第10話 5-2.妹の結婚式に出席する

 和彦は妹から結婚式の写真係を頼まれると、快く引き受けた。

 式場でどう振る舞えば良いのか不安に思っていたので、ちょうど良かった。

 何か役割があって、それに没入していれば、回りと上手くコミュニケーションを取らなくては、と焦らなくても済む。

 教会での式を終え、披露宴までの待ち時間に、久しぶりに会った親族への挨拶代わりに、写真を撮りまくった。


 和彦は十九歳で実家を出奔、東京へ出て五年の間は一度しか実家へ帰らず、二十五歳から旅に出るようになったから、今日、妹を祝うために集まった親戚達とは十年から十五年はご無沙汰していて、帰って来て、またどこかへ行くのか、とか、あるいは、よく帰って来れたな、よく結婚式に顔が出せたな、などと散々な言われようで、母方の叔父からは、子供の頃から変わっていて、変な箸の持ち方をしていたから直そうとしたら、誰にも迷惑掛けてへん、と言い返されたことなどをあげつらわれた。


 披露宴では出席者一人ずつ挨拶をすることになり、和彦は、仕方なく、妹に先を越されました…、と言うと、場内から笑いが漏れた。先を越されるどころか、突然舞い戻って来て闖入して戸惑っている、という感覚が正直なところだが、そんな話をしたら会場は静まり返るだろう。

 こういう席では常にそうなる父は、ビールを呷り、陽気に、周囲にもついで回った。

 新婦の父親なんやから、もうちょっと落ち着いて、量を抑えて、などと回りの親戚達からたしなめられていたが、酒が入ると気が大きくなるところは、昔から変わらない。


 どうにか結婚式を切り抜け、今度はなぜか父と、新郎の父と和彦の三人で飲みに行くことになり、居酒屋とスナックをハシゴした。

 父の若い頃の話を和彦が黙って聞いていると、新郎の父は、

「ええ息子さんですな、お父さんの話を黙って聴いたはる」

と、和彦が長い放浪の果てに戻って来たことを知りながら、言う。


 和彦は昔から父が何か喋り出すと、黙って、話を遮らずに聴くところがある。聴いていないと機嫌が悪くなり怒鳴られることもあったのでそんな習慣ができたのかも知れない。

 今でも、年上の人が何かを言うと、たとえ話があちらこちらへ脱線しても、黙って聴いている。実際に、年長者の語る自分の知らない話に興味もあるのは確かだが、話が面白くなくても、年長者の話は黙って聴かなくてはならないような気になり、固まったように聴く癖がついてしまっている。


 スナックからの帰り道、タクシーを拾って三人で乗り込むと、信号待ちの時、何が気に入らなかったのか、父はタクシーを降り、一台前の車の運転手に喧嘩を吹っ掛けに行く。昔から、酔うと喧嘩っ早くなる。和彦は父をタクシーへ連れ戻す為、父を抱きかかえたが、未だにがっしりとした筋肉のついた身体だ、と思う。


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