第9話 進展?
「なあお前さん。そろそろ罪を認めて自首したらどうだ? 今ならまだ間に合うぞ」
「……ま、待て。自首ってなんだよ自首って」
「ガハハッ、冗談だ冗談」
今日も今日とて宿に併設された食堂で飯を食べる男は、仲良くなった店主とこんなやり取りを行っていた。
「まあオレとしてもお前さんが悪いことをしたとは思ってないが、居所を隠し続けるのは
「えっと、居づらくなるって……?」
「有力な情報が掴めてなくて焦ってるのか、お前さんを捜索する動きが止まらなくてなあ」
「え?」
探されていることを知ったその日から、街に出ることなく宿でのんびり過ごしながら英気を養っていた男なのだ。
外の情報を自ら遮断していたようなもの。
「結果、ありとあらゆる噂が飛びかってるくらいだぜ? 公爵アルディ家の家名に傷をつけただの、聖々教会のアンサージ家を穢しただの、アルブレラ家の商業機構を崩そうとしただの」
「……」
真顔で答える店主は、気を利かせて胸の内に留めていることがある。
目の前の男のせいで——黒の装備を着るトレジャーハンターが誰一人としていなくなったことを。
全ては“捜索されている者”だと誤解されないように。
「なんかここまで心当たりがないとなると……俺以外の誰か説がないか?」
「言われていたのは『漆黒』だぞ? お前さんしか該当せんだろ」
『なに言ってんだ』と鼻で笑われる。
「い、一応聞かせてほしいんだけど……もしその噂が本当だった場合、どんな罰が待ってると思う?」
「一番軽い罰だとしても、この街に立ち寄ることすらできなくなるだろうな。三強が協力すればそのくらい朝飯前さ」
「……」
この街を牛耳っているような権力に唖然とする男。
この世界に転生した初日。
長すぎる。覚えられない。なんて理由で彼女らのフルネームを流していなければ、捜索理由を察すことができていただろう……。
「んなわけで、うちの清掃員が真っ青になってたぜ? お前さんの部屋に置かれた例の装備を見てな」
「……な、なんか迷惑かけてすまん。お詫びに宿で協力できることがあったら言ってほしい」
「オレとしては早くこの問題を解決してほしいんだがな? 匿う方も心臓に悪ぃ悪ぃ」
そう言われてしまえば返す言葉もない。
「って責めたこと言ったが、宿は変えない方がいいぞって助言はしておいてやる」
「ん?」
「お前さんの宿泊場所の情報を伝えてくれた者に100万レギルの謝礼をすると伝達されててな。三強全員がそれをやってるから、計300万レギルの大金よ」
「そ、それは間違いなく売られるな……。いや、あの装備見た清掃員さんに売られる可能性もあるのか」
300万というのはそれだけの大金。むしろ今売られていないのが不思議なくらいである。
そして、遠方から来街=宿屋に泊まる。この考えで『宿泊場所』の狙い撃ちがされているのだろう。
本気度が伺える。
「それが伝達の件はオレ達宿主のみで、言いふらすことが厳禁なんだよ。大っぴらにした方が効率的なのにな」
「その前に、そんなことを俺に教えてたりして……」
「もう今さらだしな」
眉を上げながら男気溢れる返しをする店主である。
「それにお前さん、実はとんでもなく偉い人間だろ?」
「な、なんで?」
「あの三強がやけに気を遣ってるっていうか、配慮しながら探してるのは明白だからな。言葉にするのは難しいが……周りを血眼にさせないような探し方をしてるっていうか、金を出してるくせに注目を集めすぎないようにしてるっていうか。こう立ち回ってる理由が必ずあるはずだからな」
「ま、まあ全然偉くないぞ? 俺」
「ハハ、どうだか」
実際に偉くもなんともないが、態度を変えないように立ち回ってくれているのは本当に嬉しいこと。
さらには最大限に気を遣ってもらっているのだ。
そんな店主を相手に、これから先も迷惑をかけるのは——と、反省する男である。
「……でも決めた。店主さんの言いように、先延ばしにするのはやめるよ」
「そっちの方が伸び伸びできるのは間違いないしな。っと、これはオレの予想だが、あんまり気負うことはないと思うぜ? ヤベエことをしたなら、警戒されるような探し方はされてないだろうからな」
「ああ、それは確かに」
納得の言葉を聞き、少し気が楽になる男である。
「それじゃ、あの装備を着て街に出るか……。明日」
「明日かよ」
「もしもの時があるから、今日は観光を……」
「フッ、別に気にしないがな。いい街だから楽しんできな」
「助かるよ」
そうして今後のスケジュールを決めた男はどこかスッキリしていた。
その一方で——トレジャーハンター協会では、支部長が頭を悩ませる出来事が起きていた。
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