第三話 契約②
「もしも、生まれ変わったら……今度はちゃんと恋愛するのよ」
撃ち抜かれた傷口から炎が上がる。
身体全体が光の粒子となり天に昇り始めた。
そして日和に抱かれながら、ついに悪魔はその生涯を終えたのだった。
悪魔から燃え盛る炎と、光の粒子が舞う。
全てが消え失せ、ようやく悪魔は神宮日和の目の前からいなくなっていた。
言葉を呟いたと同時に、手に持っていたハンドガンは
「おい、ねえちゃん! 怪我とかないのかよ。だから危ないって言ったじゃん」
「男の子なんだから、本当は女子を守らないとダメでしょ?」
「そんなこと言われても、俺は神器召喚がまだできないし。
なんで、ねえちゃ––––」
凛太郎が言い終わる前に、彼は日和の異変に気づく。
目線が自分と合わず、腰を起点としてどんどん自分に傾いてくる、日和は彼にもたれ掛かるようにして気を失っていた。
「ええ!? ねえちゃん?」
年齢差はあるが、男女の違いと天照《あまてらす》内での身体能力強化の恩恵のおかげで凛太郎は彼女を支えることができた。
「ばあちゃん! 父ちゃん! ねえちゃんが!」
「落ち着いて、凛太郎。多分疲れているからだと思うよ」
猫又妖怪のレオを抱える草薙龍臣が、凛太郎を落ち着かせようとする。
「そうじゃ凛太郎。
無理もない、わしみたいな老体が剣を振りまわし、敵を斬り、悍ましい姿の悪魔が猛威を振るう。
御伽噺のような世界じゃ。
凛太郎も初めて踏み入れた時は、そうだっただろ。
お前も現実世界に戻った時には、二日か三日か部屋で寝込んどっただろう?
まあ良くも悪くも、この戦いにわしは慣れ過ぎたがな」
草薙政子は天叢雲剣を
「どういうわけか、この子は神器召喚を行えた。
……だが、一般人ではないのか?」
日和を見た政子は
「ばあちゃん、……やるの?」
「どういう理由かはわからない。
だが、この戦いに巻き込むべきではない。凛太郎、その子を支えておれよ」
政子は
「
大麻より放たれる光の粒子が彼女を清めるように降り注ぐ。
だが、日和から突如発生した空色の波動が結界のように防ぎ、失敗に終わった。
「なんと!?」
驚愕する政子を見て、凛太郎や龍臣も日和に注目する。
彼女は気を失っている為、無意識に波動が発動していた。
「やむを得ないな」
「ばあちゃん、この人をどうする?」
不安そうな凛太郎を見て、政子は一大決心をした。
「ここでの記憶を消すことはできなかった。
仕方ないだろう。
知らないだけで、わしらとは何かしら関係がある可能性がある。
他の神社も含めてな。
目覚めた時にこの子に話すしかない」
政子の判断を受けて、凛太郎と龍臣も納得した。
日和を抱える凛太郎の手は、キュッと強くなる。
「さて、わしは仕上げをする。
だが今ここで現実世界へ戻っても、観光客にこの子を見られてはまずい。
龍臣くんにはレオがいるから、凛太郎、この子を家へ」
政子に言われた凛太郎は、「よいしょ」と掛け声をかけてそのまま彼女を抱える。
悪魔戦の前はあんなに恥ずかしがっていたが、今はそれを考える余裕はなく自然に動作を行えていた。
「それにしても……不思議じゃな」
凛太郎が日和を抱えて家へ戻る最中に、政子は腕を組んで深く考え込む。
「お義母さん、あの子のことですか?」
「そうじゃな」
龍臣に言われ、政子は頷く。
「
その時は先祖代々から受け継いだ術で記憶を操作すればよいだけのこと。
だが神器召喚を行えた者は、陽芽神宮で受け継いだ伝承の中には存在しない。
先祖代々から《
どこか別の神社の末裔なのか?」
さらに、政子は日和が手にしていた神器……ハンドガンの存在も気にしていた。
「時を重ねるごとに、悪魔の姿も多種多様に増えた。
先程の悪魔も映画や娯楽に出てきた存在に近いんじゃないかな。
他の神社で同じように
……まさか、銃とはな」
結果的に悪魔祓いが完了したとはいえ、日和の存在が規格外だ。
政子は「さてと」と
大きく息を吸った政子は、自分の心臓の高さまで振り下ろすと術を唱えた。
「
解き放たれた波動が再び陽芽市全体を覆い、一瞬眩しいぐらいに光輝く。
目を閉じて、次に開いた時には多くの観光客が何もなかったかのように神宮内を観光していた。
子供を連れた親子の声、外国からきた団体や、先程叫んだ女性も。
全て何もなかったかのように。
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