第181話

 そんな風に特に対戦相手のことなんて気にしてもいなかった僕だけど、グスタフの方はそうでもなかったらしい。とはいっても、“少しは”ってくらいだろうけど。

 

 「槍を使う強者だと聞いた」

 「へえ……」

 

 なんだか気のない声が出てしまったけど、グスタフの方も気にした様子はない。とはいえ、グスタフは槍使いに縁があるなぁという感想が頭をふと過ぎる。我らが担任にして入学試験でグスタフの相手を務めたジャック教員も、確か本当は槍が得意なんじゃなかっただろうか。

 

 そんなやり取りをしつつ廊下を歩いていると、向こうから見覚えのある姿がやってきた。

 あれは、生徒会長ことキサラギ・ボーライだ。長い黒髪でスタイルもいい彼女は、ここから見てもわかるほどの美形だ。その認識が僕の個人的な好みによるものではないことは、周囲の学生がすれ違うたびに熱っぽい溜め息を吐く様からもわかる。

 

 親は一部で“謀略伯爵”とか呼ばれているような貴族で、本人は超のつく優等生。そしてあの容姿なんだから近寄りがたい存在に違いないんだけど、意外と人懐っこいというか親しみやすい性格でもあったりする。

 

 「やあ、アル・コレオ君にグスタフ・シェイザ君。二人共久しぶりだね」

 「ご無沙汰しています、キサラギ・ボーライ先輩」

 「……はい」

 

 あいかわらずグスタフが微妙な態度を……。まあ向こうも苦笑いだから、問題にもならないだろうけどさ。

 学園は広いうえに、特に一年と三年では教室が離れているから、会う機会なんてなかったんだよね。生徒会への誘いは早々に断ってしまっていたし。まして向こうはお忙しい生徒会長なんだから、会わない方が普通ではある。

 今いる位置はちょうど、そんな離れた一年と三年がどちらも通るような場所だから、本当に偶々という低い確率で遭遇したらしい。ゲームだったらレアイベントだって喜ぶところだね。

 

 まあ現実にこの人に話しかけられてもうれしいことなんてないんだけど……。伯爵というそれなりの地位にある貴族家の子弟であり、学園では教員からの信頼も厚い生徒会長。既に裏社会に片足突っ込んで生活している僕やグスタフからすれば、警戒心しか湧かない相手ということだ。

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