異世界冒険プロトコルブレイカー
Shiromfly
『第一話』
「あーあ、捕まっちゃった。エルシーズ、あんたのせいだからね。何が世界最強のダークドラゴンハンターよ。数々の仕事を完璧にこなすことで名を知られ、ちょっとイケメンだからって調子に乗ってるから、こうなるのよ。その黒髪をむしってやりたいわ」
――物語は、薄暗い地下牢に響く、可愛らしい女の愚痴から始まる。
微かに揺らめく蝋燭だけが照らす、じめじめした石の牢獄で、数人の男女の影が蠢いていた。ただし、囚われの身でありながらも、彼らの声色に悲壮感はない。
腕を頭に回して、つまらなそうに言う女魔導師に、黒髪の男が答えた。
「うるさいな。メルアリー。お前こそそのピンク色のロングヘアが綺麗でスレンダーな美女なだけだろ。国内最高の魔法偏差値を誇る魔導士学校をトップの成績で卒業した癖に、おっちょこちょいなところがあるから、失敗したんだ」
「二人とも黙れよ。仲が良いほど喧嘩するってか? お互いに密かな恋心を抱いていながら周囲にバレバレの反発するんじゃない。そんなのはまず、ここを脱出してからだ。プランはあるのか?」
もう一人の屈強な戦士の男が口を挟んだ。背中に大きなハンマーをしょっている。
「ほっほっほ、儂の持つ予言の水晶が未来を映し出しておる。案ずるでない、デガッド。これから看守が居眠りをする。その隙をついて石牢を破壊するのじゃ。あとは表に出ればもう一人の仲間が救出しに来てくれる。なーんの心配も要らないぞ」
緑色の巨大な三角帽子を被った老人が、威厳たっぷりに笑っていた。
「ははは、ギダルフじいさんがそう言うなら間違いないな。三百年も妖精界で修行を積んだ仙人だし、大妖精大女王から賜ったその水晶の的中率はなんと185.5%。どんなピンチでも事前に察知して的確な指示を下してくれる……流石だぜ」
「ぐうー」
「看守が寝た! 今だッ!!」
「深淵から現れし闇の邪神よ力を貸したまえ! ダークストーン!……さあ、これで鉄柵が弱まったわ!」
「さすがだぜメルアリー。これですぐに壊せる! この程度の牢で俺達を捕まえようなんて甘いぜぇ!」
ガンガンガガガンガンガガガンガンガン!!
……ガンガン!
ガン!
「――ちくしょう、ただの鉄柵じゃない。まさか邪神皇帝が特殊な呪いをかけているのか? それは多くの民の血を使って作った巨大な魔法陣から呼び出した邪神の力を利用した呪いの一部で、今の俺達には突破できないのかも」
「いいや! もうちょっと叩いてみるんだ!」
「いけた! ありがとうデーカー。さすが元大工の戦士! 妻と子を始めとし、いとこやはとこ、更にはペットの金魚に至るまで一族郎党を皆殺しにされた時に覚醒した能力『破壊に関するあらゆる知識』がこの間の魔貴族の館をぶっ壊した時みたいに、役に立ったな! それは大工という創造の力のダークサイド。まさにダーク大工の力……!」
「それじゃあ脱出よ!」
エリシーズ、メルアリー、ギダルフ、デガッドの四人は、暗い石牢から見事に脱出し。松明がかかる石壁の廊下を駆け出した――!
――――――――
「……なんだコレ……」
ぼくは絶句した。物語の作り方に詳しいワケじゃないけどこれはあまりにもヒドい。台詞で色んなことを説明するのは駄目だよね、とはよく言うけど、本当にマジで全部台詞で言ってんじゃん。判り易いけど。
まずさあ、捕まってんのに服や装備が全部そのままっておかしいでしょ。普通牢屋に叩き込むなら服装も所持品も色々確認するだろうが。作者は捕まったことねえのか? 普通はねえか。でもちょっとくらい調べる気概を持て。しかもだ、律儀に全員を同じ場所に閉じ込めてるもんだから、堂々と脱出の打ち合わせしてんじゃねえかこいつら。看守は絶対聞いてただろ、止めろよお前。何がダークドラゴンハンターだ。とりあえずダークを付ければ何とかなるってもんじゃないぞ。
ギダルフ? ってジジイが予言っぽいことを言っている。普通はもうちょっと曖昧な、比喩で言うような感じでやらない? なんだか今後の展開をそのまま言ってる気がするんだけど。もしそのまんまだったらキレるよぼく。いやこれはそう思わせておいて予想外のことが起きるんだよきっと。いや待てやっぱりおかしい、捕まってるんだからそういうのは没収しておくべきだよやっぱり。ムキムキの男はハンマーしょってるし。てか的中率185.5%の予言て何よ。一回当たってそのあともう一度当たるってこと? つーかそんなのがあるならそもそも捕まってないでしょ。だいたい誰に捕まってんのこいつら。
うわ、ダークストーン。いきなり出た。なんかエフェクトの表現とかもうちょっと色々と頑張らない? こういうのって。え、物理的にぶつけて壊すの? ちょ、え……? すごい音してる、看守起きちゃう。それならなら看守が寝るまで待った意味ない。あと、えーと、ほら、デガッド? のハンマーの方が強そう。
んで、ダーク大工って語呂悪すぎでしょ……。
あ、脱出した。そんで終わった。
どうしよう。続きを読むべきだろうか。
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