第7話 追手

〈1954年7月1日〉

【根本うい】

ふぃ~っ。

10万円分買ってきましたよ!

惣菜を!

てるちゃん、そんな心配そうにしてから…。

ちゃんと戻ってきたんだから!

約束は守るタイプだからね!


てるちゃんに頼んで、甚三郎さんちに近所の子供を集合!

やきそばとか安いんだけど、大人気。

味が濃い炭水化物はいいよねぇ~。

おなか一杯食べる子供の姿は、幸せの素ですなぁ…。



【沢村保祐(甚三郎)】

「…甚三郎。」

「おぉっ…、待っておった…。」

「長老集は集まっておる。こちらへ。」

曽我五郎兵衛に連れられ、集会の場所へ赴く。



「甚三郎、保祐、国を揺るがす危急の件と聞いたが?」

長老集より声が下る。


「はっ!わが所領に来た女子おなごにございます!」

「女子?それが国を揺るがすと?」

「はっ!まずはこちらをご覧ください。」

うい殿から与えられたチヨコレイトを出す。


「?…、菓子か?」

「左様でございます。」

「その菓子が日ノ本を変えると?」

「左様です。こちらは

 南蛮菓子の中でも手に入らぬ高級品、金にも代えられるほどの品。

 それを持っていて、何のためらいもなく私に提供したのです。」


「うぅ~む…。それだけでは…。」

「ではこちらを。」

庄屋の妻にと渡された化粧道具から一部くすねてきたものを出す。


「化粧道具にございます。

 紅は鮮やかな色。また、このような機構も日ノ本にはございません。

 白粉はあり得ぬほどきめが細かく、毛穴も見えぬほど。

 そしてこの鏡。歪みがないどころか、ここまで走ってきても割れておりません。

 かなりのもの、西洋にもないものと思われます。」


黒船に潜り込んだこともある甚三郎の言葉に、長老集も黙ってしまう。

「で、何を聞いた?」

事の起こりから仔細に報告し、地揺れの話も伝えた。


「その他にも、数多の菓子・食べ物を提供したのです!

 本人は当地の庄屋に目通りを望んでおりますが、彼奴では彼女を守れますまい。

 地揺れの話を聞きだすまでに、どのような目に合うかわかりませぬ。

 一度藩主様にお目通りをっ!」


長老集がうなりを上げつつ、ぼそぼそと意見を交換しだした。



〈1954年7月2日〉

【根本うい】

結局、昨晩は甚三郎さんは帰ってこなかった。

お登勢さん曰く、『ちょいと時間がかかると帰ってこれないこともある』そうだ。


昨晩は、近所の子供だけでなく、大人も含めて食べ放題パーティーだった。

いっぱい買い込んだけど、この時代の人は食が細いみたい。


日暮れ前にやっと甚三郎さんが帰ってきた。

「すまねぇ!やっぱ忙しいみたいでよ!数日中には来るみてぇだ!」


ん~、これはどうなんだろ?

まぁ、来てくれるってことは中々の成果では??

できることは少ないけど、一歩ずつやらないと。

「ありがとうございます。」

「いいってことよ!とりあえず畑仕事いってくらぁっ!」



昨晩に引き続いて、食べ放題の晩御飯を終えて。

「みんなよく寝てますね。」

「まぁ、あんだけ食べることはないからねぇ…。

 ういさん、一杯どうだね?」

お登勢さんにお酒を勧められる。

どぶろくのような濁り酒だけど、断ってばかりはいられない。

『まぁ、お役人さんが来ないことには何も始まらないし…』

と、盃を受けつつ、食事を進める。

いい気分になりながらお登勢さんに問われる。


「んで、なんでこんなことしてんだい?」

「…、地震があるんですよ…、人が死ぬような…。」

答えるかどうか躊躇いつつ、本当のことを答える。


「地震って何だい?」

「あぁ、今で言う『地揺れ』ですよ~。おっきな~。」

なんかフワフワしてきた。


「なんかわかった風な口ぶりだね…。それはいつ起きるんだい?」

「…、嘉永7年6月15日、今年の6月15日ですよ~」

フラフラしながら答える。


「!!

 そいつはどこで!!」

「ここ、伊賀上野ですよぉ~っ。あと6日ですね~っ。」

っと、あぁ~っ…。

パタと倒れ寝てしまった…。



〈1954年7月3日〉

頭が痛い…。

昨日飲み過ぎたような…。

昨日何を話したっけ…。

記憶が抜け落ちている。

おそようございます今は、甚三郎さんは畑に行ったようで、てるちゃんも待ちかねて遊びに行ったそうです。


まだ少し二日酔いが残る中、顔を洗っていると地鳴りがする。

今日はまだ地震の日じゃないはず!

外に出てみると土煙を上げる馬に乗った一団が…。

何だろう、悪寒しか感じない…。


お登勢さんが私を呼び、家の影に隠してくれてた。

その間に、なんか軽鎧?を着た、どっかの漂う人たちが来た。

「この地に妙な術を使う南蛮娘がいると聞いた!

 知っておるものは答えぃっ!!」


あぁっ、あれは碌なことしない人のセリフだ。

お向かいさんが頷いて、逃げるようなジェスチャーをしてくれる。

巻き込んで申し訳ないけど、こっそり車(ショムニー)を出す。


「妙な術とはなんさね!そんなもん使えるならお会いしたいねっ!!

 そもそも誰のお下知ですかいっ!」

おぉ!お登勢さん怯んでない!かっこいい!


「かばい立てするなら容赦はせぬぞっ!」


あ、時代劇によく出てくる言葉、頂いちゃいました!

まずい!急いでエンジンをかけてっ!


注目を集めてしまったけど、

アクセルを踏み、畑の畝にバタつきながら全速力で我が家を目指す!

注意を集めるために少し離れて停車し、窓から一言。

「こっちへおいでぇー!!」

と精一杯の挑発をする。

現代の科学力、なめんなよっ!!

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