巨大地下遺跡
一時は、無限に湧き続けるのではないかと
でも、エスニードが断言したように、数限りない魔物の
その最初の襲撃を、
冥獄の門から続く地下道は、どこまで進んでも綺麗に
天井も壁も柱も、正しく採寸された綺麗な断面の石材が規則正しく敷き詰められていて、それが延々と伸びる通路の先まで続いている。
そして、床も石畳で舗装されていて、脇には排水溝まで整えられていた。
その石床には緩やかな傾斜が設けられていて、僕たちは少しづつ地下へと降りていく。
僕たちが進んでいる地下道は、この先にあるという
『
帝尊府の人たちは代わる代わる光の神術を唱えて、長く続く通路を照らし続けていた。
神術によって、地下道の壁や天井や床が
人工的に生み出された
なるほど、と僕は神術について理解を深めていた。
神術は、森羅万象に影響を及ぼすというけれど。一度発動した神術が永続的な効果を示すようなことはない。
今も、前の人が放った光の神術の効果が時間経過で切れたから、唱え直したわけだしね。
そして、効果時間は術者の実力と術の威力によって色々と変わるみたいだね。
周囲を照らす程度の術であれば、結構な時間を維持することができる。携帯照明の油を二回補充する分くらいかな?
ただし術者が未熟だと、同じ光の術でも効果範囲が狭かったり、灯りが弱かったり、効果時間が短かったりする。
面白いのは、人によってそれらの欠点が違うところだね。
だけど、エスニードだけは違った。
エスニードが光の神術を唱えると、遥か先まで明かりに灯される。しかも、屋外に居るかのように地下道を照らす。
これが武神に
で。
エスニードや付き従う帝尊府が率先して地下道を照らし、散発的に襲い掛かってくる魔物を撃滅させている間に僕たちがしていたことと言えば。
「暇だわ」
「退屈だわ」
ユフィーリアとニーナが
もちろん、有翼族の中で唯一同行したスラスタールとセオールも同じだ。
最初は、罠の解除や魔物の討伐などといった面倒事を僕たちに押し付けて神族は楽をしようとするんじゃないかな、と思っていたんだけど。
どうやら、僕の考えは間違っていたらしい。
帝尊府は、率先して動く。
休憩時の見張り。魔物の討伐。暗闇の奥の偵察。全てを自分たちだけで完結させていた。
僕には、それが予想外で不思議な光景に見えていたんだけど。でも、今はなんとなくわかってきたよ。
神族は、僕たちなんて最初から眼中にないんだ。
エスニードは、僕たちの力やミストラルの竜人族としての実力に興味を持って同行させたけど、地下遺跡の
きっと、魔族が踏破できたという実績に対抗しているんじゃないかな?
魔族が踏破できたのなら、自分たちにだってできるはずだ、と。
だって、僕たち、特にミストラルの力を借りて踏破できたとしても、自慢にはならないからね。だから、僕たちを利用することなく、自分たちだけで前へ進む。
こちらとしては、楽ができるし神族の動きも観察できるから良いんだけどね?
というか……。これも、グエンの策略なんじゃないかな?
僕たちの実力を神族に隠したまま、逆に神族の戦い方をこちらに見せておく。そうすれば、グエンが計画を動かした時、つまり帝尊府の内偵に関わって面倒事が発生した時に、僕たちだけでなくグエンが有利に動ける。
特に、神将エスニードの戦い方や指揮能力を僕たちに見せておきたいんじゃないかな?
僕たちは、グエンの掌の上で踊らされている予感を覚えつつも、帝尊府と一緒に長い地下道を降っていった。
どれくらい進んだだろうか。
何度かの休憩と、仮眠も途中で取った。
ということは、冥獄の門を潜って日を
地下道は、相変わらず延々と続いていた。
その地下道は、最初に抱いた想像よりも遥かに整備が行き届いていて、地下道の途中途中に休憩所が設けられていたり、新鮮な水が
かつて、ここが栄華を極めていた時代は、この地下道を多くの人や物が往来していたんだろうね。
そして僕たちは遂に、最下層へと辿り着いた。
「これは……!」
神族たちも、言葉を呑み込んで光に照らされた絶景に目を奪われた。
最初。長く続いた地下道をようやく抜けると、神族の灯す明かりがぼやけて霧散してしまった。
何事か、とエスニードが反響の神術で広範囲に光を飛ばしたことで、それは僕たちの眼前に現れた。
これまで降り続けた分、どこまでも高く伸びた地下の天井。
そして、四方に拓けた広大な空間。
エスニードの神術でさえ、空間の一部しか照らすことができない。
その、照らされた空間に浮かび上がったのは、全てが石造りで出来た、巨大な地下都市だった。
どれだけの労力を費やして、築かれたのか。
地下に元々存在した大きな空間に、都市を設けたわけじゃない。
この、とてつもなく広く高い空間を幽冥族は自ら掘り起こし、そこに巨大な都市を創り出したんだ。
冥獄の門から続いた地下道は、そのまま都市の中心部を横断する街道になっていた。
街道の脇には、並木の代わりに様々な石像が並ぶ。
統一された様式で建ち並ぶ家家も、丘に見立てた傾斜に建つお屋敷も、見えるもの全てが石造り。
エスニードの神術によって照らし出された遥か頭上の天井には、幽冥族の歴史を物語るような彫刻まで施されていた。
「これだけの文化を誇った幽冥族が呪いによって滅びただなんて、信じられないね……」
今にも脇道から人が飛び出してきそうなほど、地下都市は整然と佇んでいる。だけどその巨大な都市には、人影どころか何の気配さえも感じられなかった。
「この地下都市は、何処まで続いているんだろうね? 将軍様の神術でも入り口付近しか照らせていないみたいだし。もしかして、天上山脈の地下一帯に広がっているのかな?」
「だとしたら、相当な規模じゃないかしら?」
「ううーん。冒険心がくすぐられちゃう! ああ、でも、駄目なんだよね」
冥獄の門を潜る前に、スラスタールが忠告してくれていた。
幽冥族が遺した物を
まあ、地下都市を探検するくらいなら許されるかもしれないけど、残念ながら僕たちに自由時間はない。
それでも、気になっちゃうよね!
誰も見たことも聞いたこともない、巨大な地下都市の遺跡。ここには、どんな人たちがどのように暮らしていたんだろう。
と、想いを
「……そういえばさ」
僕は、背後に伸びる地下道を振り返り、次いで照らし出された地下都市を見渡す。
そして、疑問を口にした。
「何年か前に冥獄の門を潜ったという魔族の大軍は、僕たちと同じ地下道を通ってきたはずなんだよね?」
「そうね。枝道もなかったし、間違いはないと思うけれど?」
と返事をするミストラルに、僕は言う。
「でも、そうするとさ。変じゃない? 魔族は、数万の軍隊で冥獄の門を潜ったけど、無事に西へ出られたのは半数以下だったんだよね?」
僕が言わんとしていることに気付いたのか、みんなも周囲を見渡し始めた。
「遺跡の入り口には、大規模な罠が仕掛けられているのが
道中。魔物が散発的に襲撃してくることはあった。でも、精鋭の神族たちの前では無力で、
数年前に魔族の大軍が侵入した時も、同じような状況になったんじゃないかな?
では、その時に討伐された魔物の残骸はどこへ消えたんだろう?
岩肌を持つ魔物がたった数年で朽ち果てて、跡形もなく消え去ってしまうとは思えない。それなのに、これまで通ってきた地下道には、過去に駆逐された魔物の残骸どころか、戦闘跡さえも見当たらなかった。
そして、今。
整然と佇む巨大な地下都市にも、戦乱の形跡は見られない。
「もしも魔族の大軍がこの地下都市を見つけたらさ。きっと略奪や破壊の限りを尽くしたと思うんだよね? だけど、建物は壊れていないし、都市の景観は綺麗なままだよね」
「魔族が軍規を守って地下都市を通過したとは思えないわね」
「そもそも、地下都市を荒らしてはいけないなんて、魔族の頭にはないだろうしね。そう考えると、やっぱり変だよね? 魔族は、絶対にこの地下都市で破壊と略奪を働いたはずだ。だというのに、見渡せる範囲においては荒らされた形跡が見当たらないなんてさ」
消えた魔物の残骸と戦闘の形跡。荒らされたはずなのに復元された地下都市の遺跡。
もちろん、これらは僕たちの憶測でしかないけど。それでも、違和感を覚えるのには十分な切っ掛けだった。
「何を立ち止まって
すると、いつの間にか移動を再開していた帝尊府の最後尾から、グエンが
「この先の遺跡手前で、一旦休憩だ。お前たちは、俺たちのために食事を準備しろ!」
「はい、喜んで!」
どうやら、地下都市の遺跡へ本格的に踏み入る前に、しっかりとした休息を入れるみたいだね。
きっと、その時に偵察の人が先行して内部を調べてくるんじゃないかな?
そして、帝尊府が休憩をするために、僕たちは逆に働かされるわけだ。
もちろん、この程度のことで歯向かったりして対立するなんてことは嫌だから、素直に言う事を聞きますよ。
ただし、面倒なことがひとつだけあった。
神族の人たちは、僕たちや有翼族のスラスタールやセオールと同じご飯は食べたくないらしい。
神族として、下等な種族と食卓を共にするなんて考えられないんだろうね。
アレクスさんの村では、みんな仲良く食卓を囲んでいたから気にしていなかったけど、本来の神族の態度はこういうものなのかもしれない。
ということで、面倒だけど帝尊府専用の食事と、僕たちの食事を分けて作らなきゃいけないわけだ。
ミストラル、ライラ、ユフィーリアとニーナ、それにセフィーナさんが帝尊府の食事を担当する。
ルイセイネとマドリーヌ様と僕とニーミアが、その他の担当だ。
「にゃんは味見担当にゃん」
「
荷物から、干し肉や
どれだけの行程になるか、見通しが立たないからね。旅に適した保存できる食材は多めに持ってきているけど、基本は質素な食事になる。
僕たちが食事の準備をしていると、帝尊府の中から何人かが、前方に見える巨大な地下都市遺跡へ入っていった。
あの人たちが、先行偵察要員なんだろうね。と、横目で確認しながら、料理を作り続けた。
帝尊府の人たちは、ミストラルたちが作ってくれた料理を「味が薄い」と文句を言いつつも全て平らげた。
そして、交代で休眠しながら、偵察に出た者が戻ってくるのを待った。
だけど、先行して巨大な地下都市遺跡に入っていった者は、いつまで経っても誰ひとりとして帰ってこなかった。
「妙だな」
とエスニードも流石に不審がった頃には、全員が休眠を取り終え、朝食的な軽い食事を終えた後だった。
「よもや、方角を見失って戻るべき場所がわからなくなったわけではあるまい」
初めての場所だから、迷うのは当然だとして。でも、偵察を主な任務として
荷物を纏めろ、とエスニードは命令を下す。
そして、帰ってこない偵察者を追って、地下都市遺跡へ入ることを決定する。
「どの道、この地下遺跡を踏破するためには、我らは進むしかないのだ。全員、気を引き締めて挑め」
「おうっ!!」
仲間の安否を気にしつつも、目的を見失ったりはしない。
エスニードに率いられて、帝尊府は前進する。
僕たちも、不穏な空気が
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