第二話 太陽の神銃③

 防御壁が崩れないと判断した悪魔は、日和たちから一度距離を取るが、彼女が持つハンドガンを前に身震いする。


 「アノ女ガ持ツモノハ……銃カ? 神主ヤ巫女ガ銃ヲ持ツナンテ、聞イテナイゾ?」


 悪魔は警戒心を強め、攻撃をやめた。

 一度様子を伺い、日和たちを見ている。


 「ねえちゃん! それ、なんで?」


 凛太郎は、日和が草薙家でもないのに、神器を手に持つことに理解できなかった。


 さらに、今まで聞いたことがない神器の形に戸惑う。

 伝承が変わったのか、終わらない代理戦争を見て神々が一般人にまで戦うように判断をしたのか。


 分からない。


 「凛太郎君……ちょっと待ってて、おねえちゃん、行ってくる。

  おばあちゃんたちを……これでもくらえ!」


 ハンドガンは使用したことはない。

 トリガーを引きドラマや映画を思い出しながら覚悟を決めた神宮日和は、悪魔へ向けてハンドガンの引き金を引いた。


 発砲音こそ立派なものだが、弾道に光のエフェクトが特別あるわけではない。

 彼女にはハンドガンどころかその他の銃を使ったことがない為、無常にも悪魔に命中しなかった。


 「……?」


 悪魔は首を傾げて、彼女が手に持つハンドガンに視線を向ける。

 思考を巡らせた結果、あれは神器ではなくただの玩具ではないかと推測した。


 「今ノハ、サバゲーカ何カデ使ワレル……BB弾?」


 悪魔の発言を、凛太郎も龍臣も疑わなかった。大麻オオヌサこそどこかへ紛失しているが、日和が神器じんきを持つなど想像できなかったからだ。


 悪魔は日和が手に持つハンドガンを、玩具だと思い込み、攻撃を再開する。

 日和たちとの距離は再び十五メートル程。

 同じ攻撃の仕方だが、もう一度「オオオオ!」と雄叫びを上げながら地面を蹴って空中へ飛んだ。


 「また……くるぞ!」


 悪魔が攻撃してくると分かり、凛太郎は叫ぶ。

 日和は恐怖を感じているが、再び勇気を振り絞る。


 「玩具なのかどうかじゃない。

  BB弾とかなんか知らないけど。

  当たれば痛いって、子どものとき習ったでしょ!」

 

 一般的な常識を言って、事態が急転するわけではない。

 だが、慌てふためく凛太郎を日和は一喝した。

 自分を信じて、日和はもう一度ハンドガンを悪魔に向けて構えた。

 悪魔は大地を蹴って空中に飛ぶ。

 空中で一度膝を抱え、力を溜めている。

 日和は悪魔目掛けてハンドガンを構える。

 凛太郎や龍臣も、悪魔の攻撃に身構えていた。


 その時だ。

 一時的に戦線を離脱していたが、身体を再生させた草薙政子が日和に向かって叫んだ。

 

 「そこの娘!」


 日和たちは驚き、政子の方を見る。

 悪魔の攻撃は、すぐそこまで迫っていた。政子は気力を振り絞り、日和に向かって言い放つ。


 「よく聞け! 

  一度はその生涯を終えたが、神の一人である伊魔那美いまなみによって再びこの世に降りた者! 

  元々はわしらと同じ、人間じゃ!」

 

 政子の悲痛な叫びは、全員に届く。

 悪魔は「チッ」と舌打ちをするが、政子の言葉を気にせず上空からの落下を始めようとしていた。

 政子の叫び。日和は言葉を聞いて、改めてハンドガンを構えた。


 「コレデ……受肉ジュニクガ近ヅク。終ワリダ!」


 悪魔は不敵に笑いながら、落下を開始した。

 凛太郎は両腕で頭を守ろうとして、龍臣はレオを抱きながら大麻オオヌサを掲げる。


 日和には、悪魔を“倒す”こと“守る”ことを聞き、短い時間で戦場に立った彼女の心身は限界に来ていた。

 巫女に叫ばれ、頭上では緑色の悪魔が落下してくる。

 およそ、五分間での出来事である。夢ならば覚めてほしいと、一般人では思うだろう。


 「守るために、悪魔を倒すんだ」


 決意。

 長い時間が過ぎて感覚を失っていた。

 だが日和は確信する。

 自分の力を。

 例え銃器に代わろうとも今手にしているものは神器。

 自分は神々の代行者だったことを。 


 「神宮流神銃術かなみやしきしんじゅうじゅつ一式いっしき、プロミネンス!」

 

 無意識に脳内に浮かぶ言葉を日和が叫ぶと、ハンドガンの引き金は引かれる。

 直後、深紅の炎を纏い、銃口より弾丸が放たれる。


 「ナ、ナニ!?」


 悪魔は既に落下モーションに入っていた為、回避不可能だった。

 放たれた弾丸は爆風とともに、悪魔の身体を一直線で駆け抜けた。


 「ガアアアアアアア!」


 断末魔の叫びが陽芽神宮に響き渡ると同時に、炎と爆風の勢いで上半身と下半身は別れて飛散った。

 貫いた箇所をさらに自然発火の如く炎が上がり、悪魔を内側から焼き尽くす。


 「ね……ね……ねえちゃん!?」


 つい先程まで脅威に迫っていた悪魔が、地面に落ちてのたうち回る光景を目の当たりした凛太郎は、恐怖の対象が日和に変わっていた。


 だが、日和は地に落ちた悪魔が、炎でもがき苦しむ。

 自分が放った弾丸によって、苦しいのだろう、熱いのだろうと。

 いずれは再生するのであろう悪魔を目の前に、彼女は一歩だけ悪魔へ近づき、頭に銃口を向けながら話した。


 「私は神宮日和。……貴方の本当の名前を教えて?」

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