第12話 油断大敵
黒い獣一匹とシンハたち三人が対峙している。
数では有利だが、こちらは森の獣しか相手にしたことがない上に、相手が見たことのない獣のため、弱点がわからず迂闊に攻められずにいた。
「どう攻める?俺が切り込むか?」
「いや、オレが切り込む」
「ちょ…、大丈夫シンハ?あんたあんなにビビってたじゃん」
「いや、さっきの一撃やお前らとの戦闘で攻めることはできなくても攻撃を捌いたり耐えたりはできるってわかった。なら役割分担して攻めた方がいいと思ったんだ」
「役割分担?」
「オレがあいつの攻撃を受けとめる。その隙をついてソルが攻撃してダメージを与えていく。弱って動きが鈍ってきたところをアリスが魔法でトドメを刺す。アリスはそのために魔力をためてくれ」
「『魔力溜め』のこと?あれ結構疲れるから溜めて魔法出したあと倒れちゃうんだよね」
「でも一番ダメージを与えられる。たぶんこれが最善だと思う、どう?」
「へへ、俺はいいぜ!なんなら俺の一撃で仕留めてやるよ」
「それならそれで構わんさ」
「じゃ、作戦開始ね?」
「ああ、行ってくる。二人とも頼むね」
「「任せろ!!」」
シンハは黒い獣に向かって走り出した。黒い獣は先程とは違い爪で迎撃せず息を吸い込んだ。次の瞬間、口から黒いガスを吐き出した。何とかジャンプして避けることはできたが、シンハは驚愕した。
ガスが触れた木々がドロドロに溶けてしまった。ジューっという音と異臭を放って溶ける木々を見て戦慄した。
(あ、あぶなっ!あんな危険な技ももってるのかよ!?下手に近づくと危ない!けど……)
自分は相手の攻撃の的にならないといけない。怯え始めた気持ちを押し殺してシンハは思い切り飛び込んだ。
対する黒い獣は、少し息を吸うと今度は連続してつばを吐き出した。これもシンハは避けることに成功した。このつばも地面や木々を溶かす危険な代物だった。ガスと違って範囲は狭いが、素早く発射されるので避けることが難しい。
「何でさっきまでソルにしなかった攻撃をオレにしてくるんだよ!」
「気をつけろよシンハ!何なら役割交代してもいいぜ!!」
「だめだ!オレのナイフじゃあいつにダメージ与えられない!!お前の剣でダメージ与え続けて、あいつの動きを鈍らせるんだよ!!」
そういってシンハは再度黒い獣に近づいた。何発もつばを吐いてくるが、単調なリズムだったので回避がしやすく今度こそ獣の懐に潜り込めた。
「はあっ!!」
ガキン
ナイフを振うシンハに対して、今度は爪で迎撃してきた黒い獣。つばやガスは息を吸う必要があると考えたシンハは、息つく暇を与えないようにナイフを振るい続けた。黒い獣も応戦して爪でシンハのナイフを弾いた。獣の方が力が強いようで、シンハは攻撃から一転して防御で手一杯になった。
黒い獣は、調子が良くなったからか徐々に力強く爪を振るえるように、振りかぶりが徐々に大きくなってきた。
瞬間、タイミングを見計らってシンハはその大ぶりな一撃を躱し、黒い獣が勢い余って体勢が崩れた。
「隙ありだぜ!!」
ザシュン
「グルゥウウアアア!!?」
「やった、ナイスだソル!!」
「いや、ダメだ!切り傷がつかない!こいつ凄い硬いぞ!!」
「でも打撃として効いてる!この調子で続けるぞ!!」
それからシンハがナイフで引きつけて隙をついてソルが思いっきり振りかぶって剣を叩きつけた。硬い毛皮と黒い水晶に阻まれて斬れなかったが、打撃としてダメージが入っており黒い獣がよろけ始めた。
「グ、グルゥ」
「よ、よし、だいぶダメージ溜まってきてるな!」
「こ、こっちも疲れが溜まって体力がヤバい……」
「……それじゃ、そろそろ私の出番ね」
「「おお!?」」
アリスの魔力溜めが終わったようだった。
かなりの魔力を溜めた様子で、全身に赤い魔力がオーラとなって可視化されていた。魔力が大きくなると目で見えると書物に書いてあったが、実際に目の当たりにすると想像以上の迫力があった。
そんなアリスの異様な雰囲気を感じ取った黒い獣が息を吸ってアリスにガスやツバを吐こうとしていた。
「させない!!」「どりゃぁああ!!」
息を吸う行為が逆に隙になり、シンハとソルが斬りかかった。まともにくらってしまった黒い獣は、吸った息を吐き出して倒れ込んでしまった。すぐに起き上がったがもう遅かった。
「待たせたわね……。私の最大の魔力を丁寧に込めた魔力の球よ。ありがたく召し上がれぇ!!」
得意の火の魔法では森が燃える。そう考えたアリスは、純粋な魔力の塊をブツけることにしたようだった。ただしその大きさは黒い獣と同じか少し大きいサイズだった。
「いっけぇえええええ!!!!」
轟音とともに一直線に黒い獣へ進む魔力球。
黒い獣は何とか反撃しようとしたのか、体に生えた黒い水晶を光らせた。
しかし、何をしようともう間に合わない。
魔力球は黒い獣に直撃し、大きな爆発音があたり一体に響いた。
爆発の衝撃で砂埃が舞い、視界が悪くなった。
しかし、しばらくすると視界が晴れて見えるようになった。そこで見えた光景は、黒い獣がいた場所の地面が抉れ、黒い獣は生えていたと思しき黒い水晶だけを残して消え去っていた。
「や、やったみたいだな、はぁ〜疲れた……」
「へへ、アリス凄い一撃だったぜ!おかげで助かった!」
「ふふ……ありがと。……でも、さすがに、疲れたわ」
そういってアリスは倒れ込んだ。シンハもずっと全力で動き回ったことと緊張から解放された安堵から座り込んだ。唯一元気なソルが二人を労った。
「二人ともお疲れさん!間違いなくお前らがあの獣を倒したぜ!!」
「い、いや、お前の攻撃がなけりゃ、あそこまで相手の体力は削れなかった。誰が欠けててもヤバかったさ」
「そ、そうね。あ、あんな怪物、が、いたなんて」
「アリス、無理して話さんでいいぞ。休憩してな。……しかし、結局なんだったんだろうな、あいつ?」
「……わからん、もういいよ。いったんは後でその黒い水晶をハリスさんに見せようぜ?」
「ああ、唯一残った痕跡だもんな」
三人は安心したのか、談笑を始めた。
自分たちで動くには疲れすぎたので応援の狩人たちがくるまで休憩していた。
完全な油断だった。
――ゆえに、新たな脅威が近づいていることに気づくことが遅れてしまった。
「!!シンハ、アリス、ヤバいぞ!!」
「あ?どうし……!?」
「う、う、そ……?」
三人の前に先程とは別の黒い獣が二体現れた。
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