苦難は静かに忍び寄る

 エルネア君たちが西へと旅立って、十日目。

 わたくしたちは、アームアード王国の辺境で悪戦苦闘あくせんくとういられていました。


「負傷者の方々は、速やかに退避してください!」

「ルイセイネ、それにキーリとイネアも退がりなさい。いつものあれが出るわよ!」


 急降下してきたミストラルさんが、警告を発します。

 その時でした。


 ざわり、と森の奥に出現した不気味な闇がうごめくと同時に「それら」がいて現れました。


「今回は数が多いわ! 私の呪術じゅじゅつじゃ把握はあくしきれない」

「クリーシオは、本命の探知を続けてください。ネイミーとセフィーナ姉様は、私と一緒にクリーシオの護衛を!」


 地面に呪術陣を敷き、呪術に集中するクリーシオさん。それを護衛するお三方は、油断なく身構えます。


「腕に自信のない冒険者も、退がりなさい!」


 ミストラルさんの再度の警告に、多くの冒険者の方々が慌てたように撤退を始めます。

 ですが、わたくしは「退け」と言われても、まだ後退するわけにはいきません。

 なぜなら、前線で奮戦する皆様をいやし、支援することこそが、戦巫女いくさみこの務めですので。


「前方、妖魔ようまが五体出現しました。でも、左右からも数えきれないほど沸いて出ているわ! 魔物まものも多い!」


 クリーシオさんの呪術による索敵さくてきを受けて、残った方々が動き出します。

 ミストラルさんは、美しい翼を羽ばたかせて、左側に出現した妖魔のむれへ。ユフィーリアさんとニーナさんは、右手に現れた妖魔へ向かい、こちら側に姿を現した妖魔五体へは、残った冒険者の方々が。


 そうなのです。

 わたくしたちは、邪族じゃぞくを迎え討つために来たのですが、現状は大きく違っていました。

 たしかに、邪族の脅威は依然いぜんとして猛威もういを振るっているのですが。それと同じくらい、いいえ、むしろ数や頻度からすればより脅威となっていたのは、倒しても倒しても沸いて出てくる妖魔の群でした。


 なぜ、邪族の出現と魔物や妖魔の氾濫はんらんが重なったのか。わたくしたちにはわかりません。ただし、そのどれもが見過ごせない脅威だということです。


 魔物の討伐に当たっていた冒険者のみなさんですが、相手が妖魔となると途端に手に負えなくなってしまいます。

 なにせ、勇者であるリステア君たちでさえ、全員で当たって一体の妖魔をようやく倒せるくらいです。それが、こちらだけでも五体。

 もっと広い範囲で見れば「本命」である邪族の存在を索敵していたクリーシオさんの呪術でさえ把握しきれないほどの数です。


 絶望的な状況に、勇敢ゆうかんに残った冒険者の方々の顔にも不安が浮かんでいます。

 ですが、わたくしたちは違う意味で不安を覚えていました。


「ユフィと」

「ニーナの」

「みなさま、退避してください!」

「「竜槍乱舞りゅうそうらんぶ!」」


 ぎゃーっ、と悲鳴が上がります。それも、妖魔ではなく味方である冒険者の方々から。

 右側を担ったはずのユフィーリアさんとニーナさんですが、あの姉妹はどこに展開しても、戦況全体に影響を及ぼしてしまいます。


「もう、姉様たち!」


 セフィーナさんが非難の声をあげます。そうしながらも、無差別に放たれた無数の竜槍を巧みに操作し、全ての矛先ほこさきを妖魔へと変換させます。

 セフィーナさんによって誘導された竜槍が、妖魔に直撃しました。妖魔は耳障みみざわりな断末魔だんまつまをあげながら、霧散しました。


 二振りの、金色に輝く大剣「竜奉剣りゅうほうけん」によって威力が高められた竜槍の乱舞は、セフィーナさんの誘導によって次々に妖魔を貫いていきます。

 こちらに出現した妖魔五体のうち四体は、竜槍によって消滅しました。


「予定通りだわ」

「作戦通りだわ」

「嘘を言わないで!」


 セフィーナさんの指摘は正しいです。ですが、ユフィーリアさんとニーナさんのお陰でこちらの妖魔は残り一体となり、右側の妖魔も減ったのは事実です。

 ですが、油断はできません。


「ルイセイネ、参ります!」


 わたくしも、薙刀なぎなたを構えます。そして、残った妖魔に苦戦する冒険者の方々を支援するように、戦線へと突入しました。






 空から見下ろすと、戦況はひど有様ありさまですわ。


「レヴァリア様、撤退する冒険者の方々を支援しますわ!」

『あんな雑魚ざこどもなんぞ、放っておけ』

「はわわ、そんなことをおっしゃらずに」

『ちっ』


 森の奥からは、わらわらと妖魔が出現しています。

 ですが、前線は大丈夫ですわ。だって、ミストラルさんや他の方々が奮戦なさっていますから。

 でも、撤退する冒険者の皆様に危機が迫っていました。


 この周辺一帯には、妖魔だけではなく魔物も数えきれないほど巣食っているのですわ。

 妖魔の出現に慌てた冒険者様が浮き足立った隙に、魔物の群が襲いかかっていました。


 レヴァリア様は紅蓮色ぐれんいろうろこを輝かせて、急降下と同時に鋭い牙と爪で魔物を蹂躙じゅうりんしていきます。

 ですが、炎は禁止ですわ。森が焼けてしまいますので。


 レヴァリア様の大活躍によって、魔物は着実に数を減らしていきます。

 ですが、広範囲を焼き払える炎を封じられたレヴァリア様では、全ての魔物を相手にすることはできません。

 レヴァリア様の牙と爪が届かない場所で襲われる冒険者様が!


「地竜のみなさま、冒険者様を守る結界を張ってくださいませ!」

『おおうっ、なんという強制力!』

『逆らえぬ、逆らえぬぞ!』

『まあ、最初から逆らう気なんてないんだけどね?』


 駆けつけてくださった近所に住む地竜の家族の皆さまが、竜術で結界を張ってくださいました。

 危機を脱した冒険者様が、お礼を言いながら撤退していきます。


 レヴァリア様は、残った魔物たちを駆逐くちくしていきます。

 その時でした。前線から不吉な予感が!


「「竜槍乱舞!」」

『あの、迷惑姉妹めっ』

「はわわ、レヴァリア様、回避ですわ」

『言われずとも、わかっている』


 ユフィーリア様とニーナ様が放った竜槍の何本かが、こちらへと飛んできました。ですが、レヴァリア様は余裕を持って回避します。

 ユフィーリア様とニーナ様も、レヴァリア様なら絶対に回避できるという信頼のもとに、竜術を放っているのですよね。

 素敵な信頼関係ですわ。


 レヴァリア様は、冒険者様を襲う魔物へお怒りになっているのか、強い憤怒ふんぬの感情を向けて更なる攻撃へと移りました。





「お、恐ろしい……」


 こちらの被害なんて考慮こうりょしていない、お姉様方の竜術が、ではありません。

 エルネア君の身内の強さに、です。


 ユフィーリア姉様とニーナ姉様の無差別的な強さは、幼少の頃より知っていました。

 ですが、その暴力的な竜術をいとも簡単に操ってみせたセフィーナ姉様の実力にも驚きです。


 上空では、炎帝えんてい畏怖いふを込めて呼ばれる飛竜に騎乗したライラさんが、魔物たちを蹂躙じゅうりんしています。

 あの恐ろしい容姿の紅蓮色をした飛竜を指示するだけではなく、応援に駆けつけてくれた野生の地竜たちをも従えています。


 左側では、もっと恐ろしい光景が広がっていました。

 最初は、左側に出現した無数の妖魔相手にミストラルさんだけで!? と不安を覚えましたが。それは、浅はかな杞憂きゆうでしたね。


 ミストラルさんは、竜人族の戦士です。しかも、最高位の称号である「竜姫りゅうき」なのです。

 竜王であるエルネア君でさえも、手も足も出ない強さなのだとか。

 これまでにもミストラルさんの実力は見知っていたのですが、こうして改めて見ると、圧倒的な戦闘力に安心感と同時に恐ろしさも覚えます。


 妖魔の攻撃を薙ぎ払い、漆黒の片手棍を叩き込むミストラルさん。たった一撃で、妖魔が消滅していきます。

 私たちでさえも脅威に感じる妖魔ですが、ミストラルさんの圧倒的な戦闘力の前では、雑魚も同然なようです。

 銀に近い金色の髪。そして、皮膚の一部に浮かんだ鱗。

 戦場だというのに、その美しさは欠けることなく輝いています。


「はあっ!」


 ミストラルさんが生み出した竜気の塊は美しい飛竜の形を取り、妖魔の群へと放たれました。

 すると、ユフィーリア姉様とニーナ姉様が放った竜槍の乱舞でさえ比較にならないほどの妖魔を一辺にほうむってしまいました。


「お、恐ろしい」


 なんて威力の竜術なのかしら。

 私も、あのような竜術が使えたら、きっと今以上にリステアの役に立てるのに。


 ああ、リステア。

 早く戻ってきて。

 私は心を込めて願います。


「セリース、ぼうっとしていないで」

「あら、ごめんなさい」


 そうです。

 今は、聖剣復活のために旅立ったリステアに想いを寄せている場合ではありませんでした。

 ここは、戦場。とても危険な場所。


「ユフィと」

「ニーナの」

「皆さん、第二撃が来ます! 逃げてください!」

「「竜剣演舞」」

「ぎゃーっ」


 妖魔以上に危険かもしれないユフィーリア姉様とニーナ姉様の無差別竜術に、冒険者の方々から再度の悲鳴があがりました。

 セフィーナ姉様は深くため息を吐くと、またもや二人の姉様たちの竜術を操作して、妖魔や魔物へぶつけます。


「貴女たち、いい加減にしなさいっ」


 ミストラルさんも流石に怒ったのか、右側の戦域から苦情を言っています。

 ですが、反省しないのがあの二人の姉様です……


「この程度の竜術が危険だと感じる者は、さっさと逃げたほうがいいわ」

「この程度の竜術を回避できない者は、早々に撤退したほうがいいわ」

「ひ、ひえっ」


 ユフィーリア姉様とニーナ姉様の言葉は過激ですが、間違ってはいません。

 不意打ちや予測不可能な攻撃からの回避ができないようでは、妖魔の相手はできません。

 ましてや、邪族を相手にした場合は、足手まといにしかならないのです。


 ざわざわ、と魂が総毛立つような悪寒おかんが全身を襲いました。


「出たわ。邪族です!」


 背後で呪術の儀式を行っていたクリーシオが、額に大粒おおつぶの汗を浮かべながら、警告を発しました。


 森の奥。闇よりも濃い深淵しんえん

 そこから、絶望だけを呼び起こす邪悪な存在が出現しました。

 頭部だけでも地竜より巨大な、とてつもなく大きいへび

 漆黒の化け物は、ずるりと地面をいながら、獲物を探すようにちろちろと黒い舌を口から覗かせていました。


「全員、戦線を維持しながら撤退!」


 ミストラルさんの号令以前に、クリーシオの警告を受けて、冒険者の全員が撤退を開始していました。

 そして私たちも、見ただけで魂そのものが震えあがる化け物に対峙しながら、撤退戦を開始しました。






 ミストラルさんの渾身の一撃が、出現したばかりの邪族の頭部に叩き込まれました。

 流星りゅうせいのような残滓ざんしが尾のように残り、激烈な打撃音が一瞬のうちに七度。漆黒の片手棍が生み出した衝撃波が、それだけで周囲に群がる妖魔を消滅させます。

 ですが、頭部に直撃を受けたはずの邪族は、傷口から青い血を吹き出しながらも、攻撃してきたミストラルさんに猛然もうぜんと反撃を繰り出します。

 猛毒もうどくに濡れた牙を剥き出しにし、ミストラルさんを丸呑みにしようと鎌首かまくびをもたげあげる、蛇の姿をした邪族。


 ミストラルさんは背中の翼を華麗に羽ばたかせると、ひらりと宙に舞って邪族の攻撃を回避しました。

 そして、飛翔したミストラルさんに代わって天空から急降下してきたのは、レヴァリア様。


「やーっ!」


 レヴァリア様の背中に立つライラさんが、気合いのこもった掛け声を発します。

 レヴァリア様もライラさんの気合いに合わせて、暴力的に鋭い爪を邪族へと振り下ろしました。


『ギイイイィィィィッッ』


 耳障りな悲鳴をあげる邪族。ですが、レヴァリア様の攻撃でさえも、深手を負わせることはできなかったようです。

 鱗を深く傷つけられ、青い血を流す邪族は憎々しげに、敵意を向けてくるこちらを睨みます。

 たったそれだけで、魂を直接鷲掴みにされたような恐怖が全身を襲いました。


「キーリ、イネア、精神保護の法術を!」


 邪族相手では、わたくしたちが放つ攻撃法術などは焼け石に水です。であれば、違う手を打つのが定石じょうせきでしょう。

 攻撃ができないのであれば、防御を。


 わたくしたちは精神を集中させると、加護の法術で戦場の方々の精神を保護します。

 クリーシオさんも索敵の呪術から防御の呪術へ移行したようで、なにか不可視の力に包まれる感覚が全身を覆います。


「ユフィと」

「ニーナの」

「「聖竜召喚せいりゅうしょうかん!」」


 今度は無差別ではなく、単体の威力を最大限まで上げた聖なる竜を生み出すユフィーリアさんとニーナさん。


「みなさま、全力で攻撃ですわっ」


 ライラさんの号令に従い、駆けつけた地竜の家族も竜術を放ちます。

 ミストラルさんも転進して攻撃に加わり、蛇の姿をした邪族を攻め立て出しました。


 邪族は手に負えないと戦線から一歩引いた形のセリースさんやネイミーさんも、周囲で未だに猛威を振るう妖魔や魔物へ果敢に戦いを挑み、邪族に集中するこちらのうれいを未然に払ってくれます。


 エルネア君を中心とした私たち家族と、勇者リステア君の仲間の皆様。普段はなかなか一緒の行動などは取れませんが、息はぴったりと合っています。

 攻撃はなかなか通らず、致命打ちめいだが与えられないわたくしたちですが、巧みな連携によって邪族の動きを封じることはできていました。


 わたくしたちが到着する前。

 邪族は山岳部から徐々に南へ移動し、人族の村近くまで迫っていました。

 王国軍を指揮していた将軍様の話では、まるで人の気配を遠くから的確に捉えているかのように、迷うことなく村に近づいてきていたそうです。


 もしもわたくしたちの到着が遅れていれば、村だけでなく邪族に立ち向かっていた兵士の方々にどれほどの被害が出ていたことか。

 ですが、わたくしたちが戦線に加わっても、邪族の進行を緩める程度でしかありませんでした。


 邪族については、不明な点が多いのです。

 邪族は毎回のようにどこからともなく出現し、猛威を振るってはどこかへ消えてしまいます。

 更に、邪族が出現する周辺では、魔物だけでなく最近では妖魔まで出現する始末。

 わたくしたちは、邪族だけでなく他の脅威にも対抗しながら、前線を支えている状況でした。


 ですが、今回は少しばかり手応えがあります。

 邪族は、抵抗するわたくしたちに怒りを覚えているのか、負傷しても逃げようとはしません。このまま攻撃の手をゆるめなければ、討伐することはできなくとも、それなりの深手を負わせられるまで攻め立てられるかもしれません。


 わたくしだけでなく、皆さんがそう思い始めた頃。

 ですが、事態はわたくしたちの予測を遥かに超える恐ろしい状況へと発展しました。


『ギギキィ……』


 耳に不愉快な音を発する蛇型の邪族。


『ギィ……ギィッ』


 音、というか声でしょうか。怪奇かいきな音を聞くだけで、耳だけでなく頭が痛くなり、魂がきしむような気がします。

 誰もが、邪族の発する音に顔をゆがめています。

 ですが、それだけでは終わりませんでした。


『ギイイィ……。ユル、サ……ヌ。コロ、ス。クラ……ウ』


 そ、そんな……!


 わたくしは、絶望に立ち尽くしてしまいました。

 わたくしだけではありません。ユフィーリアさんやニーナさん、それにセフィーナさんだけでなく、ミストラルさんやライラさんやレヴァリア様でさえ、絶句していました。


 邪族が、人の言葉を発した。

 それがどれ程の脅威と絶望を表しているのか。

 ミシェイラ様から邪族のことを教えられていたわたくしたちは、よく理解していました……






 果たして、女神が創造したとされるこの世界には、恩寵おんちょうと呼ぶべきものは存在するのか。

 創造の女神を存在を信仰しあがめるのは、人族特有の宗教観念だ。

 だが、どうだろう。その信仰心溢れる人族に、世界はより厳しい試練を課す。


 遠く東では、邪族の脅威が猛威を振るっているという。

 西においても、先ほどの戦乱の余波が収まる前に、また新たな魔族の脅威が迫ろうとしている。

 そして、魔族が支配する国土でも、人族の勇者たちは過酷な状況に置かれようとしていた。


「それで、頭領殿とうりょうどの。こちらへは何用でございましょう? 貴方様あなたさまが賢老魔王陛下のお側を離れてこちらへ出向くなど、珍しい」


 出迎えた鬼に、もうひとりの鬼はやわらかな物腰で応える。


「いやなに、面白い情報をそちらへ伝えようと思いましてね」

「面白い情報?」


 同じ鬼種おにしゅであっても、仕える主人が違えば、立場も違ってくる。

 出迎えた鬼種の男は、いぶかしげに頭領を見返した。


「其方ら、というよりも、妖精魔王陛下にとって面白い情報です」


 と前置きをして、鬼の頭領は言葉を続ける。


「先日、我が陛下のもとに面白い者たちが来訪してきました。まあ、正確には旅の途中で邂逅かいこうしたと言うべきかもしれないですが」


 鬼の頭領、と呼ばれるには若い風貌ふうぼうをした鬼は、当時を思い出すかのように目を細める。

 出迎えた鬼は、頭領の言葉に疑問を浮かべながらも、話の腰を折らずに耳を傾けていた。


「妖精魔王陛下につきましては、少し前に竜峰の東において随分と辛酸しんさんめられたとか。なんでも、上位の御方や巨人の魔王陛下の介入だけでなく、人族どもの激しい抵抗にあったと聞き及んでいますよ」


 それで? と淡白たんぱくに返事を返す鬼。


「竜峰の東には、勇者なる人族や竜王を名乗る少年がいるそうですね?」


 これは、質問ではない。出迎えた鬼がそのことを知っているかどうかの確認だ。

 出迎えた鬼は、無言で頷く。

 鬼の頭領は反応に満足したように微笑むと、核心を口にした。


「この度、我が陛下の国土を訪れた者たちこそが、その勇者と竜王です。なんでも、彼らは天上山脈を目指しているのだとか」

「ほほう?」


 ぴくり、と出迎えた鬼は眉尻まゆじりを揺らす。


「頭領殿は、その情報をこちらに売ると?」

「いやなに、同じ鬼種の同腹どうはらとして、そちらが望む情報は共有しておこうかと思いまして。それに、賢老魔王陛下も妖精魔王陛下に恩を売っておこうとのお考えです」


 くだんの勇者や竜王が、なぜ天上山脈を目指しているのか。その事情の詳細を、出迎えた鬼はまだ知らない。

 だが、天上山脈を目指している以上、必ず妖精魔王の国土を通過するはずだ。


 物腰柔らかな鬼の頭領の話に、出迎えた鬼は魔族らしい残忍な笑みを浮かべた。

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