取ったのか、シンハが持っている剣に最大限の警戒をしていた。


 「急にビビり出したな、畜生野郎。でも、オレも、余裕がない。……一気に決める!!」


 シンハは最後の気力を振り絞って駆け出した。黒い狼もここで確実にシンハを潰そうと決心した。また後ろに飛びのいてしゃがみ、最大の力を込めて跳躍攻撃を仕掛けた。

 互いに次の一撃で決めるという、決意の衝突。



 ガカーン!!!



 爪と剣の激しい衝突音があたりに響く。純粋な力は圧倒的に黒い狼が上だった。加えて黒い水晶の力で身体能力が上がっているため、この勝負は狼が優勢だった。


 しかし、シンハが手に入れた剣が衝突の瞬間、再度眩い光を放った。

 すると、黒い水晶の力で作られたモヤがかき消され、黒い狼の力は削がれた。

 さらに剣自体の切れ味が凄まじいようで、一時は拮抗したシンハと黒い狼だったが、すぐに剣が爪を切り落とし、その勢いのまま黒い狼を一刀両断した。


 黒い狼は悲鳴をあげることもなく一瞬で絶命し、肉体は粒子のようになって消え黒い水晶だけ残った。


 「ハァ……ハァ……、勝った、のか……」


 まだ油断できない。

 だが、とりあえずの危機を脱したシンハはホッと一息ついた。

 しかし、すぐに気持ちを切り替えてアリスとソルのもとへ向かった。黒い水晶は村長たちへの報告のために回収して懐にしまった。


 ――この時、謎の声と手に入れた剣のことはシンハの頭から抜けてしまっていた。しかし、後にこの剣の重要性を知って驚愕することになるが、シンハは知る由もなかった。

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