第22話 明るみ

<1854年11月12日 夜>

【磯貝真琴】

「おやすみなさい!」

「じゃぁな、先生!師範代も!」

「明日もよろしくお願いします。」

「皆は私が責任をもって送りますゆえ。」


門下生は夜が深くなる前に返した。

さて、少し片づけた後に、私ももう少しゆっくり食べようかな。

「ここはいいですから、真琴さんはあちらでゆっくりしてください」

薫さんが洗い物の為、井戸に向かった。


「しかし、真琴殿のあの技のキレ、素晴らしいものでした…。

 どちらで学んだもので?」


「ま、まぁ、最初は父ですかね。その後は色々と巡りまして…。」

八之助さんが褒めてくれるのは嬉しいが、突いてほしくない核心に迫られる。


「ほうっ、わが流派に近いものを感じますが?

 お父上の流派を伺っても?」


「あぁ~っ…、っと、その辺は聞いたことないんです。」

不味いなぁ…。

先生まで追求してくる。

言ったところで、この時代じゃまだ開かれてなかったり、

無名だったりするからなぁ…。


「あっ!薫さん!

 薫さんもすごかったですよ!」

助かった!

慌てて戻ってきた薫さんに話題を振る。


「いえ…、負けてしまいましたからなんとも…。」


「薫さん、相手に困ってたそうじゃないですか。

 とってもきれいな型なのに、どうも繋ぎがチグハグで…。

 申し訳ないですが、そこを起点に攻防を入替えさせてもらったのですが…。

 あの時も言いましたように、実践を積み重ねていればわからなかったですよ!」

自分の話題をかき消すように、矢継ぎ早に試合の感想を述べる。


「やはりそこに目をつけられていましたか。」

ぼそっと呟く先生の目が、キラリと光る。

余計な一言を言ったみたい。


「え、えぇ。

 幼いころから父に稽古をつけてもらったのですが、

 年を重ねるごとに、相手が居なくなって…。

 その父も今は道場におりませんから、

 少し鈍ってしまったのかもしれません。」


そうだよねぇ~。

柔道って、コンタクトスポーツだから、

成長するにつれ、必然的に同性との試合が主になる。

この時代、武道を嗜む女性はいても、

師範代クラスになると相手に困るのだろう。


「克之助、そなたにはわかったのか?」

「あ、当たり前ですっ!」

八之助さん、意地悪だなぁ。

あれは中々わかるもんじゃない。

この時代から1世紀以上も洗練されたからこそ分かるチート。

克之助くん、君はよくやってる。

実際、全てではないにしても、いくつか閃いた様子は横目で見てた。


「まぁ、薫殿が良く修練されているのは確か。

 克之助も負けるでないぞ?」


「は、はいっ!」


先生、克之助くんに厳しくない?

克之助くんのイジられキャラに助かりつつ、夜が更けて行く。




<1854年11月13日 暮れ>

皆さん、楽しく寝てしまった。

でも、地震の日は待ってくれない。

現状を確認しないと。

東から出てきた上弦の月に照らされ、井戸端でスマホを『取出』す。


「やっぱり『収納』してても、バッテリーは食うのか。」

取り出したスマホのバッテリーゲージを見て、独り言ちる。


「一応、先生たちについて調べておくか。」

スマホに名前を入力して調べてみる。


磯正智 講道館創始者。

福田八之助 講武所師範。

松岡克之助 天神真楊流、師範代。


「おぉうっ。」

講道館の創始者かぁ…。

現代柔道の創始者と言い換えてもいい。

凄い人だとは認識していたけど、改めてその凄さを認識する。

薫さん達の名は出てこないが、『治五郎』という名に引っかかる。


「かの大先生は、この年は生まれていないはず…。」

そう思うものの、よくわからず、

スマホで色々検索しつつ、ウンウン唸っていた。



「こんな夜更けにいかがなさいましたかな?」

背後から聞こえる声に『ビクッ』とする。


「それは何でしょうか?」


スマホのバックライトを見つめていた分、人影を発見するのに手間取る。


「そんなに驚かずともよいでしょう。

 私ですよ。」

月明かりの影から、好々爺とした御仁が現れ、

その後ろに二人の男性が現れる。

さきほどまでアホ面で寝ていたはずの3人だ。


「あなたに何かあるのはわかっています。

 私達ではお力になれないでしょうか?」

が私に訴えかける。


どう答えよう?

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