第29話 次の場所
<1854年12月23日 昼下がり>
【磯貝真琴】
町に戻ってきた。
余震もあったが、倒壊した建物への巻き込まれなどといった、
直接的な被害は少なかったようだ。
薫さんをはじめ、その他連携してくれた道場では救護所が開設され、
ケガをした人の手当てが進んでいる。
私が提供した軽い畳は、緊急の担架代わりとして活躍してるようだ。
落ち込むういちゃんを先生に任せ、二人でこの町を担当してもらい、
八之助さん、克之助くんと一緒に近くの町へ向かった。
「ご助力くださいっ!
あちらで人が埋もれておりますっ!」
このような声を聴いては皆で共に現地に赴き、
人垣に隠れて瓦礫をそっと『収納』する。
当初は全部収納しようと考えていたが、先生から
『瓦礫と言えど活用できる材。
復興には欠かせぬゆえ、救助以外は『収納』するのは最小限にお願いいたします。』
と言われ、ういちゃんと共に最小限にとどめるようにしてきた。
「なんとか一息つけそうだな…」
克之助くんがそう言うが、伝えていないことがある。
「このあと、もう一度大きな地震があるのよ…。
今回より遠いから、ここでは小さな地震になるんだけど…。」
「『ここでは』ということはっ!?」
「そう、そういうこと…。
ここの余震ではなくて、近くの別の本震があるってこと。
遠くなるとは言え、ここにもう一度津波が押し寄せるかもしれない。
だから、ある程度目処がつくまで私達もここを離れられないっ。。。」
「そんなっ!」
私も、ういちゃんもそこが悔しかった。
本当なら分散して、たくさんの人を助けたかった。
けど、ある希望があった。
被害を減らしてくれるであろう、『希望』が。
<1854年12月24日 明け方>
【根本うい】
「まだまだできることがある中で大変心苦しいんですが…。」
余震は続いているが、本震の様な津波はなく、
ある程度の落ち着きを取り戻した。
各避難所にはできる限りの食料も配布した。
そうそう、津波の際に真琴ちゃんが投げた『畳』は、水に浮いていたそうで、
何人かの命を救ったって聞いた。
津波が襲ってきたところは全域避難してもらった。
もう一度来るって言ったら、お役人さんも、町の人も今回ばかりは言うことを聞いてくれた。
一部の分からず屋さんには克之助さんと真琴ちゃんが《お話し》してくれた。
まだやれることはあるはずだけど、
被害はここだけじゃない…。
「助けが必要な、次があるのでしょう?
こちらは任せてください。」
薫さん、八之助さんに背中を押されて、車に乗り込む。
少なくとも、溝口道場がある町では死者はいなかったものの、
けが人が多数いることには変わりない。
もちろん、周りの道場の人たちも手伝ってくれているのだが…。
「次の地震はあと数刻後!
決して海岸には近づかないでくださいっ!」
「半壊している建物にも戻らせないようにね。」
「あい、分かった。」
「門下生たちと手分けしてあたるわ。」
真琴ちゃんと一緒に最後のアドバイスをして、先生と薫さんから力強い返事をもらう。
それでも後ろ髪惹かれる思いであることには変わりない。
「…っ、いってき…、」
「待ちなっ!」
聞き覚えのある声に後ろを振りむく。
「またわたしらを置いていくのかいっ!?」
「水癖ぇどころか、藩主様に怒られろってことですかい?」
「どうせおねぇちゃんの行く先、私が嗅ぎつけるんだから、
余計な手間増やさないでよね!」
なじみの一家の姿がそこにあった。
「でも…、今から行くところはもっと悲惨で…、」
ここと違って対策が出来ていない場所だ。
「猫も杓子もないだろっ!あたしたちがついていきたいんだ!」
「あんまりお登勢を怒らせちゃなりませんぜ?」
「おねぇちゃん、抜けてるんだから。」
うっ…、てるちゃん、さっきからひどくない?
「はいはい。
ついてくる以上、私たちに振り回されるよ?
それでもいいの?」
真琴ちゃんが仲裁してくれたけど…、
「おう!」「もちろん!」「うん!」
躊躇いのない三人の声に、涙がこぼれそうになる。
「後部座席でいいっ!?
とっとと乗り込んで!」
三人は真琴ちゃん車にの後部座席に乗り込み、
お登勢さんがてるちゃんを抱えて座る。
「薫さん、先生、あとは任せていい?」
「はいっ。」
「お偉方は任されよ。」
「それじゃぁよろしくっ!」
真琴ちゃんがテキパキと応対をして、
運転席に乗り込むや否や、アクセルを踏む。
別れの挨拶もそこそこに、
私は体を持っていかれながら、次に向かう。
【磯貝真琴】
薫さんや先生たちが見えなくなったころ、ういちゃんが話しかけてくる。
「真琴ちゃん、やっぱり私たち、分かれて救援に行ったほうがよかったんじゃ…」
「まぁ、先生たちがいてくれたからなんとかなったけど、
ういちゃんの例もあるでしょ。
分散するのは得策じゃないし、
その人達が見つかるとは限らなかったから!」
ういちゃんが言うのは最もだ。
私一人なら武道も嗜んでるし、最悪腰のこれだってある。
とはいえ、ういちゃんを一人にしたリスクは前回の地震で結果になっている。
分かれるリスクの方が重大な結果になると判断したまで。
「でも、残り時間は…。」
「その二人が優秀であることを願うしかないっ!」
「そんな!」
「私達だって無理できる立場じゃないのはわかるでしょ!?
そこはこらえてっ!」
夜が明けても、まだ混乱醒めやらぬ街を後にして、
郊外から次に向かう。
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