第11話 モンスター
三人は全速力で悲鳴が聞こえた森の奥へ向かった。
奥へ向かうにつれ、徐々に禍々しい気配が強くなってきていることを感じ取った。
(な、なんだこの気配!?今まで感じたことのない嫌な気配だ!)
「シンハ、アリス!!かなり不気味な化け物みたいだ!注意してくれ!」
「「了解!」」
ソルも感じていたようで二人に忠告してきた。
三人はいつでも戦えるように、シンハはナイフを、ソルは老人から貰った剣を、アリスは魔法を放てるように走りながら魔力循環を活性させて臨戦態勢に入った。
そして木々をかき分けて走り続けること数分、若い狩人数人と見たことのない黒い獣が対峙している光景に遭遇した。
何人かは血を流して倒れ、対峙している数人は青ざめた顔をしていた。
黒い獣は一匹だったが、その存在感は異様だった。
報告されたように、狼のような姿だがこの黒い獣は二足歩行していた。灰狼や大熊とは比べ物にならない程の大きさで、想像以上の黒さに口以外のパーツが見えなかった。さらに体は黒い毛皮のところどころに黒い水晶のようなものが生えていた。
とても普通の生き物に見えず、文字通りの『怪物』だった。
「例の黒い獣か!くそったれぇえ!!」
「お、おいソル!!」
ビュンと風のような急加速をしたソルは一直線に黒い獣に切りかかった。
しかし、黒い獣も急接近するソルに反応して爪で迎撃してきた。ガキンという衝突音がして、しばらくソルと黒い獣は鍔迫り合いをした。
ほどなくしてお互いが吹っ飛び、ともに倒れ込んだがすぐに体勢を整えて対峙した。
「よし、この隙にケガ人を避難させるぞ!!アリス!!」
「わかってる!!」
ソルが黒い獣を引きつけている間にシンハとアリスは狩人たちのもとへ駆けつけた。
「みんな、大丈夫か!?」
「シンハにアリスちゃんか!?助かった!」
「何が起きたの!?」
「お、俺たち森の奥の探索班だったんだ。ここの辺りを探索してたら、や、奴が急に襲ってきてすぐに何人かやられちまって……」
「そ、そんな……」
シンハは、まずケガ人たちの様子を確認した。
みんな命に別状はなさそうだが、かなりの大怪我をしているのですぐに治療が必要だった。ベテランが真っ先にやられている所を見ると黒い獣は戦力を見分ける知能があり、奇襲による先制で戦力を削いでから、弱い者をゆっくり食べようとしていると考えた。
(狡猾でやっかいな敵だ。ここにケガ人と戦意喪失したみんなが残るとまた狙われる!)
「アリス、オレはケガ人の応急処置をする。お前はソルの援護してくれ」
「わかった!終わったらあんたもすぐに手伝いにきなさい!!」
「了解!!みんな傷薬全部だしてくれ!!」
「わ、わかった」
シンハは狩人たちの持っていた傷薬を使ってケガ人の応急処置を始めた。
といっても、持っていた水筒の水で傷口を洗って薬を塗ったり、止血や骨折箇所の添木程度の簡単な処置だった。呆然としている若い狩人たちに指示をだして全員の応急処置を行なった。
「す、すごい手際がいいな……」
「あ、ああ。俺たちよりも慣れてないか?」
「昔ソルが無茶して怪我しまくってたから、慣れてるんだよ。……よっし!応急処置はできた!あとはみんなでケガ人を集合場所まで運んでくれ!!」
「お、お前らはどうすんだよ?」
「あの黒い獣の足止めに決まってんだろ?みんなが避難する時間稼ぎしなきゃ」
「む、無理だ!あんな怪物に勝てねえよ!!経験豊富な狩人が一撃で装備ごとボロボロにされたんだぞ!!お前らみたいな狩人でもない奴らじゃ戦いにすらなんねぇよ!!」
「あれ見ても言えるか?」
「え……っ!!」
そういってシンハが指さした方向を見て、若手の狩人たちは絶句した。
黒い獣の素早く激しい爪攻撃にソルは完全に反応して凌いでいた。それだけでなく、隙を見て反撃をしていた。さらにアリスが両手から火の魔法を繰り出して援護してるため、黒い獣の体には切り傷や火傷が増えていた。
「ば、ばかな……。噂できいたことはあったけど、ソルってあんなに強かったのか?」
「あ、アリスちゃん魔法使ってる……。俺、魔法を初めてみた」
「あいつらがいれば時間は稼げる。その隙に逃げてくれ!そんでハリスさんにこの状況を知らせてくれ!!」
「わ、わかった!すぐに助けを呼ぶから耐えてくれよ!」
そういって狩人たちはケガ人とともにこの場を去ろうとした。
その時……。
グゥオオオオオオオ!!!!!
黒い獣が咆哮をあげ、ソルを無視して狩人たちへ向かってきた。
予想外の急な行動にソルが驚いて動きが遅れる。アリスが魔法で攻撃しようとしたが、射線上に狩人やケガ人がいたために撃てなかった。狩人たちは突然のことに体が固まってしまって動けず、黒い獣が爪を振りかぶって狩人たちに襲いかかってきた。
ガキン!!
咄嗟に体が動いたシンハが狩人たちと黒い獣の間に割って入りナイフで爪攻撃を防いだ。ものすごい力に押し潰されそうになったが、ここで引き下がるとケガ人やケガ人を運ぶ狩人が危ないため、根性で耐え抜いている。
(シャクだけどソルやアリスの訓練に付き合ったおかげで力も上がっているし、冷静に対処できてる……!!)
「ぉおりゃあ!!」
ドカっ!
黒い獣の胴を蹴って間合いをとったシンハ。黒い獣は再度襲いかかることはせずにシンハの様子を伺っていた。シンハはこれ幸いと息を整えて黒い獣の出方を待ちながら、狩人たちに叫んだ。
「今のうちにすぐ逃げてくれ!」
「わ、わかった!!すぐ助け呼ぶから、頑張ってくれよ!!」
そして、今度こそ狩人たちは逃げていった。黒い獣も追いかけようとするが、ソルとアリスが追いついてきたため追うことを諦めた。
「ナイス、シンハ!!おかげで間に合ったぜ!」
「根性みせたわね、少し見直したわ!」
「き、気づいたら体が動いてた……。こ、怖かった〜。お前らとの訓練で体に染み込んだ動きが反射的にでたみたい」
「へへ、感謝してくれよ」
「そうね、帰ったら何か奢ってよ」
「……まあ、無事に帰れたら考えるよ。それより命令だと逃げること優先なんだけど……」
シンハの問いかけにソルとアリスが不敵に笑った。
「あっちが逃す気ないだろ?だったら戦うしかないじゃん?」
「それにここですぐ逃げたら、さっきのみんなが先に襲われるかもしれないわ。もう少し私たちが戦って時間稼ぐ必要ああるでしょ?」
「……自分でも言ったけど、やっぱそうだよな。しょうがない、いくか!!」
「「おお!!」」
こうして、三人の初めての命をかけた戦いが始まった――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます